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第三話 誕生!レオセヴン

 私は優桐ななみ。大洋高校の2年生。

どこにでもいる普通の女子校生―――

のハズだったんだけど、私には誰にも言えない秘密があるの。


「ねぇ、きいた?『カイジン』の話。」

「えー?なにそれ?」

「なんか、一人で歩いてると、急に現れて、人を食べちゃうんだって……」

「えー?なにそれ(笑)」


隣の席にあつまった同級生たちがうわさ話をしている。

私も会話に入ろうと思えば入れたけど、心当たりのある内容だけに、

うかつなことを言えず、ケイタイをいじるふりをしながら、聞き耳をたてていた。


「食べられちゃうんだったら、どっからそんな話でてきたのよ。」

「それがね、食べられる前に必ず正義のヒーローが現れて助けてくれるんだって」


「……はい。解散。」

「あーちょっと!ホントらしいんだって!」

「小学生にでもきいたの?」

「実際にC組の獅子島って男子が助けられたらしいんだって!」

「また適当なこと言って。」


適当なことじゃないって私は知ってる。でも何も言えない。

なぜなら実は、私が正義のヒーロー、レオセヴンその人なのだ!

このまえ獅子島くんを助けたのもワタシ。


ずっと憧れてて、話しかけるのもためらってた同級生男の子が

怪人―ノイヅ―に襲われててレオセヴンに変身してるのに思わず名前を呼んじゃった。

私の正体に気づいてないといいけど……

でもやっぱり獅子島くんはカッコいい。私が到着するまでに女の子をかばって逃してたみたいだし。

さっすが私の憧れ獅子島くんだよ。


だけど、この町にレオセヴンの噂が流れ始めるなんて……

私がレオセヴンとしてノイヅと戦い始めて1年以上たったけれど、

この町にノイズが現れたのは初めてじゃないかな。


……ううん、そういえば。最初の最初に戦ったときはこの町だった。

あれは中学の卒業がもうすぐって時期だった。

思えば最初は騙されてヒーローになったんだった――




 ――「うう~さぶい~~~。どうしてこんなにさむいのぉ~~」

中学校の帰り道、私があまりの寒さにぶーたれると、親友のチエにゃんこと、沙苗(さびょう)チエがいつものニヤニヤ笑いを浮かべながら、あきれたように言った。


「ほんと、ななみは寒がりね。仕方ないでしょうが冬なんだから。」

「この世にはねぇ、『仕方がないこと』で片付けてはいけない問題があるって先生いってた。」

「この問題は片付けてもいい方よ。」


そんなやりとりをしているうちにいつもの交差点についた。


「それじゃあ、また明日ね。」

そういって、チエにゃんと別れてからしばらく歩いたところで、



「―――やぁっと見つけたポン!」


空から声が降ってきた。

ううん。声だけじゃなくて、トラ?のぬいぐるみも降ってきた。


「やあ!ボクはレオポン!ボクと一緒に世界を救ってほしいんだ!」


「あ、結構です。」

なんだかわかんないけど、かかわんない方が良さそう。

私がスルーして通り過ぎようとしたら、慌てた感じで呼び止められた。


「あー!まってまって!キミ、変身したくない?」


正直、アヤシイ喋るヌイグルミに何を言われても立ち止まるつもりはなかったけど、

たまたま、昨日の日曜日の朝に

プリティでキュートなカンジのアニメをチラっと観ちゃってて、

「変身」ってコトバにうっかり反応しちゃった。


「……変身って、日曜日の朝やってるやつみたいな?」


「そう!日曜日の朝にやってるヤツみたいな感じに変身できるポン!」


「背とか髪の毛も伸びる?」


「もちろん!グングン伸びるポン!

キミには素質があるんだポン!キミにしか変身できないんだポン!」


ここぞとばかりに怒涛の勢いで頼み込まれちゃって、


「じゃ、じゃあ変身してみるだけね。世界とか知らないからね。」

「オーケー!とりあえずそれでいいポン!」


気がつくと手に太陽みたいな形の宝石を握らされてた。


「そのサンストーンを太陽にかざしてみるポン!」


宝石で変身するなんてますますプリティでキュートね。

そんなことを呟きながら、

内心とってもウキウキして言われた通りに宝石を太陽にかざしてみる。

すると、なんだか身体の中からあったかくなってきて、

不思議な力が湧いてくるのを感じた。


「ゆっくり右におろしてー」

「そのままおへその辺りに持ってきてー」


レオポンに言われるままにサンストーンを動かす。


「さあ!それをベルトのバックルにセットするポン!」


―え?ベルト?…と思った時にはもう遅かった。

私の腰にゴテゴテしたベルト…

―そう、日曜日の朝にやってる「特撮」みたいな見た目のベルトがいつの間にか着けられていて、

そこにサンストーンがカチリと音を立ててハマり、

突然ベルトから鳴り出した軽快なBGMとともに私の身体は光に包まれた―――



―――そして俺、優桐ななみはレオセヴンに変身した。


「騙された……」

「騙してないポン。日曜日の朝の番組みたいに変身したし、背も髪も伸びたポン」


確かに、如何にも特撮ヒーローといった出で立ちだ。

全身が金色の鎧で覆われて、背も成人男性の平均以上はあるだろう。

髪…というよりもタテガミに近いものが首筋から伸びている。


「いや、しかしそんなことよりもっと気になることがある。

何というか、上手く言えないが、俺は今までと変わらず、

いつもどおり()()()()()のつもりだが、いつもよりも頭が回るというか、

いつもなら自分はこう考えるだろうと思いながらも、それとは違う考え方をしている気がするんだ。」


「じつは、レオセヴンに変身すると副作用で脳の一部が変質することがわかっているポン。」

虎のぬいぐるみのレオポンが悪びれずに言う。

「おそらくその影響で人格に影響がでたんだポン。大丈夫。変身をとけば元に戻るポン。」


成る程、優桐ななみの記憶を有してはいるが、

脳の構造が変わっているために普段の優桐ななみとは違う思考をしているということか。

……はたして、それは本当に同一人物と言えるのだろうか。


「しかし、自分でいうのもなんだが、

普段の俺はこんなに頭が良くない。普段の俺が知らないような単語が出てくるのは何故だ?」


「それはおそらく、脳の記憶領域へのアクセス権の問題だポン。

最近の研究で人の脳は一度見たり聞いたりした事を全て記憶している事が分かっているポン。

忘れるというのはただ、その情報にアクセスできないだけで脳の何処かには眠っているポン」


「つまり、俺は今、今までにただ聞き流していたような単語や

1度目にしただけの情報を体系付けて知識としているという事だな。」


「確かなことはいえないポン。けど、それがもっとも――」

「まて、何か来る」


レオポンの返答を遮って身構える。

―――タテガミの辺りがザワザワする。

それが何かが後ろから近づいて来ている感覚なのだと理解したのだ。


「ノイヅだポン」

「ノイヅ?」


「そう、キミはアレと戦うために変身したんだポン」


レオポンがそう言い終わらないうちに、

俺の目の前に何らかの生き物がぐちゃぐちゃに混ざり合ったような怪物が現れた。

特定の生き物は見出せず、動物のようにも海洋生物のようにも見える。


これが、ノイヅ……


と、ノイヅが声を発した。

声といっても内容があるわけでは無く、咆哮のようでもあった。


―――Gyuooooooo!!


ただし、そこには明確な敵意が感じられた。


身構える俺に飛びかかってくるノイヅ。

反射的に身体が動いた。

横にステップを踏んで、回り込むように避けると同時に

チョップを繰り出してノイヅを地面に叩きつけた。


ベチャっという水分を含んだ様な音で地面に張り付いた―


―…が、地面に張り付いたまま、滑るように移動して俺から離れてゆく。


そして、ある程度距離をとると、

再び起き上がり、同じように飛びかかってきた。

ノイヅの飛びかかりをバックステップで回避し、着地の隙をついて回し蹴りで壁に叩きつける。


「こいつ、もしかして知能はそんなに高くないのか?」

「そうなんだポン。でも、物理攻撃がほとんど効かないんだポン」


ノイヅが三たび飛びかかってくるのをかわしながらレオポンに尋ねる。


「じゃあどうやって倒せばいいんだ!」


俺の問いかけに、

レオポンは何処からともなく三日月をかたどったような宝石を取り出した。


「これを使うポン!」


「最初から出せ!!」


レオポンから宝石を奪い取って尋ねる。

「で、どうやってつかうんだ!」


「バックルの左上にスイッチがあるポン!」


確かに、バックルの左手側にスイッチがある。

そのスイッチを押すとベルト中央のサンストーンがハマっている場所の隣にあったカバーが開き、

カバーの裏にコネクタのような物が現れた。


ここまでくれば言われなくても何となくわかる。


太陽の宝石がサンストーンなら

こいつは恐らくルナストーンだろう。


右手でコネクタにルナストーンをセットし、

サンストーンに近づけるように左手でカバーをスライドさせると、

バチっという音がしてエネルギーバスが繋がったのを感じる。


「あとはサンストーンを回転させるんだポン!」


サンストーンに手をかけ、円を描くようにゆっくり回転させていると、

ゼンマイを巻いているように次第に手応えが増してゆく。

ある程度回したところで手を離すと、勢いよくサンストーンが逆回転を始めた。


まるで噛み合った歯車のようにルナストーンも連動して回転を始め、

それに伴って俺のアーマーが変形する。

腕や脚、躰の側部など、

全身のアーマーの繋ぎ目が左右に広がるように開き、

ベルトから続く一本の線を形成した。


そこへ、ルナストーンから生まれたエネルギーが、銀の光となって流れ込む。


その光が頭部まで達し、深紅だったタテガミが銀色に染まったとき、

新たな力が全身に行き渡ったのを感じ、溢れるエネルギーに体を抑えきれず、思わず咆哮した。


―――ウォオオオオオ!!


間合いを図るかのように俺の周りをうろついていたノイヅが、俺の咆哮に怯んで距離をとる。


「すごいポン。ルナフォームの負荷にも耐えられるなんて。やっぱり彼女しかいないポン」


またノイヅが飛びかかってくる前に、こちらから仕掛ける。

地面を蹴り、ノイヅに向かって一直線に跳ぶ。


サンストーンだけの時よりも格段にスピードが上がっている。

そのままジャンプの勢いを載せて、ノイヅに正拳突きをお見舞いする。


凄まじい勢いで道向こうの壁に叩きつけられるノイヅ。


「いまだポン!トドメを刺すポン!ルナフォームはシルバーエネルギーを自由に操れるポン!」


「つまり!こういうことだろう!?」

手に意識を集中し、シルバーエネルギーとやらで光の剣を形成する。


起き上がったノイヅが、ボロボロになりながら、

バカの一つ覚えのようにこちらに飛びかかってくる。


「残念だが、コイツで終わりだ」


光の剣を振りかぶり、飛びかかってきたノイヅを空中で両断する。


―――GyhaOAAAAAA!!


何事か叫びながら真っ二つになったノイヅは、全身が発光し、弾けて消え去った。


「やったポン!イコライズ完了だポン!!」

「やれやれ、終わったか。……で、どうやったら元の姿に戻れるんだ?」


レオポンに言われた通り、サンストーンをバックルから取り外すと、

アーマーが粒子状に消え去り、元のカワイイ女の子の姿に戻った。


その瞬間、まるで、なんだっけ、そう、夢。夢をみて起きたときみたいな感じになって、さっきまで頭にうかんでたコトバがでてこない。

知ってるハズなのに、名前が出てこないときのあの感じがしてなんだかモヤモヤする。

――でもまあいいや。そのうち思い出すでしょ。


「さすが私ね!ノイヅ……だっけ?倒しちゃったもん!これで世界は平和になったんでしょ?」


「残念だけど、あれは最初の一体だポン」

「えっ!?どういうこと?」


「わた…博士の研究によれば、数ヶ月以内に新たなノイヅが生まれる可能性はほぼ100パーセントだポン」

「えー!?じゃあずっと倒し続けないといけないってこと?」


「ノイヅの発生メカニズムとその対処方法が確立するまで。だポン。」

「私はイヤだからね。もうすぐ高校受験だし。それにアレでしょ?報酬はみんなの笑顔とかでしょ?」


「おっと。報酬ならでるポン。

毎日外食しても困らないくらいの金額のお給料だポン。

もちろんノイヅが出なくても所属してくれるだけで毎月支払われるポン。

それに、もし君が望むなら高校や大学に推薦してあげることもできるポン」


「えっ?えっ?どういうこと?所属ってなに?部活かなんかなの?」


「説明が遅くなったポン。我々は政府機関『超常現象研究対策機構』だポン」

「ぜんっ然わかんないんだけど」


「とにかく一度研究所まできて欲しいポン。詳しいことはそこで博士が話してくれるポン」



そうして私、優桐ななみは、そのままよくわからないうちに世界の平和を託されて、

レオセヴンとして戦うことになったのだった。

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