色々な初めて。
「ごめんなさい。おばあちゃんは結構変わった人なので迷惑をかけてしまって…」
「いや、気にする必要はない。俺もちょっと突っかかりすぎてしまったから」
「はい。ありがとうございます。それでギルドの登録のことなのですが…問題はないようなので登録するためのクエストをこなしていただくことになります」
ギルドに登録するためのクエスト…とりあえず簡単なのをするという形になるのだろう。
「それでそのクエストというのは何があるんだろう?正直討伐とかそういうのは無理なんだが…」
「問題ありません。最初に登録するためのクエストは薬草などの採取をしてもらうクエストが多いですので。リストをお渡ししますのでこの中から選んでください」
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1.薬草の採取(5個)
2.毒消草の採取(1個)
3.満月草の採取(1個)
4.ゴブリンの討伐(1体)
5.ラビットウェアの討伐(1体)
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見せてもらったリストでは5つのクエストがあった。とりあえず討伐は無理。ということで残り3つに絞られる。薬草と毒消しは分かるが…満月草というのがいまいち分からないということで2つに絞られる。5個より1個の方が簡単そうに見えるが…
ここは無難に薬草の採取をするのが良いだろう。俺は初級の初級。この世界でも初級なので薬草とか分かるのが無難だろう。
「それじゃこの薬草の採取でお願いしても良いか?」
「はい。承りました。薬草…というのは分かると思うのですがサンプルの薬草を1つお渡ししておいたほうがよろしいでしょうか?」
「ああ。サンプルがあると助かる」
「それでは用意してきますね。今から直ぐクエストをおこなわれますか?」
「今すぐ取り掛かる予定だけど問題ないか?」
「はい。問題御座いません。このクエストに関しては制限がありますので今から24時間。24時間のうちに薬草を5個お納めするようにお願いします。薬草が集まりましたらここに戻ってきてまた私に提出してくだされば問題ありませんので」
制限時間は24時間。それだけあれば5個くらいなら問題なく集めることが出来るだろう。初級ということもあって基本的に無理なことにはならないだろう。少し安心した。
「了解。あとこの薬草とか良く生えている場所とかって分かるか?教えてくれると助かる」
「それなら街の東口を出て下さい。そこから公道沿いに1時間ほど歩いた場所に良く薬草が生えているそうです。多分そこで直ぐに集めることが出来ます。基本的にこのクエストをこなす人はそこで取ってくることが多いです」
「親切にありがとう。それじゃ行ってくるよ」
「はい。お気をつけて」
色々と面倒なことはあったがとりあえず冒険者ギルドを後にする。
ルシルは街の東口と教えてくれたが…俺は街の東口というのがどっちなのかわからない。太陽が昇るほうが東というのはわかるが今はお昼。真上に太陽がある。なので、どちらが東なのかというのが全くわからない。ここは勇気を持って道を聞くしかないのだろう。
冒険者ギルドの建物を出たすぐのところに売店があった。何か食べ物を売っている…おいしそうで食べたいと思ったが所持金がない。なのでここは我慢するしかないのがつらいところだ。
「すいません。道を尋ねたいんだけど良いか?」
「ん?」
相変わらず俺はマッチョとは縁があるらしい。店番をしている男はマッチョのいかついおっさんだった。この世界のマッチョ率は少し異常だ。
「街の東口というのが少しわからないから教えてほしいんだけどどっちに行けば良いんだ?」
「ああ。東口ならそこを真っ直ぐ行けばすぐにつくさ」
「ありがとう」
親切なおっさんで助かる。この世界は親切な人が多いな。あのばあさん以外は親切だな。
そして東口に到着したわけだが…不安だ。薬草を取りに行くだけというのは分かっているものの魔物とか出たりしたら持っているこんぼうで何とかしなければいけない。
こんなこんぼうで…そんなことが出来るのだろうか。殺傷能力のなさそうなこんぼうなんかが護身になるのか不安に思いつつ俺は東門を出てルシルに教えてもらったとおり薬草が生えているという場所に向かった。
歩いて1時間近くが経った場所に草原が広がっていた。この場所に薬草が生えているのだろう。薬草のサンプルを見ると普通の雑草にしか見えないのだが。
とりあえず見せてもらったサンプルと同じものを探すと直ぐに1つ見つけることが出来た。思ったよりも薬草は生えているのかもしれない。薬草を集めて小銭稼ぎをする人もいるんじゃないだろうか?でも、もしも魔物に襲われることを考えるとリスクのほうが高いからやらないのかもしれない。
魔物が出るかもしれない不安があったので出来る限りあわてて薬草を探す。
ゲームとは違う。簡単に薬草が落ちているものだと思っていたけどある程度探さないと見つからない。ここは魔物が出る可能性もある。そう考えるとリスキーだ。
副業でやろうと思っても死ぬ可能性があるようなことを進んでやるやつは馬鹿といっても過言ではないだろう。とりあえず早く探さないとという気持ちばかりが募ってくる。
「くそ。思ったよりも見つからないな。もう2時間近くになるのに」
ついつい独り言がもれてしまう。見つかった薬草の数は4つ。後1つあればミッションコンプリート。2時間で4つを見つけることが出来ているというのは効率が良いのか。それとも悪いのか。どっちなのかは分からない。でも、魔物なんかとエンカウントする前に何とか帰らなければいけないというのが俺の心の中に常にある。
後1つが見つからない。焦っていると悪いことを考えてしまうというのは本当なんだろう。魔物と遭遇して殺されることばかり考えてしまう。このままどうなるのか分からないが何とかしてでもこの現状を打破しなければいけない。思考がぐちゃぐちゃになってくる。
「ガガガアアガアァァアガアアガガガ」
変な声がした方向に目を向ける。そこには1匹のゴブリンがいた。こちらを見ている。俺もなぜかゴブリンを見続けていた。そしてつかの間…
「ガァァッァアッァァァァ」
ゴブリンが奇声をあげる。頭の中では逃げないといけないと思いつつもなかなか足を踏み出せない自分が居た。これは間違いなく詰んでいる。逃げなければ死ぬ可能性が高い。でも、身体が言うことを聞かない。
徐々に近づいてくるゴブリン。俺のもっている武器がこん棒とわかってなのか仲間を呼ぶ気配はない。それともゴブリンというのはこうやって単体で攻撃してくるものなのだろうか。
頭の中は冷静なのに動くことが出来ない。
やばい。
やばい。
やばい。
やばい。
こんなことなら本当…どこかのお店でアルバイトを探してほそぼそと生きるべきだった。ちょっと調子に乗って何かできるかおもしれないとか思ったのが悪かった。
いや悪いのは自称・神(笑)のせいだ。救世主とか大げさなこと言いやがって…雑魚モンスターに負けるレベルじゃないか。
あぁこれはきっと詰んだ。きっとこれも何かの罰なのだろう。さっき棺桶に片足突っ込んでる老人にババア呼ばわりしたせいだろうか。
「キシャーーーーーーーーーーーーー」
無駄なことを頭の中で思い浮かべている間にゴブリンは俺の直ぐ側まで来てしまった。そして襲ってくる。
ナイフみたいな武器を持っているためあれに切られたらこの世から一発退場だろう。まだだ。
まだ終わりたくない。
俺はこんなところでまだ死にたくないんだ。もう1回死んでいるけれども俺はここで死にたくはないんだ!!!
そして俺は頼りない唯一の武器こん棒を握りしめゴブリンに向かっていく。
「うぉーーーー。死ぬもんか!雑魚キャラに殺されるなんてまっぴらごめんだ!!」
「ガァァガガァァガガァ」
1体1の決闘…なんて格好良いものじゃないがもしかしたら今まで生きていて一番気持ちが高ぶっているかもしれない。死ぬ間際には人間は性欲が強くなると聞いたことがあるがそのようなものなのだろうか。今ゴブリンを殺すことに俺は人生のすべてをかけている。片手にはこん棒。これだけが俺の唯一の生命線。叩くことしか出来なくとも殺すことは可能だ。
そして俺は持っているこん棒をゴブリンめがけて振り下ろす。
ゴブリンも俺がこん棒で殴ることをわかっていたのか交わそうとするモーションを見せた。だが、俺のほうが少し早かったのかゴブリンの頭にこん棒が当たる。
「ガァガァアアァァ」
痛そうにしているゴブリン。これはいける。間違いなくいける。
そう思ってからは早かった。ゴブリンが逃げればそれでも良かったのだが諦めずにこちらに向かってくる。俺も生きるために必死だったためゴブリンめがけてもう一度こん棒を振り下ろす。ゴブリンは魔物だ。モンスターだ。でも、人型に近い魔物。俺は今までの人生で人に殴られたことはあっても殴ったことはない。
人生で初めて殴った(こん棒でだけど)相手がゴブリンというのはなかなかにシュールだ。それでも生きるためには必要なこと。俺はゴブリンが息の音を止めるまで殴るのをやめなかった。
「ハァハァハァハァハァ…」
「やった…ははは。やった。生きてる!ゴブリンを倒したぞ。倒した。俺はまだ生きてる」
初めて生き物を殺し。気持ちが高揚してしまっていた。罪悪感があると思ったが人間は生きるために何かを殺すもの。殺されそうになったら生きるために殺すのは当たり前。そう考えうと自ずと罪悪感はなかった
【レベルが上がりました!】
頭の中で何かが鳴り響いた。レベルが上がった…だと?