長老
この世界に来てからというもの、正直言ってあまり良い思いをしたことはない。
いきなり荒野に独りぼっちにされる。
知らない人についていけば、かつあげされたあげき森に縛って放置される。
こんなことされちゃ、この世界を好きになれという方が無理があるというものだ。自分自身さえ守ることが出来ずに、どうやって救世主になれというのだ。本当、困ったものだ。
そんな辛い世界でも、やっと俺が辿り着いた妖精の村。
この世界は、美しい。
そう思うことが出来た。ネアとシルビアと、あの森で出会うことが出来たのは、俺にとって大きな転換期となると信じたい。いや、そうならないとマジで俺はこの世界でやっていけない気がする。
「本当、貴方は薄汚れた人間ね」
「本当です。汚いのですよ。そこの人間」
あぁ、でもこの口汚く罵られるのはなんだか空しくなるからやめてくれ。心読むとか、そういうの本当プライバシーの侵害だから。
「まずは長老が住んでる、家に行くわよ」
「ついてくるのです。この鈍足野郎ー」
歩いていく道中、遠目に妖精は確認するものの近づいてくる気配はない。こっちが見てると気づくや否や、慌てて逃げ出す始末。この世界では人間と妖精というのは、あまり良い関係ではないというのは事実のようだ。
「ここが長老の家よ。しっかりと挨拶なさい。もう1000年近く生きておられる凄いお方なのよ」
「ああ、わかった。とりあえずちゃんと挨拶するぜ」
そしてドアを開けた先には、長老と呼ばれる存在の方が座っていた。俺の中での勝手な長老のイメージというのは、白い髭を伸ばして、眉毛も真っ白で長く目に隠れている。そんなイメージだった。
座っていた妖精は、ネアやシルビアとそんなに変わることはない可愛らしい姿をしている。
「ふふ。人間のお方。私に驚いていらっしゃいますね。初めまして、私は妖精の長をしているエルモアと言います」
「あ、俺はケイです。何がなんだがわからず、森で縛られているところをこの二人に助けられて、ここに案内してもらいました」
「はい。大体の事情は承知しております。大変でしたね。ですが、簡単に人間と馴れ合うわけにはいかない事情があるんですよ」
妖精の長老は、流石は1000年も生きているというだけあって物分かりがよさそうな方だ。安心した。この人に色々と聞けば助かるかもしれない。
「ありがとうございます。ネアやシルビアが結構きつい態度だったので、長老さんも厳しいのかと思いましたが安心しました」
「ふふ。私は人間族の方とも交流を持っていた時代に生きていましたからね。だから、他の妖精と比べて人間という存在に対しての抵抗というのが少ないのです」
「そうだったんですね。ちなみにお幾つくらいなんですか?」
「は?」
「え?」
なんだ。長老からすごい怒りのオーラを感じる。近くにいた、ネアとシルビアを見ると手を頭の上にやって、上を見ている。完璧に、あぁこいつやっちまったなぁ~という感じがわかる。
女性に対して、年齢を聞くというのはマナー違反なのはわかる。妖精に対しても、そのマナーを行わなければいけなかったのか。これはやばい。いや、非常にやばい。
「えっと。本当すいません。年齢のことなんてどうでもいいですよ。本当ごめんなさい。長老さんは見た目も本当かわいくて、ネアやシルビアと同じくらいの年齢といわれても誰もわかりませんよ」
必死に言い訳をした。だめ。考えたら。
「あらあら。そうかしら?うれしいわ」
セーフ。まじでやばかった。
「それで色々聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「そうですね。色々聞きたいことは山ほどあることでしょう。ですが、もう時間も時間。私たちも休まなくていけなくなりますし、ゆっくりとお話できるときにでもよろしいですか?」
「はい。それでも構わないです。よろしくお願いします」
出来ることなら、今のうちに話とかしておきたいとは思ったものの相手の都合に合わせることも大切だろう。もう夜明けになる。もしかしたら、妖精にとっては結構辛い時間なのかもしれない。
「ネア、シルビア」
「はい」
「はいなのです」
「今日は、ケイさんをお家で休ませてあげて下さいな。周りからは文句を言われるかもしれないですが、私が指示したとお伝えください。何かあれば私が責任を取ると。ケイさんのステータスを見たら、衰弱しかかっていますので今は休まれるのが大切です」
「わかりました。私とシルビアがしっかりと、面倒をみることにします」
長老さん、マジ凄すぎる。妖精の家は、人間が住むには少し小さい気もするがそれなりに家も大きく建てられている。休む分には特に不便と感じることもないだろう。
「ありがとうございます。長老さん」
「いえいえ。人間の方が来られることなど、200年はなかったものでうから。大したおもてなしも出来ませんが、ケイさんはこの世界に大きな影響を与えるお方なることでしょう。妖精が見える。それだけでも、すごいことなのですよ」
「そういうものなのですね。また色々とお話聞かせて下さい」
「わかりました。今日はゆっくりとお休みになられて下さいね」
そうして、お礼を言ってネアとシルビアに付いてお家に案内される。妖精は大きくもないのに、どうしてこんな家に住んでいるのだろうかと疑問には思うものの。古来、人間と住んでいた風習などが根付いているのかもしれないな。
「ここが私とシルビアの家よ」
二人で暮らしいてるのか。家族…なんだろうか?その辺も、仲良くなっていけばわかるだろう。ちょっと前に死んだばっかりなのに、また死ぬことになるかもとは思っていたが、何とかまだ生きていくことが出来そうだ。
寝床に案内されたが、残念ながら妖精さんのベッドはサイズがかなり小さい。俺が寝たら間違いなくベッドをつぶしてしまうということで、藁などをかき集めて急きょ俺用の寝床を作ることにした。
森で縛られていた時に比べると、横になって硬い場所で寝ないというだけでも全然違う。落ち着いてきたからか、体も結構痛いんだよな。本当散々だったよ。
「貴方は今日はもう休みなさい。あんなところで、ずっと放置されていたんだもの。寝ないと体がもたないわよ」
「ネアは口調は冷たく感じるけど、実際すげー優しいよな」
「なに言ってんのよ。私は人間なんて嫌いよ。長老の指示がなければ貴方を家に入れるなんてこともしないもの」
「そうなのですー。本当なら家に入ったらぶっころしてたのですー」
本当、シルビアの言葉遣いは悪すぎだ。
いつか説教してやる。
「ありがとう。正直なとこ、もうくたくたなんだよ。今日はもう休ませてもらうよ」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみなのですー」
そうして、妖精村に到着して寝ることが出来た。
あぁ、横になって眠れるってこんなにも幸せなことなんだな。感慨深い気持ちを感じつつ、すぐに睡魔に襲われて眠りについた。