選ばれし者?
ギルドの中は何と言うか平凡だった。まるで市役所…と言えば良いと思う。受付があって掲示板がある。騒がしい部分を考えると市役所というわけじゃないのかもしれないけど。
とりあえず受け付けという文字を確認したのでそちらに行くことにした。
受付は始まっているもののカウンターは空いていた。3つカウンターがあるうちの一つだけが空いていたのでそこに座る。ラッキーなことに優しそうなお姉さんだ。
今の今までむさい男としかほぼ付き合いがなく宿屋の美少女には嫌われ宿屋で知り合ったのもまた男…俺は前の世界同様この世界でも女性とは縁がないのかもしれないと思ったが違ったみたいで安心した。自分の運は少し上向き気味なのかもしれない。
「登録したいんだけど…良いか?」
「はい。私はルシルと申します。本日は私が担当を受け持つことになります」
可愛い。
あー可愛い。こっちの世界の子は可愛い子が多いという気がする。それだけでこっちに来た甲斐があるようなそんな気がする。男ばかりの世界からやっと抜け出すことが出来た気がする。
優しい笑顔に癒される。見た目もほわ~としていて癒し系だな。あと見ただけで分かるあの胸。大きい。グラビアアイドルになることが出来るんじゃないかというくらい大きい。自称・神(笑)ありがとう。この子を一目見て話をすることが出来ただけで俺は幸せだ。
「えーっと何も分からないから一から教えてくれない?」
「分かりました。それじゃ説明させていただきますね」
可愛い。
「よろしく」
「はい。こちらは冒険者ギルドになります。貴方はこのギルドに登録を希望されるということで間違いありませんか?」
「間違いない」
可愛い。
「ありがとうございます。冒険者ギルドは基本的には国や商人の方などからの仕事を引き受けています。例外などもございますが基本的にはとお考え下さい」
「可愛い」
「えっ?」
「あっ!いや…何もないから気にしないで続けて」
やばい。心の中の声が漏れてしまったみたいだ。本当可愛いなぁー。こんな子が居る世界って本当最強だ。もう話しているだけで可愛い。
「わ、分かりました。冒険者ギルドに登録するには銀貨1枚が必要です。銀貨1枚というのは貴方がギルドに所属したときに発行するためのカードが必要となるからです。このギルドカードがあれば身分証明となりどこの国にも滞在が可能となります。もしもこのギルドカードをなくしてしまったときには金貨2枚のガルが必要となってくるためお気をつけて下さい」
「了解。気をつけるようにするよ」
「はい。お気をつけ下さい。ギルドに登録するためには貴方のご氏名と犯罪の履歴などを確認させていただくことになります。犯罪の履歴などがある方は残念ながら冒険者ギルドやその他ギルドには登録することが出来ないことになっています。例外の方なども居ますが基本的に普通の登録の際にはお断りしているのですがそこは大丈夫でしょうか?」
「問題ない。見たとおり一般市民だからな」
「それなら良かったです。ギルドに所属しますとギルドに発注がきたものをクエストとして紹介することになります。ランクに分けてお仕事を紹介することになりますので…最初に貴方が登録した際には簡単なクエストしか受ける事が出来ないと思っておいて下さい」
「簡単なクエストというのはどういうのがあるんだろう?」
「簡単なクエスト…まずはランクの説明をしたほうが分かりやすいとおもいますのでそちらから。ギルドはランク別に冒険者の方々を分けています。登録したばかりの人はFランクです。最高のランクはSランク。これは世界でも数人しか居ないランクになりますので貴方もそこを目指して頑張って下さい。ランクはクエストをこなすことに上がっていきます。Dランクまではクエストをこなすだけで構いませんがCランクになるためにはギルド内でのテストを行います。それに合格すればCランクです。基本的にはCランクから上になるためにはギルド内のテストに合格しないといけません。何か質問などがあればいつでも言って下さいね?」
可愛い。本当天使みたいな子だな。この子にまた会いたいと思って死なずにクエストをこなす事が出来そうな気がする。
「今の所大丈夫。何かあったら質問するよ」
「はい。ランクとクエストなどについては説明させていただきましたのでここからは登録するにあたっての説明に入ります。登録するためには先ほど言ったとおり銀貨2枚が必要となりあとはFランクのクエストを1つこなしてもらいます。問題なくクエストをこなせば貴方も冒険者ギルドに所属という形になります。もしも失敗してしまった時には銀貨2枚はお返しするという形になっておりますので気軽に挑戦してみてください」
「それじゃ今からお願いすることは出来るか?直ぐに登録したいんだ」
お金がない。少しでもお金を稼いで生きていくために何とかしなければ…このままでは浮浪者。そんな末路だけは絶対に嫌だ!絶対にだ。
「分かりました。それじゃ貴方の氏名と一応犯罪履歴の確認をさせていただきますね。お名前などは書くことが出来るでしょうか?もしも無理な場合には私が書きますので言ってください」
日本語しか書けない自分にとっては書いてもらうほうが良いのだろう。子猫の宿り木に宿泊するときにも美少女…美女に書いてもらった。でも、この世界は日本語で書いても何の問題もないのだろうか?文字に関してはまるで日本語としか思えないものだらけ。
自分が書くことによって何か変化したりなどしないのか…やっぱり色々と疑問が残る。異なる文明が発達しているのに文字が同じというのは普通に考えて有り得ないだろう。物は試しという言葉もある。それなら自分で書いたほうが得策かもしれない。
「大丈夫。自分で書くから何か書くものを貸してくれる?」
「文字が書けるのですね。読み書きは両方とも問題ないのでしょうか?」
「ああ。問題ないけど…何か変なのか?」
疑問に思うような言葉。もしかしたらこの世界では物書きをすることが出来るというだけでもそれなりのスキルなのかもしれない。
「いえ問題はありません。むしろ読み書きをすることが出来るに越したことはありませんから。読むことが出来ても書くことが出来ない人も多いですからね。読むことが出来ない人も中には居ます。両方することが出来るというのは立派なことですよ」
やはりこの世界では学校という教育機関がしっかりと成り立っていないのだろう。子猫の宿り木からここまで来る道中で子供が沢山いた。それを考えると子供が学校に行っていないということになる。そう考えると読み書きが出来るというレベルでさえなかなかのものなのかもしれない。多分親や自分で習いに行く事がない限りないと思って良い。
「そうか?ありがとう。ここに名前を書けば良いんだよな?」
「はい。そうです。ここに名前を書いていただくだけで構いません。契約条項などは良くお読みになっておいてくださいね。それじゃ私は貴方の犯罪経歴などの確認するスタッフを呼んできます」
「よろしく」
契約条項に関してはさきほどルシルが言っていたこととほとんど代わりがないものだった。付け加えるとするならばもしも殺人などを犯してしまった場合にはギルドを追放となる。戦争に関しては別物だが同じギルドに所属しているのものは争いはあっても殺してはいけないという決まりごと。まぁ当たり前の事だけどな。こっちの世界と元居た世界の治安の違いなどを具間みた気がする。
「お待たせしまた。鑑定士の方を連れてきたのでそのまま座って待っておいて下さい」
「了解」
後ろからのっそりと出てきたのはもう老婆と言われてもおかしくない年齢の女性。鑑定士というか占い師のような格好をしていた。なんというか不気味な感じだ。
「人を殺した経歴はなしじゃな。ところでお主…選ばれし者のようじゃな。きっとお主は近いうちにSランクの冒険者になろうだろう。わたしの目に狂いはない。お主…名は?」
「…ケイだ。どういうことなんだ?意味が分からない!」
3行で説明してくれ!俺がSランク?今を生きるのにもギリギリな俺がSランクなんて考えることも出来ない。この世界にどんな魔物がいるのかは分からないがもしもドラゴンなんかが出てきた日には…もう逃げることしか考えられないからな。
「ケイ…か。ケイは何も知らないのじゃな。ふむふむ…自分で切磋琢磨して頑張ることじゃ。そうすれば道はおのずと開かれるであろう」
このババアは一体何を言っているのだろう。俺は正直老人というのが苦手だ。何を考えているのか子供と同じくらい分からない。本当目の前の鑑定士…というのは何を言っているのだろうか。切磋琢磨って今の時点で既に必死にやってるんだよ。こっちはまだこの世界で2日目なんだぞ!
「何か知っていることがあるなら教えてくれ。俺は今本当に困ってるんだ。ばあさん頼む!何か知ってるなら俺に教えてくれ」
必死だ。もしかしたらこの世界で生きていくための安全に生きていくための手がかりがあるかもしれない。
「何も知らんさ。わたしはただ見えるだけじゃ。ただ見えるだけ。お主は間違いなく選ばれている者じゃ。Sランクの冒険者達同様にな。それ以上の力をお主は秘めているとわたしは思っておる」
こいつ早くなんとかしないと…ってレベルじゃない。もう本当に何とかしないと天国に逝ってしまうってレベルなんじゃないだろうか。
「俺がSランク?とりあえずその理由を説明してくれ。そうじゃないと納得できないだろ!」
教えて欲しい。こんな世界に来て自称・神(笑)には救世主だの言われて俺に何が出来るんだ?
道しるべがあれば何かと行動することは出来る。でも、今の現状じゃ俺は浮浪者の一歩手前だ。何が出来るのかそれを明確に示してくれよ。
「それは無理じゃ。わたしには分かるということだけ。それだけじゃ。お主にはその力があることは分かる。それが見える。ただそれだけなのじゃ。お主には納得することが出来ないのかもしれんがな」
納得できるわけがない。
そんな説明だけで俺がSランク以上の冒険者になるなんてどう考えても不可能だ。ハッチでも上には上がたくさん居ると言っていた。そんなハッチに俺は一発だって攻撃を加えることが出来る気がしない。冒険者でもない宿屋の店主にすら勝てる気がしない俺に何が出来る。
「ストップです。お二人とも少し落ち着いて下さい。ルシルが怒られてしまいます」
ばあさんに迫っている俺を止めるようにルシルが声をかけてきた。
可愛い。正義だ。
いや違う。今はそういう事を考えている場合じゃない。何か道が見えるかもしれない。俺がこの世界で生きていく道が。それなのに冷静で居る事が出来るわけがない。
「わたしは落ち着いておる。そこの小僧が興奮しているだけじゃ」
「おばあちゃん止めて!興奮させること言わないでよ」」
有り得ない言葉を聞いた。【おばあちゃん】?なんだ。このよぼよぼのババアの孫がこの可愛いルシルちゃんとでも言うのだろうか。いや、待て。そんな馬鹿な。有り得ないだろう。このババアの遺伝子がこんな可愛い子になるのだろうか。
「ばあさん悪かったな。その可愛い子が本当にばあさんの子供なのか?俺にはそれが不思議でならない。俺がSランク以上になることが出来る以上に!!」
本当にそれ以上に疑問に思った。将来この可愛い子がこんなババアに…というのを考えたくなかったのかもしれない。
「お主失礼じゃな。わたしも昔はルシルのように可憐な乙女じゃったのじゃ!男にはモテモテだったんじゃぞ!」
「そんな馬鹿な(笑)ばあさん棺おけに片足突っ込んでぼけちまったのか?(笑)」
「本当お主失礼な奴じゃな。お主のような性格の持ち主がSランク以上になったら末恐ろしいわ。何をたくらむことやら」
「ばあさんも失礼だろ。何か知っている口ぶりの癖に結局何も知らないとか」
「ふん。知らんもんは知らんのじゃ」
「二人ともとりあえず落ち着いて下さい。えっと…ケイさんは問題なく冒険者ギルドに登録は可能なようなので手続きを進めないと…」
ルシルちゃんがまたしてもあたふたした感じで間に入ってきた。可愛い。この子の可愛さのおかげで俺の心は何とか穏やかでいることが出来るんじゃないだろうか。本当癒し系の子って凄い。
「悪い。ちょっと取り乱してしまった」
「ふん。この小僧が悪いんじゃ」
「まぁまぁ。おばあちゃんはもう鑑定も終わったし部屋戻って良いよ。私はケイさんのギルド登録進めないといけないから」
「ふん。わかったわい」
そう言ってばあさんは退散した。でも、本当にルシルのばあちゃんなんだろうか。不思議で仕方ない。