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ひとりぼっち

 目が覚めた。



 昨日疲れたせいなのか体が物凄く重かった。こんなに体が重いと感じたのはいつくらいだろうか?きっと死に直面したという疲れが出ているのかもしれない。



 疲れていても生きるためには稼がないといけない。今日はパーティーを組んでくれるというので少し安心できる。でも、こんなこん棒だけで俺は後ろで見ているだけになるんじゃないだろうか。迷惑にならないかどうかそれだけが心配だ。とりあえずその旨はきちんともう一度説明しよう。



 部屋に時計というものがないため食堂に向かう。食堂の時計を確認しつつとりあえず朝食を食べよう。



「ふぅ。今日もなんか憂鬱な1日が始まるな」



 異世界に来るってこんなものなのか…。もっと良いことがたくさんあると思っていたけど何もない。いや、あった。この世界の女性は本当に素敵だ。それだけが唯一この世界で良いことのように思う。カップラーメンとか食べることができれば最高なのに

な。



「おじさーん。朝食お願いします」



「あいよ。疲れてたのか?結構遅い時間だぞ」



 時計を確認すると10時前だった。ギリギリ朝食を食べることができる時間だ。危なかった。この世界では体を動かすから飯を食べないなんて考えられない。もしかしたらあと5日だけしかここにいることが出来ないかもしれないのに飯を食べることが出来なかったら大損失だ。



「間に合って良かったです。今日はお昼から用事があったで」



「はいよ。朝食食べな。今日もしっかりと働いてくるんだぞ」



「ありがとうございます。頑張ってきます」



 そうして朝食を食べて部屋で少し休んで宿を出た。約束に遅れるようなことがあれば印象も悪いだろうからな。その辺りはきちんとしておく必要があるだろう。



 ギルドに到着してほどなくしてアーシェさん達がやってきた。アーシェさんの他にも二人。ちょっとガラの悪そうなタイプの男だ。俺は悪そうな奴らはだいたい友達~というタイプではない。むしろ悪そうな人とはあまり関わらないように生きてきたのでちょっとビビる。いや盛大にビビる。女の人だったらよかったのに。



「待たせたね。この二人が私のパーティーのメンバーだよ。この二人が前衛で盾使いと重剣士。盾使いのほうがローディー。重剣士のほうがパティスだ。仲良くしてやっておくれ」



「はい。えっと…俺は昨日冒険者になったばっかりで武器とかそういうのもよくわかってなくてこん棒しか持ってないんですけど大丈夫ですか?」



「あんた本当にそれだけなのかい?」



「ええ。とりあえず何かできることがあるならなんでもするのでお願いします」



「問題ないよ。色々と私達が教えてあげるからさ」



「それなら良かったです。お願いします」



「俺はローディーだ。よろしくな」



「俺はパティス。まぁ仲良くやろう」



 目つきは鋭くなんとなく目を見て話をすることは出来ない。それでもこうやって仲良くしようとしてくれるなら良い人…と思いたい。もしものときは全力で逃げる準備はしておこう。ティノの情報ではこの人達はあまり噂が良くないみたいだしな。でも、アーシェさんのおっぱいは今日もすごく魅力的だ。



「パーティー登録とかそういうのはしなくても良いんですか?」



「今日はまだ大丈夫さ。とりあえず私達が魔物を倒したりするところを見学して貰う予定だよ」



「分かりました。付いていきます」



 サラリーマン根性が身についているのか上の人からの命令には逆らうことが出来ない。



 アーシェさんがこのパーティーのリーダーというのは間違いないだろう。なんとなくこの二人もアーシェさんいついて歩いているような感じがする。


 俺もこの人についていけばある程度の暮らしはできるのだろうか?あんまり悪いこととかはしたくないが生きるためならある程度は仕方ないかもしれない。人殺しとかは無理だからそんな感じだったら逃げよう。初対面でこんな風に思うの悪いかもしれないが良いことをしているようには感じられなかった。



「アーシェさん。今日はどこに行くんですか?って言っても自分はどこかどこだかよくわかっていないんですが」



「今日は東門を出て森の方に向かう予定だよ。初心者にはぴったりさ。私達もいるから問題ないよ」



「それなら良かったです」



 森ってだけでなんとなく魔物に襲われそうな雰囲気しかしない。俺はもしかしたら気づかない間に死亡フラグを立てて閉まっているのかも…。まぁアーシェさん達がいれば魔物に襲われたとしても問題はないだろう。



 東口を出て歩いて1時間くらい立ってようやく森に到着した。それまでの間は基本アーシェさんと話をして少しだけ他の二人とも話をした。基本的に無口なのか知らないがあまり話をしない人たちみたいだ。



「この森はラビットウェアとか弱い魔物しかいないよ。問題はないさ」



「ラビットウェアってうさぎみたいなやつですか?」



「うさぎ?良くわからないけど耳が尖ってる感じの魔物ね。結構料理とかに使われてるから素材もそれなりに売れるわ」



 この世界の人はうさぎについてよくわからないみたいだ。この世界ではむこうの常識もある程度通じると思っていたけど全部が同じというわけじゃない。こっちの常識についても詳しく知っていかないといけないな。



 森の中に入っていく。知っている人がいるから良いが一人でこんな森の中にどんどん入っていこうなんて思うことは出来なかったっだろう。太陽があまり入ってこないせいないのか少し暗い気がする。まだまだ太陽は絶賛活動中のはずなのに。



「どこまで行くんですか?あまり魔物とか出てこないですね」



「まだだよ。もう少し奥にいかないとね」



 なんとなく後ろの二人がにやついていた気がする。きっと俺の気のせいだろう。



 そしてどんどん森の奥へと入っていく。ものの見事に魔物とは遭遇しなかった。本当にこの場所ってラビットウェアとかよく出て来るんだろうか?



「姉さん。もうこの辺で良いんじゃないか?」



 後ろに居た盾使いのローディーが声をかけてくる。この辺りで良い?魔物なんてどこにもいないんだが…。



「そうさね…まぁここで良いわね。さてと…えっと名前はケイって言ったかい?」



「はい?」



 えっ?名前もろくに覚えてくれてなかったのか…。すげーショック。



「何ですか?」



「残念ねー。あんたとはここでお別れになっちゃうの。残念だわ」



 すぐに悟った。あーこの人は悪い人なんだと。この人をこのおっぱいを信じたいと思った自分におっぱいは信じるなと言いたい。だって右も左もわからない世界に来て優しい言葉を投げかけられたら信じるしかないだろう?誰だって頼りになるものがあれば縋りたいと思うはずだ。でも、世の中はそんなに甘くなかった。この世界の人は良い人もいるがやっぱり悪い人も居るんだな。



「もしかして…俺ここで殺されちゃう?」



「そうねー。運が悪ければ死ぬかもしれないわね。私も鬼じゃないわ。あまり人殺しは好きじゃないのよ。だから、あんたはここで縄に縛って放置よ。そうすれば殺した履歴が残らないもの」



 鑑定というスキルがあるから人を殺したりすればわかるのだろう。その対策としてここで放置して盗みを働く。そうすれば人を殺めたことにはならないということなんだろうけど…鑑定の能力って思ったよりも欠陥なところがあるんだな。



「いや、でも俺なんかに金出せって言ったところで全然持ってないですよ?それにもしも俺がここから生きて帰ってギルドとかに報告したらどうするんです?勘弁して下さい」



「そんなの関係ないね。あんたとパーティーは組んでいない。目撃されていたとしてもたまたま一緒だったということにすれば何もないのよ。馬鹿な子ね」



 確かにアーシェさんの言うとおりなんだろう。後ろに居る馬鹿も俺のことを見て笑っている。あーやっぱり悪い人とは友達になることは出来ないみたいだ。この世界でも俺は悪い人はだいたい友達とはいえないだろう。それにもしかしたらここでゲームオーバーかもしれない。



「逃したりしてくれない…ですよね?」



「ふふふ。当たり前じゃない。さぁギルドカード差し出しなさい。あとは持っている金も全部ね。そのこん棒はいらないわ。売れないもの」



 追い剥ぎか。ジャンプしろよ!とか言われないだけ何となくマシな気がするが日本とくらべて違うのは人を殺すことができる武器があるかどうかだ。後ろの男二人は盾と大きな剣。そんな中で逃げたとしても逃げきれるかどうか…それに攻撃されて致命的な傷でも追ったらそのほうが大変だ。ここは大人しく差し出すべきなのか。それとも逃げて何とか逃げ切るしかないのか。



「おい。小僧早くしろ」



「坊や。もう君には残された時間はないの。早くしなさい」



 ここに来て何日目だ…3日か4日くらいだったと思うけど即ゲームオーバーかよ。そんなのあんまりだろ。あの神様も俺は救世主になれるとか言ってたけど俺はここで追い剥ぎ食らう寸前だぞ。くそ。文句言ってやりたい。こんなカス野郎に金も取られて働く場所も奪われるのかよ。世の中強いやつが正義とかおかしいだろ。



「嫌だ。お前らには絶対に渡さない!」



「そうなの?残念だわ。それじゃ力づくで奪わせてもらうわ。痛い目をみたいね」



「それも御免だ」



 逃げないと。頭の中はそのことでいっぱいだった。走った。ここは森の中。相手も視界が悪いから逃げ切れる可能性が高い。そう思っていた時が俺にもありました。



「残念ね。私達だけだと思ったのかしら?」



 走ったところには3人の男達が待ち構えていた。後ろを振り向くと他にも数名増えていた。



「もう観念したら?これだけの人数を相手にするのは坊やには無理でしょ?そのこん棒で倒せると思ってるのかしら?馬鹿ね。あんたみたいな役にも立たないクズをパーティーに誘うと思ってるのかしら?そんな馬鹿いるわけないでしょ。あんたなんか誰からも普通は声なんてかけられないわよ」



 わかってた。わかってたけど優しくされたら信じたくなるんだ。おっぱいに目が眩んだのも事実だけどこの世界で寂しく一人で殺されそうになって優しく声をかけらて…そんな風にしてもらったら期待してしまう。一人で居るのが怖かったんだ。



「…分かった。これで良いか?ギルドカードと有り金だよ」



 殺されるくらいならここでボコボコにされようが有り金もギルドカードも差し出したほうが良い。生きていればまた何かあるかもしれない。もしかしたらここでまた死ぬことになるかもしれないけど。



「利口な坊やね。構わないわ。殺すのはあまり好きじゃないのよ。縄で縛って逃げられないようにしな。ひと目につかないようにするのも忘れるんじゃないよ」



 アーシェ…目の前の女が部下かわからない男に指示を出している。俺はなされるがまま縄で縛られていく。そして木のところに縛られ身動きを封じられる。



「坊や。最後に言いたいことはあるかしら?私はあんたみたいな弱い男は大嫌いなのさ。胸ばかり見て気持ち悪いったらなかったよ。あんたみたいな男じゃ私じゃなくて他のやつらに何かやられて結局は死んでたわよ。早いうちに楽になれてよかったんじゃないかしら。幸せにね」



「こんなことしていたらいつか自分に帰ってくるからな。覚えておけ!悪いことをすれば必ずいつか自分も同じような目に合って死ぬことになるからな。俺は絶対に忘れないぞ!絶対にだ」



「知らないよ。それじゃさようなら」




 そして俺は一人森の中に取り残されることになった。何だか思ったよりも冷静な自分が怖い。森って本当静かだな。

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