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第2話 お父様、両親の馴れ初めを息子に話す



 そんなやりとりを経て、俺と母との騒がしい日常に父も加わる事になった。


 父もこの学園に通っているということは、それなりの家の子供として転生したようで、暮らしで不自由はしていないらしい。


 両親からの愛情もしっかりと受け、他に存在する兄弟と共に仲のよう家庭で育ったという。


 ちなみに父は前世も兄弟の多い家庭で育っている。

 一般的な家庭で生まれ育ったが、仕事でばりばり働いて収入を増やし、そこそこの値段のマンションに住めるようになった。


 今となってはその努力は全て消えてしまったのだろうが。


 一方母は前世も今世も一人っ子。


 生活に苦労するような環境ではないが、家族仲は冷え切ってはいないが、それほどフレンドリーではないと後に聞く事になる。


 そんな事は置いといて、父親と再会した今だからなのか、俺は二人の昔話に関して興味が湧いてきていた。


 前世では質問しようとも思えなかった疑問が、俺の頭の中に湧いてくるのだ。


 これは転生という特殊な環境ゆえの変化なのだろうか。


 まあ、家族とこんな特殊な再会をしておいて、まったく興味が持てないとなると、それはそれとして人として他人に興味をまったくレベルになってしまうだろう。





 そんなある日、珍しく母が学校に登校してこなかったため、中庭で父と二人で昼食を食べる事になった。


 エレナとして転生した母はべったり構ってくるが、父は前世通りなので少し気まづい。


 それなら別々に過ごせば良いかと思うのだが、なぜか昼食の時間になると別のクラスの父が俺のところまでやってくるため、一緒に過ごす事になっているのだ。


 そういうわけで、お昼休みの時間。

 学園の中庭にあるベンチで二人並んでこしかけ、互いに家から持ってきた弁当を口にする。


 俺は苦手な人参をよけながら弁当をつつきつつ、気になっていた事を父に尋ねた。


「父さんはどうして母さんと結婚したんですか?」


 俺の言葉を聞いた父は、ナスをよけながら食材をつついていた食事の手を止め、こちらの顔を見る。


 話をするときはどんな時でも相手の顔をしっかり見る。


 やはり父は母と違って、前世とはあまり変わっていないなと思った。


「お前の目から見て、私達はあまり仲の良い夫婦には見えなかっただろうか?」

「そんな事は……、まあちょっとはあるかな」


 否定したいがしきれなくて、歯切れの悪い返答を返すと、父は少し苦笑した。


「そうだな。私はいつも大事な事を言おうとすると緊張してしまって、タツキさんにはなかなか愛していると伝えられなかったから」


 後悔をにじませながら口を開いた父は、過去の事について教えてくれる。


「タツキさんと出会ったのは、会社同士の付き合いの場で、だな。他社と合同でこなすべき事があり、そこで親睦会が開かれた。タツキさんはその会で幹事をやっていたんだが、忙しそうにしていたよ」


 前世の母はしっかりしているように見えるし、実際そうだった。

 そのため、色々な面倒ごとを押し付けられていたらしい。

 手伝ってくれる社員もおらず、一人で何とかしようと奮闘する母が潰れてしまいそうに見えたから、父は手を差し伸べたらしい。


「そこから付き合いが始まったんだ。今までタツキさんほど魅力的な人に出会えた事がなかったから、私に振り向いてくれるとは思わなかったけど、アプローチし続けたよ」


 しっかりしているのに、ピーマンが食べられないところを可愛く思ったり、父が恋心をアピールするたびに頬を染めて照れるのが可愛かったとかなんとか。


 両親ののろけ話を聞くのは、気恥ずかしいやらなんやらだが、それでも好奇心が勝ったので、耳を傾け続ける。


 相手が母だったらふざけて、俺が切れるーーというのがお決まりの流れだろうが、父なので話はずっと真面目だった。


「プロポーズしようと思ったのは、彼女の同僚の結婚式に出席した時かな。私も知っている人だったから、招待状をもらったんだ。そこでの友人の幸せを願うタツキさんを見て、ね。タツキさんは、他人との関わりには一線を引いて見えるところがあるけど、心の中ではいつも人の事を考えているんだ。仕事を押し付けられてるばかりなのにな」


 過去の事に思いを馳せる父の言葉の端々には、隠しきれない愛おしさが含まれている。


 その様子を見た俺は、両親はちゃんと互いに愛し合って結婚したんだなと確信できた。


 記憶の限りでは、仲良くしている光景なんてなかったけれど。


 そんなに好きだったのなら、ちゃんと愛情を伝えればよかったのだが、大人には俺には分からない色々な事情があるんだろう。


「でも、結婚した後は、仕事の忙しさを言い訳にして、タツキさんやお前の事をないがしろにしてしまった。だから後悔していたんだよ」

「ひょっとしてそれで、俺達がいるこの世界に来ることを選んだんですか?」

「まあな。同じ世界に転生するという選択肢もあったけど、息子やタツキさんに先立たれてしまった、あの世界でまた生きるというのは辛くてな」


 あの世界に残される家族の事なんて真剣に考えていなかった。


 それは、俺に関心がないのだろうと思っていたからでもあるけど、家族二人を立て続けに亡くして残されてしまった父の姿を想像すると、罪悪感が膨れ上がる。


 というか、今まで考えないようにしてきたが、母はなんで死んだのだろうか。


 まさか自分から命を……?


 俺は冷や汗を掻いている事に気づいて誤解したのは、父が慌てた声で話を続ける。


「言っておくが、自分から命を絶ったわけじゃないぞ。死んだ後に異世界転生できるだなんてあの時は分からなかったからな。ちょっと誰もいない家に帰った後、お酒を飲んでぼうっとしていたら、うっかりベランダから落ちてしまっただけだからな」


 それはほぼ5割くらい俺が亡くなった事に原因があるのでは?


 残りの半分は母だとしても、自分一人だけ家にいる父の姿を想像すると、胸が痛い。


 会社の付き合いくらいでしかお酒なんてのまない方だから余計に。


 多くの事は知らないけれど、それくらいは知っている。


「ちなみにタツキさんは、会社の屋上で休憩していたところぼうっとしていて落ちたらしい。仕事の電話をしている最中で、他社に訪問する約束とりつけてるところだったから、事故扱いだったよ」


 この両親、似た者夫婦だな!


 父と母が揃って高所転落という同じ死因である事をどう受け止めれば良いんだ!


 しかも父とは違って母の分はたぶん俺のせいが10割だろ!?


 今度会ったら、もう少し優しくしてやっても良いかもしれない。


「辛くてもお前の分まで生きなくちゃいけないって、タツキさんと話したばっかりだったのになあ」


 しみじみとした口調の父とこんなに長い事はなした経験はなかった。


 学校の行事を見に来た事はないし、学校生活や私生活にも口出しされた事はない。


 俺の事なんてどうでもいいのかもな、なんて思っていたけれど、ただ自分の気持ちを伝えるのが下手なだけだったんだろう。


 そういう所も、前世の母とよく似ている。


 


 ちなみに今日母が休んだのは貴族の家のお付き合いがあったかららしい。

 こういう所は前世の日本とは違って緩いから、休んでもお咎めはないようだ。


 後日元気に登校してきた母のわがままを聞いていたら、熱でも出たのかと心配されたのだった。



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