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第二話 レオセヴンの秘密


 俺は獅子島(ししじま)ユウキ。大洋(たいよう)高校の2年生だ。

どこにでもいる普通の男子高校生―――だと良かったんだけど、

俺には誰にも言えない秘密があるんだ―


「クッ・・・このままでは・・・」

俺は今、最大のピンチを迎えていた―――


そう、俺は今、猛烈にトイレを我慢しているのだ。


授業中に行けばよかったものを、言い出すタイミングを逃した。

休み時間にトイレに入るところをみられようものなら確実にからかわれる。


移動教室のタイミングでなんとか友人を上手くあしらって

人気の少ない特別教室棟最上階のトイレに駆け込んだ。

用をたしているタイミングで授業開始を知らせるチャイムが鳴った。

つぎの授業は理科だったか。完全に遅刻だ。

理科の先生は話のわかる人だった筈だ。事情を説明すれば許してもらえるだろう。


トイレのドアを閉め、洗面台に向かう。

もう遅刻が確定しているのだ、慌てることはない。

手を洗って、ハンカチで手を拭きながら廊下に出てところで、


「ゾクッ」っとするような冷たい空気を肌に感じた。



ただならぬ気配に、俺は後ろを振り返った―――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私は優桐(ゆうぎり)ななみ。大洋高校の2年生。

どこにでもいる普通の女子校生―――のハズだったんだけど、

私には誰にも言えない秘密があるの―


実は最近、隣のクラスの獅子島くんのことが気になって気になってしょうがない。

歩いてるところを見れば目で追っちゃうし、家に帰ってからも、彼は今なにをしてるんだろって、つい考えちゃう。

獅子島くんは背が高くて(たぶん170センチ以上はある!)、切れ長で長いまつげの目をしてて、

えーと・・・とにかくすごいイケメン!


と、まあ今日も彼のことを考えながら

いつもどおり保健室のベッドで授業終了のチャイムが鳴るのを聞き流していたら、

保健の先生が入ってきて、こう言った。


「ななみちゃん、次の授業始まったわよ。つぎ、体育でしょう?見学くらいしてきなさい。」


・・・始業のチャイムだったの。

どうやら終業のチャイムを聞き逃していたらしい。

「はーい!」と元気よく返事をしてベッドから飛び起きると華麗なステップで、呆れる先生を横目に保健室を後にした。


授業が始まって暫く経つので、誰もいないひっそりとした廊下をとてとて歩いていると、


「ゾクッ」とするような冷たい空気を肌に感じた。



ただならぬ気配に、私は後ろを振り返った―――



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「キャーーーッ!!!」


俺が気配を感じて振り返ると同時に女の子の悲鳴が聞こえた。


レオセヴンに変身した俺は気配を感じた方向―


―すなわち誰かが襲われ悲鳴を上げたであろう方向に向かって走っていた。


学校にゆらぎが発生するなど考えてもいなかった。

どこか「学校」という場所を「聖域」のように捉えてしまっていたのかもしれない。

いや、考えてみれば、奴ら―ノイヅ―の好物である「感情」が一番高まる、

思春期の少年少女が一箇所に集まっているのだ。

むしろいままで襲われなかったのが不思議なくらいだった。


悲鳴が聞こえ、

レオセヴンに変身してゆらぎの中に飛び込んでから、

まだ5分も経っていないはずだ。

ノイヅは直ぐには人を食べない。

ヤツらは人を充分に恐怖させてから食べる。


まだ無事なはずだ・・・間に合ってくれ・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「―――・・・そのとおり、キサマはいまからドロドロにとけて俺様の養分となるのだ」


恐怖で、立ち上がることすらできない・・・

クモと人間が混ざったようなグロテスクな見た目の「怪人」が

目の前で自分がこの後どうされるのかを想像させようとしてくる。


「さぁて、いい具合に食べごろになってきた。早速いただくとするか・・・」


そういいながら怪人がこちらにかがみ込み、

牙の生えた口を近づけ・・・


―――た、次の瞬間、怪人の体が宙をまった。


「「サンライズ・キック!!」」


勇ましい叫び声とともに、

怪人と入れ替わるようにその場に現れたのは、

金色の鎧をまとい、

まるでライオンのような美しい深紅のタテガミをなびかせて

堂々と立ち上がる屈強な戦士の姿だった。


彼は怪人が吹き飛んだ方向をみやり、

しばらく動けそうにないのを確認すると、こちらに視線を向け、


心なしか、一瞬驚いたような素振りをみせ、こう言った。



「獅子島君!?」



「えっ!?どうして俺の名前を?!」


もちろん、正義のヒーローそのものみたいな存在が目の前に現れた事自体が驚きだったが、

それよりもそのヒーローが俺の名前を知っていたことに非常に驚いて、おもわず聞き返してしまった。


「あっ・・・いや、えっと、そう。俺のセヴンアイにはそういう能力があるんだ。()()()。」


どうやらセヴンアイという相手の名前がわかる超能力があるらしい。さすがはヒーローだ。

たしかに俺が襲われていたのも知っていたし、やっぱりヒーローとはそういう存在なのだろう。


「ところで、女の子はどうした?悲鳴が聞こえたが、大丈夫なのか?」

「えっ!?女の子ですか!?あー、えっと、大丈夫だったみたいです、む、むこうに逃げていきました。」


たぶん最初の悲鳴のことを言っているんだろう。

もしかしたらヒーローはこちらの性別もお見通しなのかもしれないが、

長年の癖でついごまかしてしまった。

彼も察してくれたのか、「なるほど、それならよかった。」と言っただけだった。


「む。くるぞ。キミは隠れていろ。」

みると、クモの怪人が起き上がりかけている。

俺は急いで廊下の突き当りまで走り、曲がり角に隠れて二人の様子を伺った。


はっきりと聞こえるわけではないが、

どうやらクモ怪人が突然現れた邪魔者に呪詛の言葉を投げかけているようだ。


それに対してヒーローは飄々とした態度をとり、

怪人に軽口を叩いているようで、怪人が憤っているのがわかる。

そして、怪人が名前を聞いたらしく、彼はこう叫んだ。


「俺の名は、レオセヴン!人々の笑顔を守るものだ!

貴様らに人間はただのエサではないということを教えてやる!」


レオセヴン・・・それが彼の名前か・・・。カッコいい・・・。


レオセヴンは名乗りと同時に飛び上がり、

天井を蹴って勢いをつけ、クモ怪人に鉄拳をお見舞いした。


クモ怪人は吹き飛んだが、

どうやら防御したらしく、空中で姿勢を立て直すと、

壁から壁に飛び移り、レオセヴンを中心にして廊下を縦横無尽に飛び回り始めた。


俺にはクモ怪人を目で追えず、どこから攻撃をしてくるのかさっぱりわからないが、

レオセヴンは、どうやら目以外の器官で動きを捉えているらしく、

飛び回る怪人に動じず、正面を向いたまま、仁王立ちしている。


とうとうクモ怪人が仕掛けた。

レオセヴンの後方、斜め上から糸のようなものを吐きかけ、

間髪入れずに斜め下から飛びかかった。


レオセヴンは後ろも見ずに体を傾け糸を回避し、

そのまま後ろ回し蹴りで飛びかかってきたクモ怪人を壁に叩きつけた。


勝負あったかに見えたが、

クモ怪人はすぐさまレオセヴンに向かって飛びかかり、

狭いところでは不利と判断したのか、

レオセヴンを掴むと窓ガラスを突き破って中庭の方へ飛び降りていった。


レオセヴンが不意を付かれて窓から突き落とされたという事実に、

俺も慌てて割れた窓ガラスの所へ走っていった。

ヒーローとはいえ、おそらく人間だろう。4階から落ちて無事なのだろうか。


俺がようやく中庭が見える場所にたどり着いて、彼らの姿を見つけた時、

俺の心配は杞憂であるということが瞬時にわかった。


なぜなら、

光輝くレオセヴンの脚に、

クモ怪人が今まさに蹴り上げられようとしているところだったからだ。


俺の目の高さぐらいまで飛び上がってきたクモ怪人は、

そのまま光に包まれ、はじけて消えた。


下を見下ろすと、レオセヴンがこちらに向かって軽く手をあげ、去っていくのが見えた。


まさにヒーロー。

俺は自分の心臓の音がやけに大きい理由と、胸に抱いたこの感情の名前を探して立ちつくしていた。


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