第3話 お父様とお母様、息子に相談される
異世界転生ものの俺の日常に、途中から前世父親だった少年ーーというあまり見ないようなメンバーが加わったところで、学校生活に変化が訪れた。
それは体育祭だ。
名家のご子息ご令嬢が通う所と言えども、こういう泥臭いイベントはあるらしい。
入学前は、もっとゆったり優雅な学校かと思っていただけに、意外である。
聞いたところによると何でも、体育祭が催されるようになったのは、ここ最近の話らしい。
数年前までは俺のイメージ通り、蝶よ花よと生徒達を育てていたらしいが、国が定めた運動能力の測定で体力が落ちている事が判明。
しかも、肥満の子供が増えていて、健康面での関心が高まった。
それで学園は、運動能力の教育にも力を入れるようになったのだという。
といったわけで、俺は体育祭で参加する種目について練習している。
種目は、リレー競争。
個人の走力とチームと息を合わせる事が必要なものだ。
一人で頑張っても意味がないため、クラスメイト達と協力しなければならない。
よって俺達は、体育の時間に集まってグランドを何周も走り回る事になった。
前世では特に運動が苦手なわけでも、得意なわけでもなかったし、今世でもそうだ。
鍛えればそれなりに走れるだろうから、他の人の足を引っ張らないようにしたい。
しかし、俺達のメンバー、大丈夫だろうか。
俺は一緒に特訓している者達の様子を窺う。
「ぜぇ、ぜぇ。またタイムが遅くなってる。これじゃあドベ確実だよ!」
「はぁ、はぁ。わたくし、走るの嫌いなんですのよ。ああっ、髪が乱れてる! 無理ですわーっ!」
「げほっ、ごほっ、また持病の咳が。やっぱり私には無理だわ」
走る度に足が遅くなる、ぽっちゃりな男子生徒。
身だしなみを気にして全力疾走できない女子生徒。
病弱設定を貫こうとする中二病な男の娘生徒。
このメンバーでまともに走れるんだろうか。
というわけで困った俺は、人生の先輩達に相談する事にした。
「レイ君がお母様とお父様に相談だと! なんて素晴らしい日だ! ようし、お母様今日は最愛の息子のために、はりきっちゃうぞ!」
「少し落ち着こうか、タツーーエレナさん。人目もあるから」
予想通り母がハッスルして、父がそれをなだめる構図ができあがった。
それから3分くらいかけて最初の5割程度の勢いになった母は、無事戦力外を通告された。
「なぜだ! お母様のアドバイスのどこが駄目なんだ!」
「全部に決まってるじゃないですか」
この母、前世の俺にディスコミュニケーションしてたの忘れたのだろうか。
お世辞にもうまくいっていたとは言えないあの状況を忘れているのだとしたら、今世の母の頭はかなりポンコツに出来ているのかもしれない。
そんな落ち込む母の代わりに、父はそれなりに役に立つアドバイスをくれた。
「皆多感な年ごろだからな。最初の子は地道に体力をつけていくしかないが、他の子たちは今の自分がかっこ悪いという事を気づかせてあげれば良いんじゃないか」
「かっこ悪い?」
「普通に注意して聞いてくれる子だったらいいけど、そうじゃないならますます頑なにさせてしまうだけだ。それなら、今の自分の行動がかっこ良くないと自分で気づかせてあげる事が重要だと思う」
口下手な所があったものの、父は社会人としてそれなりに周囲とコミュニケーションをとってきたのだろう。
その行動は今後の特訓を考えるには、多いに参考になった。
「ありがとう父さん、俺なりに考えて何とかやってみせるよ」
視界の隅で悔しそうな母が崩れ落ち、地面を拳で叩いているが、構うとおそらく面倒なので無視しておいた。
生憎母に優しくしてあげる回は前回で終了しているので。