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第一話 その名はレオセヴン

私が「彼」に会ったのは、後にも先にもあの一度だけだった。


あの日は、学校がお昼までだったから周りの同級生達が

みんなでカラオケなんかに行くのを横目に

1人で本屋さんに行こうと街の大通りを歩いていたときだった。


「怪人」をみた。


「ソイツ」は「怪人」と呼ぶしか無いような見た目をしていた。

幼い頃にテレビで見た怪人。あんな一目で作り物と解るようなモノじゃない。

ヒトの形をしているけれど、どう見ても人ではない。

たとえるなら、ヒトと鳥が混ざったような。


周りには大勢の人が居るのに誰も「ソイツ」を気にしていない。

もしかして私にしか見えていないのだろうか。

幻覚でもみているんだろうか。


いや、そうなら良かった。


着ぐるみや人形のたぐいなんかじゃ絶対にない。

虫がまっすぐこっちに向かってきたときみたいな本能的な恐怖。

まずい。

今すぐ回れ右をしてかかわらないようにしなければと

頭では思っているのに体がついてこない。


ギクシャクとしているうちに、ソイツと「目があった」。


「オマエ。オレがみえるのか」


獣の唸り声のようにも聞こえたが、確かに日本語として「理解」できた。


私が恐怖のあまり「あっ…うっ…」などと声にならない声をあげていると「怪人」がまた喋った。


「めずらしい。コイツ、内側にいるのか。これは都合がいい。コッチに連れ込む手間が省けた。」


日本語として聞こえていても内容はさっぱりわけがわからない。

でも、怪人が次に発した言葉は瞬時に理解できた。


「今日はコイツを食べるとしよう。」


怪人は「食べる」そう言った。

怪人の鳥のようなクチバシに生えた無数のキバに目がいく。

どう見ても草食のようには見えない。おそらく比喩表現の類でもないのだろう。


助けを求めてあたりを見渡すも、

どういうわけか先ほどまで大勢の人が居たはずの大通りはしんと静まりかえっていた。


「い、いや…こないで…」


圧倒的な恐怖の前に振り向いて走りだすこともできず、

聞き届けられる事のない希望を述べながら、

ただ後ずさる事しかできないわたしに

怪人が生理的嫌悪感をもよおすようなドス黒い笑顔を見せる。


「ふふふ…イイぞ!!その顔!その感情!!今日は久しぶりの上物だ!」


ジリジリとこちらに近づいてくる怪人。

まるで悪夢。

頭は思考を停止して、身体も動こうとしてくれない。

ふと。我にかえると「ソイツ」は吐息が届くくらいの距離にいて。

私の腕を掴んでこう言った。


「で、オマエはどういうふうに死にたい?」


そのフレーズを聞いた瞬間、止まっていた私の頭は動き出し、


「ーーーーッいやああアアアァァァァァ!!」


腕を振り払い、全力で走り出した…つもりだった。

怪人の圧倒的な腕力に、私の腕はピクリともせず、

暴れた瞬間、片腕で持ち上げられ、私の足は空をかいた。

この状況で私にできることはただ叫ぶことだけだった。


「い、いや……死にたくない!だ、だれかッ!助けて!!」


死、さっきの怪人の言葉でそれを強く意識して。

この先自分に起こることを想像して。

震えがとまらず、なみだを浮かべる私に、怪人はうれしそうに言う。


「無駄だ。このユラギのなかでオマエの声が聴こえる者など存在しない」


その怪人の言葉に―――



「果たして本当にそうかな?」



―――こたえる者があった。


「なに!?」驚き、声の主を探して見上げる怪人。つられて私も声のした方を見上げる。


すぐそばの街灯の上に、「彼」は居た。


腕を組み、太陽を背にして雄々しく立つ姿。

纏っているのは金色の鎧だろうか。

風にたなびくタテガミのような深紅の長髪は、まるで絵画のように美しかった。


怪人が何か言いかけるまもなく、「彼」は短い雄叫びとともに街灯から怪人めがけて、

さながら新体操の選手のように身体を捻って勢いをつけ、カカト落としを繰り出した。


咄嗟のことに、怪人は私を地面に放り出し、両手で防御姿勢を取った。

怪人の両腕に阻まれた「彼」の踵はその衝撃で跳ね返り―


―そのまま宙返りをしたかと思うと、街灯の支柱を蹴って再び怪人に頭から突っ込んで行く。

その一瞬の間に「彼」は身体を反転させ、今度は回し蹴りを繰り出した。


その鮮やかな動作に怪人は反応できず、脇腹に直撃をうけて隣のビルに向かって吹き飛んでいった。

コンクリートのビル壁が、まるで発泡スチロールのように砕け散り、衝撃の強さを物語る。


そこで初めて「彼」が私に声をかけた。

「歩けるか?」

この異常な状況下で、すぐには質問の意図が理解できなかった。

なぜ、そんな当たり前のことを聞くのだろうか。私が赤ちゃんにでも見えるのだろうか。

としばらく考えたのち、「彼」は私に無事かどうかを聞いているのだという事に思い当たった。


「あ…えっと…怪我は無いです」


ようやく絞り出した答えは少しズレていたけれど、それを聞いた「彼」は

「ならどこかに隠れていろ。まだ終わってない」


それだけ言って怪人を吹き飛ばしたビルの方に向き直った。

私は言われた通り少し離れた路地から事の成り行きを見守る事にした。

今思えば一目散に逃げ出しても良かったはずだが、当時は考えつきもしなかった。


ビルの瓦礫の下から怪人が立ち上がって「彼」に何か言っているが、離れすぎていて聴き取れない。

「彼」も何か言い返したようで、怪人が激昂して「彼」に突っ込んでいった。


怪人は先程の直撃に加えて激昂しているせいか、

素人の私から見てもマトモに攻撃できているようには見えなかった。

もしくは「彼」が怪人の何倍も上手なのか、

怪人の攻撃は一度たりとして「彼」にあたることはなく、


気付いた時には「彼」の正拳突きが怪人を宙へと舞上げ、

私の前を通過して、道路の真ん中に大の字で落下した。


「これでフィニッシュだ。」


風向きの関係か、「彼」がそう呟くのが聴こえた。

「彼」がなにやら腰のベルトに付いている太陽のような形の宝石を触っている。

すると、宝石が凄い勢いで回転し始め、ベルト全体が光り輝き始めた。


そして、その光が脚に広がると、

「彼」は起き上がろうとしている怪人に向かって走り出した。


大股で走る彼の踏んだ地面には光の足跡がついてゆく。


そして怪人の目の前で左脚を軸にしてスライディングし、

今まさに起き上がった怪人の胸を「彼」の光の右脚が蹴り上げ、

光の足跡を刻み付けた。


ふたたび宙に舞った怪人の体は

足跡から広がった光に包まれ、やがて弾けるように消えた。


「イコライズ完了」

誰にともなく言った「彼」の言葉でなんとなく戦闘が終わったのだと察する。


怪人の最期の輝きを背にしてこちらに歩いてくる「彼」が

私に安否を尋ねる。それに対して私は大丈夫だと返して、お礼を言った。


「彼」は、「そうか。よかった。」と、だけ言って立ち去っていった。



彼が道の向こうに見えなくなる直前、

まだ名前を聞いていなかった事を思い出し、慌てて叫ぶ。


「あ、あの!名前!名前を聞いてもいいですか!」

私の声が届いて「彼」は振り返り私に名前を教えてくれた。



「―俺はレオセヴン。もし、また助けが必要になったらこの名を叫べ。

いつでも。どこにいても。君を助けに行く。」


「また会える日が来ない事を祈っているよ。」



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