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レイゼンとピクニック?

またもスタート地点は教会の前かと思えば、連日だったからなのか、マリーさんのお布団の中からスタートだった。少し遅くゲームに入ったのでマリーさんはもういない。私もすぐに出よう。


 今日も朝から掃除など教会員見習いの仕事をする。お昼には待ち望んだ来客があった。


 昼食の間に言い渡された仕事、丘の方で薬草を取ってくることをしようと教会から出ようとしたとき、コンコンコン、と三度ノックが響く。


 返事をして開けてみるとそこにはレイゼンがいた。

 本当にまた来るとはあまり思っていなかったので、少し面食らってしまった。


 慌てて取り繕って挨拶をする。


「こんにちは。」

「こんにちは。もしかして、これからお出かけですか?」


 たしかにこれから出かけるところだったけど、そうだな、レイゼンも連れていくことにしよう。


「はい。これから東の丘の方へ薬草を取りに。」


「そうなんですか。あちらの方ならあまり危険ではありませんね。」


「それはそうなのですが、せっかく来ていただいたのですから、一緒に行きませんか?ピクニックみたいなものですよ。サンドイッチはありませんが。」


「そうですね、僕もあなたに会いに来たようなものですから一緒に行きましょう。」


 話は問題なくまとまった。さあ丘へ行こう。



 二人で東の丘の方まで歩いて行った。一面に青々とした草が生えていて、それに色とりどりの花たちが混ざっている。

 丘の上の方まで歩いていくと村や畑など様々に見える。


  「わあ、見晴らしがいいですね。それに教会も小さく見えますね。」


  「はい。遮るものもありませんし、少し小高くなっていますから。それで、どんな薬草を探すのですか?」


  「葉っぱが丸くて、羊の毛みたいにモコモコしている背丈の低い草です。」


  「ああ、それはシープリーフですね。僕も探すの手伝います。」


  「ありがとうございます。」



 集め始めて二、三時間。私は少しレイゼンから離れたところに行っていた。

 籠もそろそろいっぱいになるだろう。レイゼンのところに戻ろう。そう思って顔を上げると、そこには以前見た姿、あのイノシシの姿が見えた。


 はっ、と息を呑む。ゲルヒエンさんは滅多に丘の方まで出てこないと言っていたのに、あいつは今ここに居る。

 以前の恐怖を思い出して腰が抜ける、こちらに気づいていたらしい大イノシシはこちらに向かってのそのそと歩いてくる。

 逃げないと、そう思った時にはもう走り出していた。それは以前も取った愚策であることを忘れて。


 少し振り返ると大イノシシもこちらを追って走り始めていた。

 恐怖に駆られてさらに走りを速めようとする。しかし足がもつれて転んでしまった。


 足首に激痛が走る。痛い、ひどく捻ったか骨折してしまったみたいだ、これでは逃げれない。それに頭が痛い。手を当てると血がついていた。すぐ側に血のついた石がある。不運にもこれに頭をぶつけてしまったようだ。

 うん?痛い?まさかもしかしてリアリスティック・モードが痛みに発動している?


 まずいまずいまずいステータスを開けてオプション、ああそれじゃない!痛みで意識が朦朧としているなか、焦りもあって正確に操作ができない!


 歩を緩めた大イノシシもさすがに目の前にまで迫っていた。

 野生の臭気が押し寄せる。その口にギラつく牙が目に入る。

 食い殺される!そう覚悟を決めたとき、突然その大イノシシの首に矢が突きたった。


 助かったのか、どうなのか、理解する前に意識を失ってしまった。



「あ、起きましたか?」


 薄目を開け、微睡みの中に声が聞こえる。順々と遅れて理解が追いついてきて、これはレイゼンの声だとか、葉の隙間から光が差してるな、とかがわかってくる。

 そして頭の下に草木と土とは言えないような感触を感じる。目の霞みが収まると、目の前にレイゼンの顔が見えた。位置関係から私は膝枕をされているのだろう。

 あ、そういえば


「レイゼンさん!あの大イノシシは!」


「ああ、動いちゃ駄目ですよ、まだ完治していませんから。」


「ああ、はい。」


「イノシシは倒しました。セーレさんの怪我は頭部の怪我と足首の捻挫。そんなにひどくありませんでした。失神の原因は危機が去ったことと、血の色に中てられただけですね。」


 なんだ、そこまで酷くなかったらしい。それにしてもレイゼンさんのおかげで助かった。

 そう思って落ち着きを取り戻して、今更になって恐怖から逃れた安堵感が押し寄せてきた。


「おっと、どうしたんですか?セーレさん。」


 ほぼ無意識的にレイゼンさんの胸に顔を埋めて、安堵感に押されて出た涙を流していた。


「死ぬかと思いました......。」


「こちらこそ、あいつはここら辺りは出ないものだと思って油断してました。」


「いいえ、ありがとうございます。」


 レイゼンに背をなでられながら、しばし時が流れる。

 レイゼンは私が落ち着いたのを見計らって、背を撫でる手を止めた。



「セーレさん、もうそろそろ足も大丈夫なはずです。」


 その言葉を受けて、早速立ち上がってみる。

 少し跳ねても、意図的に足を捻っても問題ない。完全に治っている。


「本当ですね、大丈夫です。」


「それじゃあ帰りましょう。」



 教会に帰った頃には夕方になっていた。


「今日はありがとうございました。」


「いえ、こちらこそ。」


「助けていただいたこともありますし、お礼をしますよ。」


 レイゼンはいいよいいよと言っていたが、その目の前に近づいていく。


 上を向くとレイゼンさんの顔がある。届くだろうか、そう思いながら腕を首に回して背伸びをする。

 そして私の唇がレイゼンさんの頬に触れる。


 それが終わってすぐに軽い挨拶をして、教会の扉を開いて中に入る。その間におやすみなさい、とか言って。

 尻目に見えたレイゼンは、頬を押さえて呆然と立っていた。

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