第3章
XX月XX日
システム:オールグリーン
彼の飛び立つ為の舟はあと数日で出来上がる、といったところです。今は最後の確認を行っているようです。彼が乗れるか、そして長い永い宇宙を彷徨う旅に、舟が耐えられるのか。主にそれらの確認をしています。
日を追うごとに、彼の表情はきらきらと輝くものに変わっていきました。半ば興奮したような状態でワタシに話しかけることも増えました。けれどそんな時、ワタシは彼に、彼に対する想いに、妙な違和感を覚えるのです。彼はワタシのことを見ています。それなのに、ワタシの先にいるなにかを見ているかのような瞳になることがあります。だからといってワタシの仕事に支障が出る訳ではありません。そのような不必要な疑問や感情は削除しています。
けれど。
けれど、削除しても削除しても湧き上がるのです。一度その感情を分析してみたことはありました。分析したはよいのですが、ワタシのプログラムに登録されている感情のどれにも当てはまらないのです。傾向としては”怒り”と”悲しみ”に近いのですが、それらの傾向が多く見られるというだけで、その2つだとは断定しきれないのです。これは恐らくプログラム上のバグか、あるいは感情の学習によりプログラムされていない新たな感情が芽生えた、ということでしょう。
いずれにせよワタシ1人では理解しえないものです。この日誌に綴って、後日彼に尋ねてみましょう。