ここ…どこ?
目の前に広がる草原を俺はどこかで見たことがあるような気がした。
ふと思い出したのはそう…モンゴル。
実際に行ったことはないがテレビなどでモンゴルの地平線の特集などをやっていた。そんな場所だった。
なにもなくただただ草原が続いている。
綺麗だ。
正直にそう思ったが色々と記憶が鮮明に思い出してきたときにはこんな考えも吹き飛んだ。
「おい!!おっさん!お前…絶対に許さない。絶対にだ!」
強くてニューゲームじゃないのかよ。それに何だよ草原って。ここで一人で置いておいて無視とか悪逆非道にも程があるだろう。追いはぎってレベルじゃないぞ。マジで半端無い。
かろうじて服は着ているものの持っているものは僅かなお金とこん棒みたいな木だけ。
ちなみにお金と言っても日本円などではなく見たこともない銀貨が4枚だけ。400円?自称・神はとてつもなくケチらしい。
ここに居ても仕方ないということで移動したわけだが歩いても歩いても何もない。本当にこのまま人と会わずに。飯もなく。俺は死ぬんじゃないかという心配が出てきた。
一度車ひ轢かれて死んで。生きたいと言ったらまた死ぬ。
もしかしてここは仏教でいう三悪道ってやつじゃないか?一生抜け出せない餓鬼の道。地獄だろ。死を何度も繰り返さないといけない。ループ。
そんな世界に俺はいるのだろうか…
不安が徐々に募ってくる。
足はどんどんおぼつかなくなる。
目の前が真っ暗になりそうになって躓いて俺は転んだ。
もう笑うしかないだろう?
だって、自称・神(笑)に騙されて生きたいとか言わなければこんなことにはならなかった。
きっとこれは強欲な人間への罰なのだろう。
そうだ。それに違いない。
そうじゃなきゃこんなことにはならないはず。強欲な人間への罰。俺は死んだのにまた生きたいと高望みをした。それがきっと神の機嫌を損ねたのだ。
もう本当笑うしか無いだろ?
「ははは…あーーーーーははあははあはあ」
涙を流しながら笑っている男。
シュールな光景。本当滑稽だ。
きっと俺はまた死ぬんだろう。いつになったら俺は普通に死ねるんだろうか?もしかしたらこの前が初めてじゃないのかもしれない。俺は記憶がないままに何度も何度も死を経験しているのかも。そう考えたらまた不安が大きくなる。
もうだめ。
そしてまた目の前が真っ暗になった。
温かい。
人間は温かい場所にいるとホッとすることが出来る。
テレビか何かで見たような気がする。今ならそれが本当なんだろうなって気がした。
俺はまだ生きている。
そう実感することが出来た。
「起きたか?」
声のするほうに目を向けると一人の男が座っていた。がたいの良い屈強な男。それが第一印象だ。
「ほら。これでも飲め。感謝しろよ。あんなとこで一人で倒れていたらいつ魔物に食われていたか分からないんだからな。」
「えっ?魔物?」
「なんだ?お前魔物も知らないのか?どこのやつだ?」
魔物という意味の分からない単語を言っている。魔物…知らないわけじゃない。ゲームとかじゃ当たり前のように出てくるモンスターだ。知らないわけがない。だが、現実世界にそんなのが居たら大問題だ。正直そんな世界で生きていく事が出来る気がしない。
これはまさか…
自称・神(笑)の言っていた別の世界の常識なのかもしれない。
受け入れ難い話ではあるがそういう世界があるのかもしれない。
「記憶を。どこかで頭を打って記憶を忘れてしまっていて…かろうじて思い出せるのは自分の名前だけなんです。」
素直に知らないという事はせずに記憶障害にしておいた。本当にこういうときに記憶がないというのは都合が良い話だ。
「そうか。もしかしたらモンスターに襲われて逃げていたのかもしれないな。あんな場所にいるくらいだ。俺はハッチ。見ての通り冒険者だ。」
「俺は……ケイです。自分は何をしていたのか?ここがどういう世界なのかそういうのは全部覚えてなくて…教えてくれると助かります。」
「辛いな。家族の事も忘れてるのか。ここはティノワール王国だ。ケイもここにいるってことはティノワールの国に住んでいるのだろう。格好を見るに…冒険者というわけでもなさそうだがな。どうしてこんなとこにいるのか本当に思い出せないか?」
目の前にいるハッチの格好を見ると…屈強な肉体を守る鎧。自分はただの布。一目瞭然…俺はただの一般市民みたいな感じだ。
「そんなことじゃステータスとやらについてもなーんも知らないだろう?」
「ステータス?どういうことです?」
「ステータスってのはそいつのHPとかMP。特技とかを全部見ることが出来るんだよ。他人のを見ることなど出来るスキルなんかもあったりするが俺はそういうの持って無いからな」
「それって俺も確認することが出来ますか?」
「当たり前だろ。この世界に住んでるやつは例外なく誰でも見ることが出来るんだよ。出来ないなんて聞いたことないぞ」
「やり方とかって教えていただけますか?」
「お前本当記憶喪失なんだな。生まれてきたらまずは鑑定をされるもんなんだけどな。頭の中でステータスって唱えるだけだ。ステータスを見ようと思って唱えるんだぞ。簡単だろ?」
本当に簡単だった。自分のステータスが表示される。
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ケイ LV1 平民
HP120/120
MP20/20
スキル
剣術LV1 体術LV1 料理LV2
ポイント 1500
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自分自身のステータスなどがまるでゲームのように表示される。不思議な感覚。どういうことだ?本当ここはどこなんだ?
疑問が更なる疑問を生む。
この世界で俺は生きていく事が出来るのだろうかという不安。
一つ救いだったのは目の前にいる屈強な男と出会えたこと。それだけが俺にとって本当の救いだ。
「1つ聞きたいことがあるのですが良いですか?このポイントというのはどういうことでしょうか?」
「ポイント?なんだそれ?聞いたことないぞ」
「えっ?でも、俺のステータスの欄にポイントってのが表示されているんですが…」
「???何かの間違いじゃないか?表示されるのは名前、レベル、職業、HP、MP、スキル。それだけだぞ?」
おかしい。
そんな馬鹿な。
自分のステータスをもう一度確認する。
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ケイ LV1 平民
HP120/120
MP20/20
スキル
剣術LV1 体術LV1 料理LV2
ポイント 1500
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きちんとポイントというのが表記されている。この1500というのはきっと残りのポイント数になるはず。
もしもこれを使えるとしたら自分のスキルなどに割り振りなどがおこなえるはず。そのはずだが…
目の前の男はポイントなどはないとはっきりと言った。
これはもしかすると俺にだけ特別に与えられたものなのかもしれない。自称・神(笑)が本当の神だったとするとこれくらいたやすいことかもしれない。
それならこのことは他に何も言わないほうが得策なのでは?そう思った。
「すいません。なんだか勘違いしていたみたいです」
「おう。そうか。それなら良いんだけどよ。とりあえず俺は明日に町に帰る予定だ。付いてくるか?」
「はい。出来れば一緒に連れていっていただけると助かります」
目の前の男はどこまでも親切な男だ。こいつになら掘られても良いなんて言葉が頭をよぎった。