世はまさにファンタジー
目が覚めたら自分が違う人になっていてどこか違う場所に居たら良いのに。
そんな事を昔考えたことがあった気がする。正直なところ本当にそんなことがあったら迷惑するだけでそんな世界でなかなか生きていく事が出来るなんて思えない。
まさに今の俺がそんな状況だ。これから先のことを考えると不安しかない。手元に残るお金はほんの少し。お金も稼がないといけない。持っているのはこん棒とただの布の服。それ以外何もない。このこん棒を売ればいくらか金になるかもしれないが二束三文だろう。だからこそ今日はお金を稼ぐために何とかしないといけない。
ギルドに登録してまともに稼げなければどこか普通にアルバイトをすることが出来るような場所を探せば良い。人間やれば何でも出来る。物乞いのようなことにならないようにだけ生きていければそれで良いんだ。
「おしっ!覚悟は出来た。朝食べたら行くか!」
誰も居ない中で何となく自分を奮い立たせるために声を出す。なんともまぁ虚しいものだ。
下に降りると良いにおいが充満していた。もう朝の準備はばっちりのようだ。食堂の中をのぞくと何人かの人が座っている。相席ということになるのだろう。だって、この店の食堂には大きなテーブルが1台あるだけだからな
「おじさん。朝食お願いできますか?」
「あいよ。ちょっと待ってな」
しばらく待つとキッチンからこの宿のキッチン兼オーナーのおじさんが持ってきてくれる。ペンションに来ているような感覚。ここだけで世界が完結してくれていたならどれだけ良かっただろう。
「ありがとうございます」
「席は好きなとこすわんな。相席になるが気にすんな。結構長く泊まっているやつが多いがみんな良いやつらだ」
「はい。ありがとうございます」
「嫌いな物があったら気にせず残しておけよ。嫌いな物は食べなくて良いってのが俺の考えだからな」
「はい。感謝します」
さっきからお礼しか言っていない気がするが…ここのおじさんは本当にムキムキマッチョなのに優しい。本当にこの人になら掘られても良いと思えるかもしれない。いや、実際無理だけど。
「隣失礼しますね。えっと…一応昨日からここの宿に泊まっていて1週間は最低でも滞在する予定なのでお願いします」
正直挨拶なんかしても意味があるのかは分からないが変に角を立てるのは良くないからな。挨拶だけはしておこうと思った。
「おう。よろしくな。何かあったら相談に乗るが有料だ。」
となりの席に座る無愛想な男が答える。おじさんどうよう体は筋肉質ではあるが細身。隣に立てかけているのは大きな剣。ハッチが持っていたようなタイプの武器だろう。きっとこの人も同じ冒険者の一人に違いない。周りを見渡してみると…
他にも4人ほど席に座っている。基本的に男。女が一人だけ。女性はムキムキかと思いきやそれなりに細身でスレンダーな感じ。美女というわけではないが当たり障りのない顔という感じだろうか。
他の4人に関しては俺のことは気にせず食事をして話をしている。まぁ正直宿に誰か人が入ってこようが関係ないだろう。それも見た目がこんなひよっこじゃ…相手をする気にもなれないのだろう。
「ありがとう。敬語は面倒だからこれからは普通に話ししても良いか?」
「ああ。別に構わない。俺もその方が楽だからな」
「ありがとう。俺はケイ。有料でも何かあったらもしかしたら相談するかもしれない」
「ふっ。冗談さ。有料じゃなくても相談くらい気軽にのってやるさ。俺の名前はカース。よろしくな」
この世界の男は優しい男が多いのだろうか?出会う人出会う人…良い人が多すぎる気がする。まるで俺が本当のダメ人間のようにさえ思えてしまう。それともただ単に自分の運が良いだけなのかもしれないが…ラッキーだったと思っておこう。
「助かる。カースは冒険者なのか?なんとなくそんな感じがするんだけが…?」
「ああ。ケイの言う通りだ。俺は冒険者で一人で旅をしている。目的があるんでな。その目的の為に色々と旅をしてるんだ。この目的というのはいえないから詮索しないでくれ」
「分かった。先輩…になるかもしれないということで一つ聞きたいんだが良いか?」
「なんだ?」
「冒険者って…お金って儲かるのか?」
純粋に一番気になる事を聞く。生きるか死ぬか…資本主義社会で生きていくために何が必要なのか。答えは一つ【金】だ。
「お前…冒険者を目指しているのか?腰に掛けているのはこん棒…それで冒険者になるつもりか?」
「えっ?なに?俺は何か間違ってるか?」
「いや、お金がないなら仕方ない。だが、そんな装備で魔物の相手などしたら死ぬのが落ちだぞ。危険だ」
きっとカースの言うとおりなんだろう。この格好で外に出て魔物と戦おうという猛者などどこにも居ない。
でも、俺は貧乏なんだ。
お金がない。
ここの宿賃を払ってしまった手前これから生きていくためにどうするのか…少しくらい命の危険があったとしてもやるしかないのだろう。俺としてはそれくらいの覚悟は持たないといけないと思っている。
「わかってる。でも、今の俺には服を買うにもお金がない。だから、何とかして少しでも金を稼がないと生きていけない」
「…そうか。色々と苦労してるんだな。とりあえず金を助けてやることは出来ないが何か相談したいことがあるならいつでも言ってくれ」
「ありがとう。本当この世界のマッチョメンどもは良い奴が多いな。本当助けてもらってばかりだ」
「この世界?」
「いやこっちの話。気にしないでくれ」
「そうか。それじゃ俺は失礼するが何かあったら相談してくれよ。何だか危なっかしくて心配だからな」
本当この世界のマッチョメンどもは男気というのが溢れているんだろうか?
何度もこの男になら抱かれても良い!って思ってしまっている。もしかしてこの世界はそういうところがあるのかもしれない…お尻の穴はしっかりと締めておかないとな。
時間という概念がこの世界にあるのは安心した。でも、時計というのがどこにでもあるものではなく食堂にあるのみ。基本的に時計は高価なもので持っている人は少数とのこと。感覚は分かるものの時間を確認するために時計があるところに行って確認しないといけないというのは不便なところだ。
このことを親父さん=宿屋の店主に聞いたところそんなことも知らないということで驚かれた。後ろで食堂で食べていた数名に笑われてしまい何だかものすごい居心地の悪さになり早々に退散。
食堂の時計を確認したところ9時を回っていたのでギルドに登録するために出向く事にする。
まるで面接に行くような気分。誰でも登録することが出来るようだが…そこからは苦難の道が待っているかもしれない。正直それなりに生きていく事が出来れば何でも良いのだが…まぁ勇気を持っていざギルドへ!
道中驚くことが沢山あった。
1つは色々な人種が居る事。どのような人種が居るのか?とか誰にも相談することなどできず亜人と呼ばれるであろう人たち。普通の人間。耳が長い人間…は多分エルフと呼ばれる人たちだろう。他にも耳がウサギだが見た目は人間。
この世界にはありとあらゆる人種が居るようだ。もしや…と思っていた獣人にも会うことが出来た。
ファンタジー。
世はまさにファンタジー。
目の前に広がる世界は本当にゲームの中に居るような感覚。これがリアルなゲーム世界だといわれたら信じるかもしれない。
そんな世界がそこにある。
ゲームの世界であれば死ねば町などに戻ってやり直しが出来るのかもしれないが俺のは現実。死ねばきっとゲームーオーバーだろう。いや…でも、もしかしたら俺の夢なのかもしれない。そんな風に昨日少し考えてた。
しかし死ぬなんて危険がある行為はできない。それでもしも本当に現実だったら洒落にならん。死ぬだけ。無駄死にになる。
しっかりと確認するまではここがゲームなどと思わずに現実の世界だと認識して生きていかないといけない。
でも…
こんなファンタジーな世界が目の前に広がっていたら誰だって現実じゃなくてゲームだって思うだろう常考。
「はぁ。俺は本当とんでもないとこに来たみたいだ」
独り言。本当に精神的におかしくなってもおかしくない。俺はいつからこんな精神的にタフになったんだろうか。
意外と人間飛び込んで見れば慣れるために必死になるものなのかもしれない。生きていくために何とかしようともがくのだろう。こんなことならあっちの世界で生きているときに海外にでも行けばよかった。
ちょっとワクワクするような気分もあるが不安の方が大きい。普通の人間が半数以上は占めるといっても人間じゃない人とコミュニケーションなどとることが出来るのだろうか。やはりこの世界にもそう言う人種間の差別なども存在するだろう。
何も分からない俺が生きていけるほど世の中は甘くない。そんな気がする。だから、不安がどんどん募ってくる。死んだら楽になるのかもしれないとかふしだらなことを考えてしまう。俺ってやっぱり弱い。
人種もそうだが不思議なのが全員の言葉が共通して日本語のように聞こえるというのも不思議だ。これは自称・神(笑)の補正効果などがあるのだろうか。もしももう一度会うことがあるならそれも確認しておきたいことの一つになるだろう。
武器や防具のお店があったり不思議な薬草があったり…あと一つ一番興味が出たのが魔法。魔法のお店もあった。これには多少なり興奮した。お店の中には入れないにしろ魔法。
誰しも小さい時に魔法を使うことに対して夢を抱くだろう。俺もその一人だ。
飛んだり指から火を出したり…どんなことが出来るのだろうとワクワクした。魔法を覚えることが出来るならぜひとも覚えたい。この世界でやりたいことの一番に位置づけられた。もしも精神的に余裕が出来たら魔法のお店に行こう!そう心に誓った。
【冒険者ギルド サノワ支部】
入り口の上の所に大きくと掲げられた看板?というのだろうか。そこには冒険者ギルド サノワ支部と書かれている。きっとサノワというのはここの地方の名前になるのだろう。
サノワ…まるで聞いたことがない。日本の地方名では有り得ないような名前なんじゃないだろうか。まぁ俺がただたんに無知ってことも有り得るんだが。まぁ。早いこと安定した生活が欲しい。きっとこれも社会人として生活をしてきたからだと思う。安定した生活ほどホッとすることができるような一時はない。
そして俺は冒険者ギルドの扉を開けた。