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第七話 絶対絶命!レオセヴン

「本当にこの辺りなのか?」

ゆらぎのなか、ノイヅが発生したと思われる場所でレオポンに問いかける。

「この辺のはずだポン。そっちこそ本当になにも感じないポン?」


ノイヅと戦い始めて一年余り、

近頃は変身していなくてもノイヅが現れるのを感じられる。

変身すればレオポンの予測計器よりも正確にノイヅの位置を特定できる、

……のだが、今回は全くノイヅの気配を感じ取れない。


「今回はハカセの予測が外れたんじゃ……」

と、言いかけた矢先――


――GuuuuuuuuuuuNNN!!!


突如背後から鳴り響く轟音。

とっさに振り返りつつ、動物的なカンで身体をのけぞらせる。


間一髪。


俺の頭を、身体から切り離すはずだったチェーンソーのような武器の刃は、

頬をかすめ、俺のフェイスマスクを半壊させただけで通り過ぎた。


「クソッ!!なんだってんだ!」


突如現れたノイヅから距離をとりつつ、思わず悪態をついてしまう。

声を発して気づいたが、フェイスマスクがやられて

元の美少女の顔が露出している上に、

ボイスチェンジャーが機能せず、声まで可憐な乙女のものに戻ってしまっていた。


「俺の顔にキズ跡が残ったりしたら絶対許さんからな!」


とはいえ、かなり厄介な相手だ。

今まで戦ってきたどのノイヅとも違う。

近頃のノイヅのようには言葉を発さず、

かといって知能が低いわけではなさそうだ。

黙々と正確無比にこちらに斬りかかってくる。


俺の肩口を狙って振り下ろされたチェーンソーの刃を脇に飛び退いてかわす。

が、今度は反対の腕が横薙ぎに来る。

それを避けている間に、また反対の腕が俺を八つ裂きにしようと振り下ろされる。

いつもなら、刃を手のひらでいなしたりするところだが、

チェーンソーのような刃が常に激しく回転しているので、刃に触れることもままならない。


俺にできるのは回避しつつ、悪態をつくことだけ。


「レオポン!ムーンストーンを……!」

光の剣があれば状況は少しは改善するだろうと、

ムーンストーンを持っているレオポンに向かって叫ぶ。


「わかったポン!!」

と、レオポンがストーンを取り出そうとした瞬間、


今の今まで俺を狙い続けていたノイヅが急に向きを変える。

ノイヅが向きを変えた理由に気づいたときにはもう遅かった。


ノイヅの手に付いたチェーンソーの様な腕が轟音とともに――



――レオポンをグシャグシャに引き裂いた。



「レオポン!!」


この一年、共に戦ってきた俺の相棒、そして私のお気に入りのキーホルダー。

想い出まで一緒に引き裂かれたようで、

俺は自分で思っている以上のショックを受けてしまったようだった。


レオポンを引き裂いた腕がそのまま回転して俺に向かってくる。


そして、それは俺の脇腹に食い込んだ。

盛大に火花が飛び散り、レオセヴンの装甲を削る。

「ーーーッ!」

思わず私本来の悲鳴がもれる。

身体を捻る様に回し蹴りを放ち、ノイヅを引き剥がして距離を取る。

装甲の裂け目から血が流れ出している。

ノイヅが、さながらタックルの格好でこちらに突っ込んでくる。

回避を試み、横にステップを踏もうとした瞬間、

それまで一切言葉を発していなかったノイヅが突然咆哮を上げた。

「ーーーーーーーーーーーーー!!」

まるで黒板を引っ掻いたような不快な高周波に、あろう事か一瞬怯んで、回避が遅れた。

ノイヅの腕に押し倒され、無様に仰向けに寝転ぶ形になった俺の眼前にチェーンソーが迫る。

もはや俺にできるのは、か弱い少女のように目をつぶる事だけだった。


――バキッ!!


金属がえぐれるような音があたりに鳴り響く、ただし、その音の主は俺ではなく――


――突如現れた鉄の塊のような武骨なパワードアーマーがノイヅとぶつかりあう音だった。


「ななみさん!大丈夫ですか!!」


パワードアーマー……レオセヴンの二倍はあろうかという

ゴリラのような巨体の中から可愛らしい女の子の声が聴こえてきた。


「君は?何故俺の正体を知っている?」


アイアンゴリラは慌てたようにわたわたと、小さく手を振る。

「あっ!ごめんなさい!いまはレオセヴンさんでしたよ…ねっ!」

彼女が言い終わるか終わらないかのうちに、

その声はチェーンソーが彼女の装甲を削る音でかき消された。

「もう!せっかく私がななみさんと喋ってるのに!」

見た目以上に相当装甲が厚いのか、肩をえぐり続けるチェーンソーをの刃を物ともせず、

ノイヅに鉄拳をお見舞いする。

相手の肩にチェーンソーが食い込んでいるせいで、身動きの取れないノイヅは

為す術なく鉄拳を受け続け、次第に動きを鈍らせてゆく。


ついに、チェーンソーの動きが止まったのを確認すると、

ノイヅを掴んで肩から引き抜き、空高く放り投げて、叫んだ。

「ななみさん!あとはお願いします!!」


その言葉を聞いた俺はなんとか立ち上がり、

右手でサンストーンを回転させ、エネルギーを開放させる。


ノイヅの落下地点めがけて走り出し――

――スライディング。

落ちてきたノイヅに全開放したエネルギーを乗せた蹴り上げをお見舞いする。


再び宙に舞ったノイヅが光りに包まれ消滅するのを確認すると、

俺はボロボロになったフェイスマスクを外して、命の恩人に向き直った。


「助かったよ。ありがとう。」


「……それで、キミは?」





「わたし、嬉しいんです。はじめてななみさんの力になれて……」


彼女は蜂羽翔子と名乗り、

テキパキと俺のキズの手当てをしながら話し始める。


その様子から俺はてっきり政府の関係者だと思っていたのだが……


「命の恩人だなんてそんな。私はあなたにもらった恩をほんのすこし返しただけです。」


彼女が言うには命の恩人は俺の方で、彼女の命は俺の為にあるそうだ。

なんだか一抹の恐怖を感じながら質問をする。

「どこかで会ったか?」


「ええ、ななみさんは偉大な方ですから。いろんな人を救ってますものね。

覚えてなくても無理はありません。だけど、私にとっては絶対に忘れられない瞬間でした」


突然現れた女の子が俺のことを崇拝していて、

しかもどうやら俺のことを隅々まで知っているような口ぶりで、

彼女が語ったのは次のような内容だった。


「私は、あの雨の日、心の中ではすでに死んでいました。

あとは身体をこの世から消し去るだけ。

そんな時に、私に救いの手を差し伸べてくれた人がいました。

死んだ私に救いの手を差し伸べる存在、そんな人を女神と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょう。


私はこの人の為に生きる。そう決めました。

そして、そのためにはその人のことをよく知らないといけない。

そう思って、ありとあらゆる手段を使ってその人のことを調べ、

まずは物質的なものをお返ししなければと思い、傘とタオルをお返ししました」


俺はここまで聞いて、思い出した。3年ほど前、まだ中学生の頃だ。

レオセヴンにもなっちゃいない。

土砂降りの日に橋の上でずぶ濡れになっている女の子に傘とタオルをあげた覚えがある。

後日、学校の俺の机の上に新品の傘とタオルが置かれていて不気味に思ったのを覚えている。


「ある日、いつものようになにか私にできることがないかと、

ななみさんの後ろの物陰で聞き耳を立てていたときのことです。


どこからともなくしゃべる人形が現れたと思うと、

ななみさんが屈強な戦士の姿に変身させられてしまったじゃないですか。

そしたら、ななみさんの姿が揺らめくように消えて、私はパニックに陥りましたが、

程なくして戻ってきたななみさんたちの会話から、この世界とは別の世界があること、

ノイヅという人類の敵が存在すること、


――そして、ななみさんだけが、それと戦えるということを知りました。


ならば私のやるべきことはたった一つです。

私もななみさんとともに戦う。戦えるようになる。ただそれだけです。

それから私は、幾度となくななみさんがゆらぎに入る瞬間を撮影し、

その映像を何千回も見直して、ゆらぎに入るコツみたいなものを身に着け、

私もゆらぎに出入りできるようになりました。


それからななみさんのスーツを模したパワードスーツの制作をはじめました。

二年間。研究を続けて、やっと完成したのがこれです」


これです。……ではない。


突っ込みどころが多すぎて、

レオセヴンに変身しているというのに、脳が処理しきれていない。


「ま、まあとにかく一旦ここを出よう。おかげでだいぶ体力も回復したから、

なんとか動けそうだ。あのスーツを着て出れるか?」


「いいえ、残念ながらバッテリー切れです。フル充電でもせいぜい3分ぐらいしか動けません……」

「そうなのか。まあ、外では目立つしな。一旦ここにおいておくのが懸命だろう」


……と、彼女、蜂羽翔子が俺の顔を惚けた様に見つめていることに気づいた。


「どうした。俺の顔になにかついているか」

さっきの戦闘でやはり顔にキズでもできたかと思ったが、

どうやら違うようだ。


「あ、ごめんなさい。その、やっぱり身体だけじゃなくて顔も成長するんですね。あの、その、とっても凛々しくて、美人です……」

今度は俺が惚けた顔になる番だった。

惚けるというより呆けるといったほうが適切な感情だったが。




変身を解除して、ゆらぎを出た私達のところに、一台のバンが停まっていた。


「ななみちゃん!無事だったのね!!」

バンから降りてきたのは諏合ハカセだった。


「レオポンの通信が途切れてから心配で心配で。

居ても立っても居られなくなって、ここで待ってたのよ。

ノイヅは倒せたの?……って、怪我してるじゃないの!!

とにかく、まずは病院にいきましょう」


というわけで、私はバンの後部座席に寝かされ、病院に運ばれることになった。

実は立ってるのもやっとだったから、正直、来てくれて助かったのよね。


「・・・ところで、その娘は?ゆらぎの被害者かしら?」


病院への道すがら、

私はハカセにレオポンが切り裂かれてから後に起こったことをかいつまんで話した。


そしたら、ハカセはお手製パワードスーツにすごく食いついて、

「是非見てみたいわね」

と、あやうく、今すぐ取りに行かされるところだった。


さらに、彼女がゆらぎに入れるって聞いたときには、

「あなた!ゆらぎに出入りできるの!?」

と、見たこともないようなテンションで、蜂羽さんを質問攻めにしていた。

「どうやるといわれても……」

「ただ、ななみさんのところに行きたい、力になりたいと、それだけを心から強く思うんです。」


「ふむふむ。想いの力ね……とすると力の源は、ななみちゃんと仮定して……」

なにやらブツブツいいながらシンキングタイムに入った。

どうでもいいけど、ちゃんと前見て運転してね……



病院での検査の結果は特に折れているところもなく、

キズもだいたいふさがってるそう。

ハカセいわく、身体の大きさが変化したことでキズや小さなヒビくらいは塞がる形になったんだとか。

とはいえ、また身体がおっきくなると傷口が開くらしいから、しばらくは変身厳禁と言われてしまった。

厳禁なんて言ったって、ノイヅが出たら戦えるのは私しかいないのにね。




後日、蜂羽さんのパワードスーツを回収した私達は研究所にある広めのガレージに集まっていた。

「すごいわね。このスーツ。よく独学でここまで作ったものだわ。」


ハカセは今日もまた目を輝かせて蜂羽さんを質問攻めにしている。

「動力源は?」「装甲の素材は何を使ってるの?」「アクチュエータの駆動方式は?」


……などなど。変身のできない私にはさっぱりでぼーっと聞き流すぐらいしかできない。


ほとんどの話は聞き流していたけど、

蜂羽さんの「動力源は家庭用のバッテリーです。」っていう回答に、


「えっ?あの家の裏とかにあるやつ?」


お湯沸かしたりとか、

車充電したりとかするでっかい蓄電池を思い浮かべて、

思わずハカセと蜂羽さんの会話に割って入ってしまった。


「このゴリラアーマー、どうりでバカでかくなるわけね。」

「ゴリラじゃないですよぉ!猫ちゃんです!」


曰く、ライオンのようなレオセヴンに対して、猫をモチーフにしたパワードスーツらしい。

たしかによく見ると、フェイスマスクにマジックで"ねこのひげ"が書いてある。

その名も”猫壱号”とのこと。


「それはさておき、おっきくなっちゃった理由はバッテリーだけじゃなくて。

ななみさん、アイアンマンって映画知ってます?」

「あー。みたことある。随分前にテレビでやってたような気がする。」

「私、研究の参考になるかと思ってパワードスーツが出てくる映画をいろいろ見漁ったんですよ。」


「それで、それのマーク1、試作機みたいなヤツが駆動部がむき出しだったためにやられちゃったのをみて、駆動部を覆い隠さなきゃとおもって装甲を足していくうちにどんどんおっきくなっていっちゃって」


「はあ。」


正直、はあ。以外の言葉がでてこなかったんだけど、ハカセはそうじゃなかったみたいで、


「わかるわ。マーク1は科学的によく考察された形状をしているわよね。あれは現代の技術でも十分作成可能よね。駆動部装甲の強化はなかなかいい着眼点よ。ただ、それをするならー」


そんなかんじで、二人して大盛り上がり。

なんかふたりとも若干早口で流れるようにしゃべるから、正直ほとんど聞き取れなかった。



しばらくすると、ハカセがスーツの分解に入ったので、

手が空いたのか、蜂羽さんが私の隣に来た。


「蜂羽さん、改めてお礼を言うわ。

なにはともあれ、あのスーツとあなたのおかげで命拾いしたからね」


ところが、なんだか蜂羽さんは暗い顔をしている。

「でも、ごめんなさい。レオポンさんのことは……間に合わなくて……」


なるほど。レオポンが死んじゃったと思ってるわけね。

そりゃ、お気にのキーホルダーがなくなってショックだったけど、そこまで思い詰めることじゃない。

だからつとめて明るく真実をつたえる。


「なんだ。そんなこと気にしてたの?レオポンはただの通信端末よ。中の人ならそこでピンピンしてるわ」

と、ハカセを指差す。


「……えっ。えー!」

ガレージに響き渡るような大声を上げて驚く翔子。


「じゃ、じゃあ、あの、いい年したおばさんが裏声でポンポンいってたんですか!?」

「やめてあげて」


年上の研究者よりも、しゃべるぬいぐるみのほうが話しやすいだろうってことで、

これまでハカセは、外ではレオポンとして私と接してくれてた。


おかげで、レオセヴンのことを誰にも話せないストレスっていうのはだいぶん軽くなってたと思う。

だけど、そこにレオセヴンのことを知ってる(ついでに私のことも知りすぎてて怖いくらいだけど)

同年代の女の子が現れたからか、

ハカセも、「もうあなたにはレオポンは必要ないわね」と言って普通の通信端末をくれた。


「でも、レオポンがいなくなって、すこし寂しい」

と、何の気なしにつぶやいたら、

「こんどは私がななみさんのサポートをします!もう一生寂しいなんて言わせません!!」

とのこと。



それからさらに数週間。私の傷もすっかり完治したころ、

私はまたハカセに呼び出されて、研究所に来ていた。

どうやら蜂羽さんはしばらく研究所に寝泊まりしていたらしい。

ハカセと何やら話し込んでる。


「あ!ななみさん!」

私に気づいた蜂羽さんはまるで飢えたハムスターのようにこちらに駆け寄ってきた。

ちょっとこわい。

「お久しぶりですななみさん!もう寂しくて寂しくて……ここ、電波入らないから……」


「蜂羽さん――」

と、私が呼びかけるのを当の蜂羽さんが遮る。


「あの、ななみさん、私のことは翔子って気軽に呼び捨てにしてください。

もう私はあなたのものなんですから」


「……。それに関してはすこーし話し合ったほうが良さそうだけど、呼んでほしいならそう呼ぶ」


「で、翔子。なんで私はここに呼び出されたの?」

ご要望どおり呼び捨てにすると、翔子は恍惚の表情を浮かべた後、ぶるっと身震いをして、

心底嬉しそうに本題に入った。


「実はハカセに協力してもらって、

レオセヴンの技術を応用して猫壱号スーツを一から設計し直したんです!」 

と、翔子が指さした先には、車……みたいなものが停まっていた。


見た感じ、レーシングカーとトラックがくっついたみたいなヘンな物体。


「なにあれ。」

おもわず率直な感想が口からでた。


「あれはフォーミュラカーゴ。あなた達の新しい移動手段よ」

そう言いながら現れたのは、ちかごろ常にウキウキしている様子のハカセ。


「ななみちゃんのおかげで、今期は開発予算がたっぷりおりたのよ。」

「それにしてはチープな感じだけど」

どうみてもたっぷり予算が使われてる感じの見た目じゃない。


「ま。実際のところ、ほかの部署で払い下げられたF1カーと、

余ってたトラックを改造してくっつけただけだからね。

フォーミュラカーにカーゴトラックをくっつけたからフォーミュラカーゴ」

我ながらいい名前でしょ、とハカセが両手をひらひらさせながら笑う。


「じゃあその予算とやらはどこへ消えたのよ」

私がそう尋ねると、


ハカセが満を持して、といった面持ちで

「そのトラックの中身よ」

と、言いながらゲテモノトラック……フォーミュラカーゴにリモコンのようなものをかざすと、

コンテナ状の荷台の扉が開き、ステップが降りてきて、照明がつく。


おもわず中を覗き込むと、

コンテナの中にはたくさんのアームが取り付けられていて、

その先には銀色の鎧がパーツごとにバラバラになってくっついていた。


「これこそが!ななみさんと一緒に戦う為に新設計したパワードスーツ!」

翔子が待ってましたと、声を上げる。


「その名も猫弐号です!」

猫壱号の次に開発されたから猫弐号。なんのひねりもなくて逆にびっくりだわ。


まだパーツに分けられているから全体像はわからないけど、

前のアイアンゴリラよりはスッキリしているように見える。


「どうやって装着するのこれ?」

至極当然の疑問を口に出すと、

翔子とハカセがよくぞきいてくれました。

といった表情でお互いにうなずきあってる。


「これをみてください!」


そういう翔子が上着の前のボタンをサッと開けると、翔子の腰には、

私のセヴンバックルとはまた違った形状のベルトが巻かれていた。

バックルの部分、セヴンバックルで言うところのサンストーンがはまってる部分には

”I”の字型のガチャガチャマシーンのハンドルみたいなのがついてる。


「宇宙船のエアロックとかがモチーフなんですけどね。これはターゲットバックルといって、この正面についたサークルレバーを半回転させると、このバックルを中心に装着者の体格スキャニングを行い、猫弐号アーマーを自動着装します。」

そう早口でまくしたてながらコンテナの前に移動した翔子は、

ステップの上に立って、おもむろにハンドル……サークルレバーに手を掛けて、


「獣同!!」


なにやらカッコイイフレーズを叫んでサークルレバーを回転させた。


すると、バックルから機械音声が流れて、四隅がチカチカ光り始めた。

《SCANNING!!》《SUCCESS!!》《ALL READY!!》

やたらとにぎやかな待機音声が鳴り響く。これは絶対にハカセの趣味ね。

私のベルトも最初こんな感じだったもの。消してもらったけど。


そうこうしているうちに、フォーミュラカーゴのコンテナの中から

たくさんのアームが伸びてきて、翔子にアーマーを装着してゆく。


「猫弐号!獣同完了!!」


ビシッっとポーズを決める翔子。

後ろに背負ったでっかいバッテリーらしきものが目につくけど、

それ以外はかなりスリムになっていて、

女性らしいフォルムを強調しながらカッコイイよりのデザインで、

たしかに猫の名前にふさわしい感じだった。


頭にはネコ耳までついてるし。


筋骨隆々って感じのゴツゴツした私のレオセヴンアーマーとは大違いだ。


「と、こんな感じです。どうですかななみさん!!」

サークルレバーを逆回転させて、

装着したアーマーを再びアームに回収させながら翔子が感想をうながしてくる。


「うん。いいんじゃない?」

「ありがとうございます!!これでななみさんと一緒に戦えますね!!」


「……ん?まって。これからずっと一緒に戦う感じ?」

実は薄々そんな気はしてたけども。


「えー!なんですか今更!!」

当然のように反論する翔子。


「え、いや、だって、私はいいけど、

いいの?こんな得体の知れない人、仲間にしちゃって」

と、ハカセにきく。

まあ、私も悪い娘ではないとは思ってるんだけど、

しれっと、秘密にしてたこととか知ってるし、

今までの出来事とか話してなくても通じるし。ちょっと怖いとこあるわよ。


「身辺については調査部が調べて、問題ないという結果がでてるわ。」

「それに、もともと、ななみちゃんをサポートする人材は探していたところだったのよ。」


活躍は表に出ず、しかも敵は自分の力では倒せない。

そんなだれもやりたがらない仕事に、

仕事道具持参でやる気満々現れたら、断る理由はないってわけらしい。


「それでですね、ななみさん」

翔子が、深刻そうな顔でこちらをみるから、何事かと思って身構えていると、


「ななみさん、変身するときに『チェンジ!!』って叫んでますよね」

……どうやらどうでもいい話っぽい。


「私、おもうんですよ。もっとななみさんに、

レオセヴンさんにふさわしい掛け声があるんじゃないかって!」


「ふぅん。たとえば?」

ほんとにどうでもいい話だったけど、一応聞いてあげる。

本人が真剣なんだから無下にしちゃかわいそうよね。


「はい!!実はもう考えてあるんですよ!!」

翔子は、なにやらノートを取り出すと、すごい勢いでページをめくりはじめた。

どうやらノートにびっしり変身の掛け声候補が書き込まれているようだった。


「うーん……こっちとも迷うんだけど……やっぱりこっちかな~

これ!!これが一番オススメです!どうですか!!」


翔子が指さした場所には意外とかわいいマル文字で

『獣装超人レオセヴン』『変身の掛け声:獣装』と書かれていた。


さらにその下には、獣装の由来とか、意味するところとかがずらずらと書き込まれている。

もしかしてこれ、全部のページにあるのかしら……


「……うん。いいんじゃない?」

なかば投げやり気味に言ったけれど、翔子には伝わらず。


「ほんとですか!!

じゃあ!じゃあ!一緒に変身ポーズやってもらっていいですか!!」


「えぇ~……」と、思わず声が漏れる。

でも、期待の眼差しってやつに弱いのよね私……


結局、ポーズだけってことで、一緒にやることに……


二人で横に並んで立つ。

「それじゃあ、やるわよ」

「はい!!お願いします!!」


私は、ふっ!と、ベルトを腰に巻く仕草をしてから、

手を高く掲げてすこしオーバーな動きでベルトにサンストーンをセットする動作をした。

どっちも特撮番組の影響。

同時に翔子も、さっきはやってなかった”変身ポーズ”を取ってる。

私とタイミングを合わせるためかな?

どうも、私と対になるような動きをしてる感じだ。


そして、同時に叫ぶ。


「獣装!レオセヴン!!」

「獣同!猫弐号!!」



「――わぁー!感激ですぅ!!ずっと夢だったんですよ!ななみさんとの同時変身!!」

ポーズだけだけどね。


まあ、近い内に実際にやるハメになるだろうけど。

しかし、初めてなのに息ぴったりで、ここまでくるといっそ感心するわ。


「そういえば、翔子の掛け声は違うのね。どういう意味なの?」


「はい!私の『獣同』っていうのは、ケモノとおなじになる。ここでいうケモノとはレオセヴンさんのことで、つまるところ、ななみさんとひとつになって獣のように――


「あ、ごめんね。聞いた私が悪かったわ。」



一緒に出撃する日が楽しみです!と、はしゃいでいる翔子を横目に、

遊んでるんじゃないんだけどなぁとは思うんだけれど、


獣装超人レオセヴンとその相棒、猫弐号……ま、悪くないかもね。


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