とある夏の雨の日
第二作です。稚拙な文章と内容ではありますがお付き合いいただけると幸いです。
短編、とある雨の日を読んでから読むことをお勧めします。
下校時刻に降り始め、だんだん強くなってきた雨。その雨を私は昇降口から何となく眺めていた。
「雨といい、先生の用事といい、まるであの時みたいね」
あの冬の日から彼との交流が始まって、いくつか季節が変わって進級してもそれは続いている。
変わったのは、私と彼の関係だ。
クラスメートから友達になったからなのか、隣に居るのが当たり前になった。
今も隣にいて、雨を眺めている彼に私は話しかける。
「ねえ、傘持ってる?」
「ああ。心配要らないぞ。そっちはどうなんだ?」
「私も同じよ。実はあの日から折り畳み傘を持ち歩くようにしてるの。あの時のあなたや私みたいに、傘を忘れて困っている人がいるかもしれないから」
「本当に似たもの同士だな。俺も同じだ。まあ、今は居ないみたいだけどな」
彼の言うとおりで、周囲に私達以外の生徒の姿は無い。
それなら一緒に帰りましょうか、と言おうとしてふと一年生や三年生が残っているかもしれないことに気付く。
別に気にしなくてもいいと思うけど、気になってしまったら無視は出来ない。
(こういうところが、真面目すぎるって言われるところよね)
自身の考えに苦笑しながら彼に提案してみた。
「ねえ、誰か残ってるか見回りしてから帰らない?」
「おい、誰か居るかも知れないから探してから帰るぞ」
私の発した言葉は彼のものと重なった。
なんだ、同じこと考えてたのね。じゃあそうするしかないわよね。
「同意見だな。よし、行ってみるか」
「そうね。手分けして探す?」
「いや、わざわざ別れる必要ないだろう。三年の方から見に行くぞ」
「わかったわ」
彼と二人、ほとんど人の気配のしない廊下を歩き、三年生が使う昇降口まで移動した。
その間会話は無かったけど、私も彼もそこまでおしゃべりじゃないので、沈黙も気まずく無い。
そのまま無言で人を探したけど、少なくともここにはいないみたいだった。
「誰も居ないわね」
「そうだな。なら一年の方に行こう。ところでもし二人以上居たらどうする?」
「三人以上なら先生に頼んで送って貰うわ。二人ならその二人の帰る方向次第ね」
あまり教師をタクシー代わりに使うのはよろしくないので、折り畳み傘二つでなるべく多くの人が帰れるような選択肢を選びたい。
一年生の昇降口に辿り着くと、微かに話し声がする。この時点で誰か残っていて、それが一人で無いことがわかった。
「傘持ってる?」
「持ってないですね~」
「どうしよう?」
「どうしましょう~?」
探してみるとそこには、雨を眺め困ってそうな男女の姿があった。
いや、困っているのだろうか?
彼もそう感じたのか、私に確認してくる。
「あれ、困っていると思うか?」
「悩むけど、多分困ってると思う。ちょっと話しかけてみるわね」
「頼む」
女性の方がまだ警戒されないだろうと考え、私が下級生二人に話しかけることにした。
「ねえ、あなたたち大丈夫かしら?」
「えっと、あなたは?」
「通りすがりのお人好しよ。困ってるなら傘、貸してあげるけど要るかしら?」
「あっ、お願いします~」
どうやら女子の方がよりのんびりした性格のようで、男子の方は多少しっかりした性格のようだった。
「一つで大丈夫ですよ。僕達の家、隣同士なので」
「そう? だったらこれでいいかしら?」
私の持っている折り畳み傘を渡す。二人とも小柄なので多分これで大丈夫だろう。
「ありがとうございます~」
「ありがとうございます」
「いいのよ。風邪引かないでね」
彼と下級生二人を見送ったあと、二年の昇降口に戻る。雨は相変わらず止む気配が無い。
「そういうわけで、悪いけどあなたの傘に入れてくれない?」
「貸して傘が無いんだろう? 送ってやるから俺の傘に入れ」
またしても似たような発言をする私達。もちろん発言通りに相合い傘で帰ることになった。
もちろんこんなことは初めてするけど、初々しい感じにならないのも私達らしいと言える。
「何って言うか、自然よね」
「そうだな。あんたが隣に居るのが当たり前になってきている。今さら離れるのも考えられないな。これからも側にいてくれ」
「あの、そういうことサラッと言うのやめてくれる? 私としては歓迎だし同意見だけど」
雨の日の下校中、何の前触れ無く告白ってどうなのよ?
「なら問題ないだろう」
「私だからいいけど、普通ムードとか考えるものなのよ?」
「あんた以外にするつもりは無いから、構わないだろう」
「だから、そういうことは考えて言って!」
ただでさえ暑いのに、もっと暑くなるじゃない! 当人は相変わらず表情変わらないし。
(私だけがこうなるのは不公平よね。あら、よく見ると彼の肩が濡れてるわ)
多分、私への心配りという奴だ。その不器用な優しさは嬉しい。でも見つけた以上無視は出来ない。
彼と肌が触れ合う程に寄り添う。
「おい、暑いぞ」
「肩、濡れてるわよ。気付かないと思った? これで風邪引いたら押しかけて看病するからそのつもりで。あなたも逆の立場ならそうするわよね?」
「その通りなだけに言い返せないな。仕方ないからこのまま帰るぞ」
「ええ」
そうして夏の雨の中、私と彼は比翼の鳥のようにして帰宅した。
お読みいただき、ありがとうございます。