第4話 お父様とお母様、息子に初めて声援を送る
それから俺は父のアドバイスを元にしながら、リレー競争のメンバーと共に特訓する事に。
ぽっちゃり枠の男子は地道に特訓する事にして、残りの二人にはさりげなく「人間を形作るかっこよさ」とは何かを問いかけた。
彼らは根が真面目で善人だったのだろう。
正しい方向性さえ示せば、後は勝手に自分で軌道修正してくれたから助かった。
「世界の偉人物語ベスト100」なる書籍を目につくところに置いといたり、校内で持てる生徒を特集した学生新聞の記事を彼らのカバンにつっこんでおいたり、地味な活動が実を結んだというわけだ。
そんなこんなで迎えた体育祭当日。
俺達は目前に迫ったリレー競争のために、学園の校庭の隅で準備運動をしていた。
ここまで色々特訓してきたのに、へたな事で躓きたくないからな。
しっかりと体を動かして、ウォーミングアップをすませておいた。
そして、とうとう俺達が出場する種目の時間が来る。
観覧者は普通に考えても全校生徒の倍以上。
各生徒の父親、母親、プラスアルファが今日のために来校している。
体育祭という一大イベントを思い出におさめようと夢中になり、みな我が子の姿を視線で追っていた。
当然俺の家族や母や父の今世の家族も来ている。
身内にかっこ悪い所は見せられないと思うと、嫌でも気合が入った。
家族のために頑張る、だなんて俺のキャラではないようが気がするけど、色々あって少し考え方が変わったのかもしれない。
数分後。
競技の開始のために、他の参加者と並んでスタート位置についたのはぽっちゃり男子だ。
今日のためにそこそこ走れるようになったものの、速度に不安が残る彼は第一走者である。
全員が位置についたのを見て、教師が合図を送り、リレーがスタート。
ぽっちゃり男子が走り出す。
同時参加するチームは全部で4チーム。
幸いな事にライバルは足の遅いチームばかりだが、それでもどんどん差をつけられる。
横並びスタートで始まったにも関わらず、何百メートルも遅れた状態でぽっちゃり男子の番が終わった。
続いて走るのは、髪型女子。
初日に自分の見た目を気にするあまり特訓に集中できなかった彼女は、俺の策に見事にはまり、無事真剣に特訓をこなすようになった。
髪を振り乱しながらかなり開いた差をつめて、走り終わる彼女にはグッジョブと声をかけてあげたい。
そして続くのは第三走者の中二病男の娘。
歴史の偉人に感化され、病弱設定よりも諦めの悪い不屈設定を採用した彼?彼女?は、そこそこ足が速かったらしい。
ぐんぐんライバルに追いつき。
あっという間に一人を抜いていった。
現在3位。
そして最後の役目を担うのがこの俺だ。
第四走者として、スタート。
前世でもこんなに真剣に走った事ないだろと思いながら、一人を抜かし、2位へ。
気合を入れて足を動かし続け、1位だった走者と横並びに。
なんで俺、こんなに頑張ってるんだろうな、と思いながら無我夢中で手を動かす。
暴れる心臓と、どくどくと勢いよく流れる血流。
否応なしに上がっていく体温と、溜まっていく疲労。
それでも耳に届く声援が、初めての両親からの応援が、体を動かし続けた。
「がーんーばーれー! ファーイート! レイくーん!」
「頑張れ、レイモンド!」
この世界の生みの親でも言わないだろってくらいの大声で声援を飛ばしてくれるから、内心で笑いそうになる。
そのまま、何も考えずにひたすら走り続けた俺は、気が付いたら1番でゴールテープを切っていた。
所詮子供のお遊びなのかもしれないけれど、倒れこんだ俺の胸の中には大きな満足感があった。
その後、リレー1位おめでとうの喜びを同じチームのメンバーと分かち合った後、今世の両親に褒められてから、前世の両親達にも同じような言葉をかけられた。