教会活動と開拓者の青年
ゲーム二日目、教会である。これからのすべきことを見出すためにも教会に入り浸って、本を読んで、あとお手伝いもしよう。
……まずは本だ。
前回と同じように許可を得て本を借りる。今回は儀式についての本とかだ。
1冊目は『祈り入門』。一般的な祈る方法が記されている。
一つは教会に行くとか家とかで祈祷をすること。形式はキリスト教的だ。あとは赤円の意匠を使った装飾品の制作、楽器の演奏など。募金(ゲーム内通貨の課金)も良いらしい。これは都市部の托鉢たくはつ教会でしかしてないが。
その他にあって特徴的だったのが『日向ぼっこ』で、何やら太陽の恩恵を全身に受けて感謝を捧げるらしい。なんだろう、この仏教における南無阿弥陀仏のような、楽することを前面に出した手段は。
続けて2冊目を読む。神話の詳細についてで、たとえば太陽神様がお隠れになった時に何がおこったかとか、精霊や魔物の話とか。あと世界創造とか。
太陽神様がお隠れになった時は、みんなが抑うつとした気分になって、農作物が不作になり、どんどん寒くなっていったらしい。
本を読んでいたらそろそろ正午だ、そろそろミサがある。聖堂の方に戻ろう。
聖堂に戻ってみるとぼちぼちと近くの農民らが集まっていた。
聖堂は前に演台、その左にオルガンがあり、三人掛けの長椅子が少し手狭に2列で20脚並んでいる。その左右外側に柱が等間隔に並び、柱の奥の壁には壁画が描かれている。
農民たちは顔を合わせると世間話をしながら、家族や知り合いでまとまって座った。私も少し離れたところに座った。少しするとマリーさんが出てきて、それに応じて出席者も静かになった。
まずはマリーさんのオルガン演奏から始まる。一応一般的な形式は勉強してきていたので、流れに置いていかれることはなかった。
オルガンの演奏が終わると次は合唱だ。合唱は得意分野ではあるが、歌詞を覚えていなかった。それで立って口パクして誤魔化しておいた。
そして聖典の朗読に入る。今日は聖典の4章第2節『月のはじまり』だ。一度マリーさんが朗読してから、参加者の1人が選ばれて朗読した。内容は、太陽神を説得する精霊たちのシーンだ。
「『太陽神様、彼らを信頼しましょう。彼らとて悪いことをしたくてするのではないのです。』そう精霊たちは言いました。そして太陽神様は人間を良くしようとするあまり、人間を息苦しくしていたことに気づきました。
『確かに私は彼らを信頼することを忘れていたのかもしれない。それでは私は月と監督を交代しながらしよう。』と太陽神様は答えました。月とは、こんにちの夜の間空にあるもので、天一の邪悪な悪魔のことです。太陽神様は私たちが信頼に値するかお試しになったのです。」
朗読が終わると、マリーさんが演台に戻って説教を始める。
「我々は昼の間は太陽神様に見守られています。しかし夜の間はそうはいきません。月の悪魔は我々の心の隙を狙っていますし、既に悪魔に魅入られた人が徘徊していることもあります。夜は気の迷いを無くし、朝までしっかり寝ましょう。」
再度合唱をして、解散となった。
人々はぞろぞろと帰っていった。それに合わせてマリーさんが私のところに来た。
「セーレ?お昼にしましょう?」
はい。とひとつ返事をしてあとについて行った。
昼食は前と同じメニューだった。しかしそれにだれも文句は言いはしなかった。時代による生活の質の違いが如実に出ている。
そういえば何も貢献していないのに、こうも毎度昼食に呼ばれるのではちょっと居心地が悪い。何か手伝いとなることをしたい。そこで昼食が終わってマリーさんとゲルヒエンさんと私だけになったとき、その話を切り出した。
「マリーさん。私に何か手伝えることはないでしょうか?いつも昼食に呼んでいただいているお礼がしたくて。」
マリーさんはそもそも手伝いを求めてはいなかったが、私の様子を見て私の居心地の悪さを見抜いたのか、何か手伝って貰えることがあるか考え始めた。
「そうねえ……お掃除得意かしら?」
「はい!」
「それじゃあついてきて。」
マリーさんについていき、脱衣所に着いた。脱衣所の戸棚に掃除道具があるようだ。
「掃除道具はだいたいここにありますから、自由に取っていってください。個人の部屋以外特に入ってはいけない場所はありませんから、お掃除お願いしますね。」
「はい。任されました!」
私は箒と雑巾と桶を持って聖堂に戻った。まずは長椅子を箒で払って、そのまま床の土を払い出してしまおう。
鼻歌交じりに作業を続ける。長椅子を掃いていて思ったが、よく見ると長椅子はどれもニスがかけてあるようだ。ニスって結構昔からあったのかな?ニカワみたいなものかな。
少し時間は経って、扉の近くに埃や土を集め終わった。
「さて、これ掃き出して終了!」
勢いよく扉を開けると、驚いた顔をした人がひとり、外に居た。女性か?いや、気の迷いか、大方男性だろう。それも少年、いや青年のようだ。身長があまり高くなかったから見間違えた。その青年は比較的軽装の装備で背に短弓を背負い、腰に剣を差している。狩人のような様相だ。
それにしても少し女性に見えないこともないな。雰囲気がそう見える。まさかアッチの人だろうか?
「こ、こんにちは?」
「あ、はい。」
二人の間に数瞬の無音が流れる。口火を切ったのは私だ。
「教会に何か御用ですか?」
「あ、いや、ちょっと足が向いて。」
「それも何かの導きでしょう。いかがです?見ていきませんか?」
青年は少し考えるようにした。そして左手の袖を捲って、少し笑って首をかしげてさっと戻し、そして返答した。
「じゃあ少し見ていきます。」
「そうですか。ではお名前は?」
「レイゼンです。」
「レイゼンさんですか。私はセーレです。ではどうぞ中へ。あ、でも少し待ってください。ちょっとホコリを掃き出しますから。」
ささっと箒で掃き出してレイゼンに向きなおる。
「さあ行きましょう。」
レイゼンを連れて壁画のところまで行く。ちょうどマリーさんが私にしたように、私もレイゼンに太陽教について教えた。
実は信者を増やしたり、信者でない人に紹介をすることでも信仰ポイントがたまるのだ。なにこのマルチ商法。
「以上が太陽教の概要、始まりです。……あと、お祈りでもしていきますか?これからがうまく行くように、とかでもいいですし。」
「じゃあ、していこうかな。」
レイゼンさんを連れて偶像の前に出る。
「あれは太陽神様を模した石像です。あちらを向いて、片膝をついてください。そして手を、このように組んで何かお願いしましょう。」
レイゼンが目を閉じる。私もそれを見届けてから目を閉じる。何を願おうか。この際だしこの出会いがよりよいものに繋がるようお願いしよう。あとレイゼンの改宗を。
お祈りが終わってから、少し話をすることにした。長椅子の一つに二人で並んで腰かける。
「レイゼンさんは何をなさっているのですか?」
「何をか……開拓者かな。街の外に行って魔物を倒してます。」
「それはそれは、私たちがこうして安心して暮らせるのはレイゼンさんのおかげですね。」
「いや、僕一人の力じゃないですよ。僕なんて弱っちい方です。」
「それでも、ありがたいものです。私たちは魔物になんて勝ち目がありませんから。なにかお礼がしたいものですが……。」
何を大嘘を言うか。農民ならいざ知らず、私はたぶん倒せる。
「いや、いいですよ。今日は色々教えていただきましたし。」
「そうですか。」
その後もお話を続けた。レイゼンにとって私が魅力的に見えるように。
お話をしているうちに、レイゼンが帰る時間になってしまったようだ。
「もう行かれるのですか?」
「また、いつか来るから。」
「本当にですね?私聞きましたからね?」
「ああ、きっと。」
もうちょっと愛想良くしておけばもう一度来るかな?
そうと決まればさりげないボディータッチでどうだ。そういう訳で、レイゼンの手をとる。
「また、来てくださいね。」
言うと同時に最大限の笑顔を放つ。これでいいかな?マリーさんに言われた掃除がまだ残ってるし、掃除に戻らなきゃ。




