幕間 蜂羽翔子
私はいつも独り。
小学校でも独り。
両親は早くに亡くなって、お金持ちの叔母さんに引き取られたけど、
叔母さんは私のことを好きじゃない。
中学生になって、私は家を与えられて、一人暮らし。
お金だけが毎月送られてくる。
だけど、趣味もない。友達もいない私には必要無いものだった。
だって、「楽しいもの」がないから。
だって、何が「楽しいもの」なのか誰も教えてくれなかったから。
中学生活、何か変わるかもと思って1年過ごしたけれど、やっぱり独り。
クラスのみんなは両親のいない私を気遣って距離を置いてくれている。
たまに話しかけてくる子がいても、価値観が違いすぎて、会話が噛み合わない。
面白いことはない。それどころか、嫌なことだけ増えていく。
生きる目的のない私には生きる意味なんてない。
きっとこのまま独りで一生を無為に過ごすのだろう。
ヤだな。
――今日、傘を忘れた。
私は賭けをすることにした。
もし、今日このまま傘が必要なかったら。
まだ、世界は私を必要としてくれている、そう思える気がした。
でも、もし。
帰りに雨が降っていたら。
此処からいなくなろう。
そう思った。
授業が終わり、
教室をでて、
校舎の入り口で靴をはく。
まだ空は見えない。
扉をくぐる。
――外は雨だった。
もう生きなくてすむ。
そう思うと気楽なものだった。
雨に打たれながらゆっくり歩く。
いつもの通学路には橋があって、大きな川が流れている。
その場所へ、私の人生の終着点へ向かってゆっくり歩く。
ゴールが近づくにつれて、
水を吸って重くなる制服とは対称的に足取りは軽くなっていく。
とうとう橋の真ん中まで来た。
川はいつもより水かさが増して、流れも速くなっていた。
これなら”失敗”はしないだろう。
橋のてすりを乗り越えるために勢いをつけようと、少し後ろに下がった時に、
ふと、
「死んでも独りだ」
と思ってしまった。
さっきまで軽かった足が急に重くなる。
ヤだな。
「――ねぇ!大丈夫?傘忘れたの?」
その日、その時、その瞬間、
私の人生は、私のものじゃなくなった。
まさに運命の出会いだった。
「あのひと」は見ず知らずの私に傘とタオルをくれて、
颯爽と去っていった。
私が「あのひと」からもらったのは傘とタオルだけじゃない。
生きる意味、新しい人生だった。
私は「あのひと」のために全てを捧げて生きる。そう決めた。
「あのひと」の為に生きる。その為にまずは「あのひと」の事を知らなければ。