第1話 お父様も来た!
異世界転生したら母親も転生してきた。
という思春期の男子にはきつい展開から、一週間。
ようやく母親ーー(この世界での名前はエレナ)の奇行に慣れてきたところだが、運命というものは騒乱が好きなんだろうか。
やってきたのだ。
第2弾が。
また、転生してきたのだ。
二人目が。
それはーー。
「君は、タツキ!? タツキさんなのか!? しかも、ハヤタまで、どうしてこの世界にいるんだ!?」
「む? その呼び方をする者はこの世界にはいないはず。ーーもしかしてショウジさんか?」
母を前世の名前で呼んだ少年は、俺の父親で、母親の旦那である友枝庄司だった。
その日俺は、学校の食堂で母にべたべたされながら、弁当を忘れたため珍しく学食を食べていた。
母は俺の横で、グリーンピースをよけてオムライスを食べている。
この人グリーンピースが嫌いだったんだな、と転生してから初めて知った事実を思いながら俺もオムライスのにんじんを避けながら食っていると、そこに同い年くらいの男子生徒が通りかった。
最初は何気ないしぐさでこちらを見てきたからだったが、グリーンピースと格闘する母を見て表情が変わった。
絶対にありえないものを見たかのような驚愕の表情を浮かべた彼は、先ほどの言葉を発したのだ。
それは、俺達の前世を知っている人間しか喋れない内容だった。
その跡、前世で一度もやった事のない緊急家族会議を開いた俺達は、この状況を正確に把握する事になる。
母親に続いて、父親までもがこの世界に転生してきている、という状況を。
俺達の転生を決めたどこかの誰かさんは、一体何を考えてこんな事をしてくれたんだろうか。
ともあれ気になるのは、父の様子。
緊急家族会議を経た後の父は、嬉しさ半分、訝しさ半分といったところだろうか。
母の様子をガン見しながら、首をひねったり、考え込んだりしている。
そのうち、父親が俺にこそっと話しかけてきた。
「なあ、ハヤターーじゃなくてレイモンド。タツーーエレナさんはどこかに頭でも打ったのか? 私の記憶では彼女はあんな風ではなかった気がするんだが」
父が混乱している原因は、やはり母の言動のようだ。
俺は、前の世界でとんちんかんな言動をしている母を見た事がない。
だが、愛し合って結ばれた父の前では違うのではないかと時々思っていたけれど、そうでもないようだ。
「父さんも、あんな母さんを見るのは初めてなんですね」
「ああ……」
どこか途方にくれたような、愕然としたような父を見ていると、その心中の荒れ模様は察して余りある。
人生の中でそれなりに長く一緒にいた相手の思わぬ一面を、それも奇行を見ておいて、これで穏やかでいられるはずがないのだから。
そんな俺達の考えなんて知ってかしらずが、グリーンピースを避けていた母親が完食。
前世では上品よりだったしぐさがかけらもない元気いっぱいの様子で、両手を打ち鳴らした。
母は手をあわせ、「うむ。とても美味だった。ご馳走様でした!」と、にぱっと笑う。
何も知らない人間が見たら可愛いと思う光景だが、相手は俺の母親だ。
前世の分も考えればそれなりの年齢。
俺にとってはそこまでの画ではなかった。
しかし、父にとっては違うようで。
「これが職場の若者たちが時々話していたギャップ萌えというものか」とときめいているようだった。
受けた衝撃は大きかったようだが、案外早く慣れてくれそうだなと思った。