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お嬢様との逃避行はこうして始まる

作者: 3馬身2分の1

お姫様とのお出かけを命じられた護衛兵は、知らないうちに誘拐犯に仕立て上げられていた。というおはなし。

建物の影に隠れると、追っ手の男が数名素通りしていくのが確認できた。

その後もしばらく様子を見ていたが、戻ってくる様子はない。

どうやらやり過ごしたようだった。

オーリアは吐息をついて暗闇に目をこらすと、先ほどまで連れていたエルシーアがきょとんとしていることが認識できた。


「お嬢様、どうやらわたしははめられたようです」


オーリアの言葉の意味が分からなかったのか、エルシーアは首をかしげた。


「どういうことですか?」

「つまり」

一呼吸置いた。


「わたしは、お嬢様を連れ出すように上司から言われたんです。王様の命令だと。そしてわたしは、指示通りに適当な場所を回っていた。ただ、それだけなんです。ところが……」


オーリアの言葉を遮るようにエルシーアが

「あたくしの誘拐犯として仕立て上げられた。ということですね」

オーリアは頷いた。


暗さにも目がだいぶん慣れたようだった。

闇の向こうでエルシーアは困惑したような瞳をオーリアに向けているのがわかった。


「居場所がばれていないのが本当に偶然でした。あの時、着替えをしていなかったら今頃捕まっていたでしょう」


出かけた先ではエルシーアがはしゃいでいた。


「あたくし、こんなお出かけしたことないわ。ちょっとばかりスリリングっていうのかしら!」


最初に行ったところが洋服屋だった。

エルシーアの服装はドレスというわけではなかったが、どちらかというと薄ピンクを基調としたフリルが目立つやや浮いた服装だった。

少しばかり目立つため服を購入したのであった。

その時オーリアはまさか自分も着替えをするとは思っていなかった。

自分なりにはカジュアルな服装で挑んでいるつもりではあったが、お姫様にはお気に召さなかったらしい。

エルシーアのコーディネートのもとファッションショーが行われた。

そしていくつかの候補から、オーリアが同意したものを今こうして着用している。

そのとき今まで着ていた服をどうしようかというはなしになり、ちょうど汽車に乗るからと駅の係員にあずけた。

その1時間後、同僚から指名手配されたという無線がかかってきた。

すぐに通信無線の電源を切った。

服に発信器を仕組んでいたのであろう。

問題はその発信器付きの洋服を交換したために誘拐犯にされたのか、それとも元々そういう計画だったのかということだった。

考えていると隣からふと声が聞こえた。


「そういえば、あなたわたくしを特別扱いしないのですね」

「いえ、していますが」


彼女はふふふと笑った。


「そりゃあ多少はあるでしょうけど、なんていうのかな他の人と違って媚びたところがないって言うか。あたくし……ああやめやめ。あたしと自分が楽しむために本気でデートをする気だったんでしょ? 媚びるとか関係無しに」


それを聞いてオーリアは笑いそうになった。

このお姫様はよく見ている。

媚びているいないというのは分からないが、オーリアは恋人がいないような人間であるため、今回は自分のためにも本気で楽しもうと意気込んでいたのは事実であった。

この会話がおかしいのかエルシーアの表情は少しばかり緊張感が解けているようだった。


「お嬢様は、お姫様よりもずっと占い師の方が向いているのかもしれないですね」

「エルシーアって呼んで」


突然、呼び方の話になりオーリアはなにを言えば良いか分からなくなった。

エルシーアの真剣なまなざしがオーリアを突いていた。


「お願い……」


懇願している。

オーリアはしばらく考え込んだが、

「わかりました。エルシーア」


「敬語も!」


「……はいはい。わかったよ。エルシーア」

いよいよ捕まるわけにはいかなくなった。


オーリアはそこではじめて暗闇のすぐ側にいるエルシーアを女として意識してしまいそうになっていた。

童顔に似合わず豊かな胸は、淡い赤のワンピース越しにもよくわかる。

長いつややかな髪が……。


オーリアは考えを打ち消した。

駄目だ。

一歩間違えば本当に処刑される。


「エルシーア。ちょっとした逃避行になるけど、よろしいですか?」


暗闇の中手をのばすと、彼女はそっと手を添えてきた。

「はい、お願いします」

オーリアは彼女を連れて街を出ることにした。

7年前に作っていた練習用の作品を蔵出ししました。

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