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オルガンとお買い物

四日分はゲームに入り浸れる。そんなことを朝は考えていたが、実際となると三日でも相当しんどい。特にこの三日はゲルヒエンさん関連で濃厚だったので、四日目に入る前に眠ってしまった。



結局姉さんはずっとゲームをしていたようで、朝でも起きてはいなかった。

しかしながら朝食を食べさせない訳にはいかないので起こそうとするが、今いいところらしく作って置いといてとのことだった。

久しぶりに一人で朝食を食べて学校へ行く。



発売されて最初の休日だったから夜遅くまでゲームをしたのか、クラスにも幾人か眠たそうにしている人がいた。


午前中の授業は先生すら眠たそうにしていたことを除けば、問題なく進行した。


さて昼食を食べ終わったと思えば、数人が箒やちりとりやら取り出して模擬戦をしていた。

たしかに戦う技能を身につけるには戦うのが一番良いのだろうけど、そんな小学生みたいなことしないでほしい。

ちなみに私も友人に誘われたが、丁重に断った。あのイノシシらしきものに負けてからというもの、戦いをする気がおきない。



放課後、みんながそさくさと帰り支度を始める。特にゲーム好きどもは走るようにして帰っていった。

しかし私は少し残る必要がある用事があったので残っていた。

その用事を果たすために職員室へ向かって歩いていく。


その道中にピアノがどこかで弾かれていることに気づいた。自分自身が最近ピアノ、というかオルガンをしているから敏感になったのだろうか。

そんなことを考えながら最後の角を曲がったとき、急に肩に衝撃があった。


「なっ」


「きゃっ、すみません!」


女子生徒と衝突したのだ。そして驚いたときにはもう走り去っていた。唯一見えたのはかなり急いで走り去っていく後ろ姿ぐらいだった。

鞄とかも持っていたし、あの急ぎようならもしかして彼女もゲーマーで、さっさと帰ろうとしているのだろうか。

それにしても、もう走り去ってしまったのでどうしようもない。さっさと自分の仕事を済ませてしまおう。



帰れば、帰る途中に買っておいた夕食をとってすぐにゲームを開始する。



ゲームを始めては、いつも通りに午前中は教会の仕事をこなして、昼食を食べて聖堂へ戻る。


しかし今日はなぜかゲルヒエンさんもついてきた。


「ゲルヒエンさん。何か御用ですか?」


「恋人の隣に居るのに理由は要りますか?」


真っ直ぐとこちらの目を見据えて言う。たしかにそう言われるとそうかな? 

話しながら聖堂の中を歩いて、オルガンの前を通りかかる。その時不意にゲルヒエンさんから提案があった。


「連弾しませんか?」


「え?私一曲しか弾けませんけど。」


まだ私はマリーさんに教えてもらったあの曲しか弾けない。しかしゲルヒエンさんは不敵に笑う。


「実は、あの曲は連弾できるようになっているんです。マリーさんはセーレさんの演奏が完成してからしようと思っていたみたいですが、私とで先を越してしまいましょう。少々失敗しても大丈夫ですよ。」


「そうだったんですね。じゃあ弾きましょうか。」


私が二人がけの椅子に座り、いつもマリーさんが座っているところにゲルヒエンさんが座る。しかし距離として、いつもより近い肩が触れ合うほど。


ゆっくりと弾き始める。


弾いていくうちにわかる。この曲は私のパートが簡単なメロディーになっていて、それをもう一人が装飾するようになっていたようだ。

曲としてはゆっくりなものだが、二人の四つの手があると途端に複雑なメロディーを編み出す。


「すごいですね、これはこんな複雑な曲だったなんて。」


「ええ。これはもとから連弾用の曲ですから。」


一般に平坦な強弱ではあるが、最後の部分は少し曲調が強くなり、しなだれかかるようにして曲が終わる。


「はあ、やっぱり久しぶりに弾くと疲れます。」


「そうですね、やっぱりゲルヒエンさんの方が二倍ぐらい手を動かしていましたし。」


ゲルヒエンさんが伸びをしてこちらを振り向く。そのときに少しだけ私の向こうを見たようだ。


すると急に私の唇を奪った。

驚いて声が出たが、ゲルヒエンさんの唇に塞がれもごもごと意味をなさない音になってしまった。

しかしゲルヒエンさんはそれに構わず、私の口の中に舌までも入れる。

私も応じない訳にもいかないので、その舌を舌で絡めとる。


少しすると満足したようでその唇を離した。


「どうしたんですか、急に?」


しかしゲルヒエンさんはいたずらっ子のように微笑むだけだった。


ゲルヒエンさんは別の用事があるらしく、居住区の方へ帰っていった。

私といえばすることがないので、教会員見習いとしての仕事で貯まったお金を使うことにした。


教会の正門を開ける。


なぜか少し隙間が空いていたことに疑問を思いながら開けると、その脇にレイゼンが座って、いや腰が抜けたようにへたりこんでいた。


「どうしたんですか、レイゼンさん。」


「へっ!ああセーレさん。」


驚きつつも返事をする。丁度出かけるところだから同行を提案してみようか。


「レイゼンさん。丁度出かけるところなのですが、一緒にどうですか?」


「ああ、はい。行きます。」


「じゃあ立ってください。町へ行きましょう。」


二人とも連れ立って歩き始める。進路は町へ。



幾分か歩いて、でもまだ周囲は畑ばかりのときレイゼンが話しかけてきた。


「この国で、えっと、別に他意はないんですけど、同性愛って認められているのですか?」


「教会は認めています。国もさほど気にはしませんね。」


「そうですか......。」


また無言になって歩を進める。

何か考えているようであるからあまり話しかけていないのだけど、大丈夫だろうか。



町に着いた。


「レイゼンさん、町に着きました。どこへ行きましょうか?」


着くころにはレイゼンも調子が戻っていて、笑顔も見えるようになっていた。


「そうですね、服なんて見ませんか?セーレさん、いつも同じ服ですし。」


「いいですね、そうしましょう!」



レイゼンに連れられて服飾店へ向かった。女の子向けの服を多く取り扱っているところだ。

着くと、私が選ぶのを待つのかと思っていたが、楽しそうにレイゼンが私の服を選び始めた。


そして数着の服を私の前に持ってくる。


「こんな感じのはどうですか?」


私も私で女の子向けの服は分からないので、当てずっぽうにも近い感覚に任せて選んでいくと、最終的に数着の服に辿り着いた。


「洗濯することも考えたらこれぐらいあったらいいですね。」


そう言って店員のところへ持っていく。

そのレイゼンに追いついて支払いはいくらになるか聞いた。


「それいくらになりますか?」


しかしレイゼンは頑なにに言わない。どうもそれを払うつもりらしい。

こうなっては男を立てなくてはいけないだろう。決して金が惜しくなった訳ではない。


「ありがとう。レイゼンさん。」


「いいっていいって、セーレがもっと可愛くなった

 し。」


「そんな可愛いなんて。」


笑いあって店を出る。サイズ合わせをお願いしたので服でなく予約札を持っているだけであまり大荷物にならなくてよかった。


「サイズ合わせ終わったら教会まで持っていくよ。」


「いや、そこまでなさらなくても。」


「いいんだよ。僕の宿ここらへんだから、そんなに手間かからないし。」


「じゃあお言葉に甘えます。」


昨日の間はとっくになくなったように感じられる。

しかし慣れてきたといっても、あまりベタベタしないようには気を使っている。ゲルヒエンさんを優先すると決めたのもあるし。



また別の店に行こうと、レイゼンに連れられるように少し仄暗い裏路地に入ったときのこと。踏み込んだ話を始めたのはレイゼンからだった。


「あの......キスしたりしないんですね。」


「え、あ、前のことがあったからちょっと自粛中で。」


「教会の人にはするのにですか?」


見られていたみたいだ。ということはあのへたれこんでいたのはそれに衝撃を受けたのだろうか。


「そ、それは、ゲルヒエンさんとは特別な関係で......嫌なところお見せしてしまったのならすみません。」


レイゼンが苦虫を噛み潰したような顔をする。そして歩みを止めて私に振り向く」


「ええ、嫌です。私の好きな人が他の人とキスしてるところを見るなんて。」


「え?」


レイゼンがこちらへ近づいてきて、私の真横の壁に手をついてこちらを覗き込む。


「僕は、セーレさんのことが好きです。以前のことについては戸惑いましたが、あのキスではっきりしました。

セーレさんがあの女とキスをしていのを見るとドキドキして、そしてあの女へ対する苛立ちが生まれました。これは貴女への恋によるものでないといえば、嘘になってしまいます。」


「そ、そんな......」


確かに思わせ振りなことはよくしたけど、こうもなるとは思わなかった。しかし先に選んでくれたゲルヒエンさんに面目が立たないので、この言葉を受け取ってはいけないだろう。

そこで、レイゼンの両肩を持って少し引き離す。


「少し待ってください。あなたがいくら私が好きでも今すぐには決められません!」


しかし、これはただのずるい行為ではないだろうか。ゲルヒエンさんの愛を受けることとその対価として私も愛をゲルヒエンさんに返すべきなのに、今、レイゼンを完全に拒否せずに、所謂キープした状態にしているのは。

ただ、どうも手放すには、レイゼンはゲルヒエンさんと同じぐらいもったいなく思えてしまったのだ。


「そうですよね、まだ考える必要がありますよね。こちらこそ先走ってすみません。」


謝るのはこちらの方だ。



レイゼンと別れの挨拶をして教会へ帰った。

帰るとゲルヒエンさんが待ち構えていた。


「どうでしたか?レイゼンさんとのお出かけは。」


「えっと、なんにもなかったです。」


「なんにもなかったのですか?彼はアレを見たはずですが。」


アレとは、もしかして昨日の連弾のときにゲルヒエンさんが見たのはレイゼンだったのだろうか。


「なんにもないですよ。」


「ふーん。そうですか。」



みんなと夕食をとって今日もゲルヒエンさんのところに行っていた。


また同じように話をして、キスをして布団へ入る。そしていつものように寝るのだった。

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