たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<5>お菓子ホイホイホーイ大ピンチ
B2君のパイロットの機長で主に操縦担当のレオナルドと,副機長で主に兵装投下などのシステム管理担当のレイモンドは双子です。
2人は一卵性の双子なのでほぼ同じくらいの身長でそっくりな顔をしていましたが誰でも見分けを付けることはできました。
痩せて頭頂部が寂しいのが兄のレオナルド,ふとっちょで髪の毛がふさふさしているのが弟のレイモンドです。
レオナルドの趣味はオートバイ,レイモンドはゲームが趣味でしたが2人はとても仲良しです。
たっくんとB2君とA10ちゃんとF35が1枚のチラシを見て何か騒いでいました。
たまたまにいたレイモンドが4人に声をかけると航空機達はレイモンドにチラシを見せてくれました。
『軍用機の皆様 歓迎
お菓子の店
ケーキ,チョコレート,ドーナツ,クッキー,パンケーキ,菓子パン,カステラ,お団子,おもち,くだもの,アイスクリーム,ソフトクリーム,なんでもございます
食べ放題
ジュースも飲み放題
本日オープン
チラシ持参のお客様は5名まで無料』
たっくんが基地の外におつかいに行ったら知らない人間にもらったというのです。
「最近は広告のためにこんな大盤振る舞いする商法もあるんだな。リピーターをつなげておおもうけしようってわけだ」
レイモンドは言いました。
「さっそく行ってみようぜ」
とたっくんが言ってF35は首をかしげました。
「先輩はお菓子系はあんまり好きじゃなかったのにどうしたんですか」
するとたっくんは
「タダで食べ放題ならなんでもいいだろ」
と言いました。
「これ,5名までなのね。私達は4機だよ。誰か誘いましょうよ」
とA10ちゃん。
するとレイモンドが
「よし,僕が行こう。それなら5人だ」
と脂肪で肉厚な胸を叩いて言いました。
「おいおいまたお前お菓子を食べまくるのか。いい加減にしろよ。俺はお前が糖尿病で入院したり太り過ぎて座席のベルトが届かなくなるなんて嫌だぞ」
とレオナルドが言いました。
「大丈夫さ,兄さん。それに彼らだけだと心配だから人間の大人が1人引率で付いて行ってやらなくちゃあ。タダより高い物はないって行った先で何か売りつけられたりだまされたら大変だろう。気を付けて行ってくるよ」
とレイモンドが返事しました。
「そうときまったら出発だ!無限のおやつへあさあ行くぞ!」
と,レイモンドは拳を突き上げるとB2君のコクピットへ続く梯子を上りました。
滑走路からたっくん,F35,A10ちゃん,B2君のいつもの順番で離陸しました。
チラシのスイーツショップは基地のあるパンプトン市から少し外れた何もない空き地に急ごしらえの派手な色のハリボテが建っていました。
「先輩あれです」
F35が言いました。
「ずいぶんださくねぇか」
たっくんが言うとA10ちゃんも
「ふふ,ちょっとね」
と笑いました。
4機が建物の前に着陸すると中からシルクハットをかぶって蝶ネクタイの見たことのない戦闘機が出てきました。
「やぁやぁお客様ようこそ。どうぞ中へおはいり下さい」
建物の前まで近づいてくるととても甘いにおいがします。
どうやらうそではなさそうです。
そこで4機(とB2君に乗った1人)はタキシングで建物の中に入りました。
中は殺風景な倉庫のような場所だけど部屋一面に大量のいろんなお菓子がありました。
「どうぞお好きなだけお召し上がり下さい」
シルクハットの戦闘機が言ったのでみんなは一斉にお菓子を食べ始めました。
どれもこれもおいしくてみんな大喜びです。
その頃,基地では一部の将校が集まって緊急の会議が開かれていました。
先日ここの基地の敷地内に忍び込んだキナ共和国製のJ20戦闘機が拘束後すぐに脱獄したという件についてでした。
「なんで国は相手国に抗議しないんですか!領空侵犯どころか完全な不法侵入だろうが!」
ジェイムスン中佐は怒っていました。
するとホワイト少佐は
「まぁまぁ落ち着いて下さい。それがキナ側は一切何も知らなかったそうなんですね。つまり機体個人が勝手な行動を取ったと。そしてその行方はキナもしらないと」
「じゃあどうするんだ。こんな会議してないでとっととつかまえないとまた他の基地でやらかす。中将もそう思いますよね?」
とジェイムスン中佐が司令官の中将に詰めよりました。
その頃美味しいお菓子をモグモグパクパク食べて楽しい4機と1人でしたが,たっくんは辺りが静かになったと思いました。
「みんなどうしたんだ?黙って食いたいくらいそんなにうまいのか?」
たっくんが振り返るとなんということでしょう。たっくん以外の航空機はぐっすり眠っていました。
「なんだもう満腹で昼寝かよ」
とたっくんが声をかけましたが誰も起きてくれるようすがありません。
「おいっ,しっかりしてくれよ」
たっくんがみんなをゆすり起こそうとすると
「なんだどうした」
と眠って動かないB2君の横からカスタードまんをほおばりながらレイモンドが出てきました。
「みんなが起きないんだ。満腹で寝てしまったにしてもおかしいよな」
とたっくんが言うと
「ちょっと待って」
とレイモンドが眠っている3機を調べて回りました。
「どうも様子が変だ。みんな何かの睡眠薬をのまされたように眠ってるぞ。じゃあなんでたっくんは無事なんだ?」
「さぁ。で,あんたはなんで無事なんだ?」
「さぁ」
とレイモンドも言いました。
「とにかく全てが変だ。すぐに基地に連絡して迎えに来てもらおう」
レイモンドはスマホを出して基地に連絡して今までのことをしゃべりました。
まだ会議中だった将官達は何があったのか混乱していましたがホワイト少佐が
「しかしレイモンド大尉,おかしいとは思わなかったのか?わが国にはAI型(たっくんたちのような人工知能と人格を持った軍用機)機体はこの基地でしか運用されていない。それなのにそんな広告で呼び寄せるとは…これは間違いなく罠だ」
と冷静に判断しました。
そこへ誰かが近づいてくるランディングギアの音がしたのでレイモンドがあわててスマホを切ってたっくんに
「誰か来るぞ。隠れるぞ」
と言ったので1機と1人は奥の棚の中に隠れました。
レイモンドはスマホの録画機能を起動しました。
やってきたのはシルクハットの戦闘機と何人かの人間たちでした。
「よしよしどいつもこいつも騙されやがって馬鹿な奴らだ。よく寝てるな。…運20は?」
とシルクハットの戦闘機が聞くと人間が
「はい。同志運20は領空付近上空で待機しております」
と返事をしました。
「そうか。まずはこいつらを合流地点までトラックで1機ずつ運び出さねばならんがしかたがない。しかし成功だ。まんまと睡眠薬入りでだまされやがって馬鹿な奴らだよ」
とその戦闘機はシルクハットを取りました。
「あっ!お前!この間のJ20!」
シルクハットで隠れていた特徴のあるカナード翼を見てびっくりしたたっくんが飛び出してきました。
「なにっ,お前はこの間のステルス戦闘機。どうしてお前は睡眠薬がきかなかったんだ」
「僕もいるぞ!」
物陰からジャンボシュークリームをむしゃむしゃ食べながらレイモンドも出てきました。
「軍用機用の睡眠薬はきかないよ。僕は人間だからね。ところでお宅のところのカスタードクリームはどうもしつこくて安っぽい油の味がするよ。もっと上品な味にしないと」
「よくも俺の友達をいじめたな!お前をいためつけてやるぞ!」
たっくんはJ20に言いました。
「殲20同志!逃げましょう!」
一緒にいた人間が驚いて言いました。
「たかが相手は一機のずんぐり戦闘機だ。ひねりつぶしてやる」
とJ20は言って壁の大きなボタンを叩きました。
ブザーが鳴ってアサルトライフルを担いだ人間の兵隊が大勢現れ,一斉にたっくんに向けて射撃しました。
たっくんはひらべたくてとてもずんぐりした体をしていましたがその機動力と運動性は実際最強,ありえない角度でぐるりと機体を横転させて鉛玉をよけます。
全く勝負になりません。
しかしこのままでは弾丸が眠っている友達に当たってしまいます。
たっくんは垂直上昇してハリボテの天井に固定装備のM61A2バルカン(たっくん専用の機銃)を撃って破壊しました。
「来いよ,捕まえたけりゃこっち来な」
上からたっくんは主翼を振ります。
J20はなんとしてでも最新技術の機体のたっくんを手に入れたいので
「生意気な小僧め」
と本気で怖い顔で追いかけてきました。
この時点でたっくんはちょっとやばいなと思いました。
なぜならたっくんは機動力には自信がありましたしA10ちゃんほどではなくても腕力もありましたがスタミナが普通の戦闘機の半分以下です。このまま約マッハ1.87でスーパークルーズで飛び続ければ時間の問題でばててしまいます。
そこへたっくんに直接通信が入りました。
ジェイムスン中佐からです。
「全くしょうもない詐欺に騙されやがって。いいか,今俺達が輸送機達と一緒に現地まで迎えに出発した。後7分,それまでなんとかしろ!」
7分は微妙な時間だなとたっくんは思いました。
すごい怒った顔で追いかけてくるJ20を今からアフターバーナー全開でマッハ2.8で飛び続けてただ逃げ回るだけならなんとか耐えられそうです。
しかし逃げていては眠っている仲間が危険にさらされます。
なんとかJ20とかたを付けなければなりません。
戦闘に来たつもりはないのでミサイルは持ってきていませんが機銃は十分に余裕があります。しかし機銃は20mmの弾ひとつひとつにミサイルのような誘導装置を付けているわけではありません。よけられてしまえば非常に危険です。
J20はどんどん間合いを詰めてきます。
そうなると近距離で確実に相手に命中する攻撃しかありません。
しかし改めてみるとJ20は主翼はとても大きいですが垂直尾翼と水平尾翼はかなり小さく,体重もたっくんよりずっと軽そうです。
「やるか」
たっくんは舌打ちをしてアフターバーナーを焚いてするとものすごいスピードで垂直上昇しました。
いけません,こんな飛び方をすれば3分と体力が持ちません。
「ばかなやつだ。やぶれかぶれの逃げ方をするとはな。すぐに墜落するぞ」
とJ20は言いました。
その直後,なんと機首を上に,水平尾翼を下にした姿勢でたっくんが飛んでもないスピードで降下,いや落下してきました。
しかしJ20はこの何百分の1秒の思考でしまったと思ったときにはもう遅い,たっくんの左水平尾翼が反り返って(戦闘機の水平尾翼は全遊式と言って尾翼そのものが稼働します)ハリセン,あるいはケツバットのようにJ20の右垂直尾翼の上半分をはたいてひん曲げました。
会心のレオキック!!
バキィィィィン!!
ひんまがった部分はわずかですがそれでもJ20の機体は大きく不安定になりました。
そこに
「おーい!」
とジェイムスン中佐を先頭に4機編成の非AI型の通常量産型(パイロットが操縦するタイプの通常のアビオニクスのみの戦闘機)のF22と同じく通常型の4機編成のF35,そして背後には先頭からハーキュリーズさん,次にスーパーハーキュリーズさん,グローブマスターさん達輸送機グループが来ていました。
多勢に無勢と気が付いたJ20は
「くそっ,覚えてろ!」
と残りのアフターバーナーを全開して脱兎のごとく逃げ出しました。
たっくんも待てと追いかけたいところですがもうあまり体力が残っていません。
ジェイムスン中佐はそれが分かっていたので
「もういい。止まれ」
と言ったのでたっくんは静かに地面に着陸しました。
「でも,俺だってまだあいつを追っかけられる!」
たっくんは強がりましたがジェイムスン中佐は機体から降りて
「わかった。わかったから。それより友達の救出の方が大事だろ」
と言いました。
「それは俺達に任せて下さい!」
とハーキュリーズさんが言ってハリボテの中に入っていきました。
ハーキュリーズさんの中からレオナルドが下りてきました。心配で一緒に乗せてもらったのです。
「兄さん」
それを見てレイモンドが飛びだしました。
「けがはなかったか」
「けがはないけど逃げ回って息苦しいよ」
「お前は運動不足だからだよ」
とレオナルドがあきれたように言いましたがほっとしているようでした。
「ゴメンナサイ!」
「はぁ,お前の食欲の軽減とダイエットについて少し考えなきゃいかんな。でもまぁお説教は後だ」
と言って双子のパイロットはハーキュリーズさんに乗り込みました。
それから1番大きいグローブマスターさんがB2君を,スーパーハーキュリーズさんがF35を,ハーキュリーズさんがA10ちゃんをそれぞれ運んで乗せました。
「よーし,お前もハーキュリーズに乗るんだ」
とジェイムスン中佐が言いました。
「俺は自分で帰れるよ」
とたっくんは強がりました。
「いいから乗るんだ」
ともう一度ジェイムスン中佐が言ったのでたっくんはすごすごと自分からタキシングでハーキュリーズさんの中に乗りました。
3機の輸送機は基地に向けて離陸しました。
たっくんは窓から外を見て
「あ!金目の物漁るの忘れた!あいつら慌ててたから財布や小銭やレアメタルくらいあったかも。やっぱり自分で帰るべきだった」
とがっかりしました。
「あそこにある物は全て証拠品として軍が回収することになるぜ」
とハーキュリーズさんが言いました。
「でもあそこのお菓子,もうちょっと食べたかったな。しつこい味だったけどたまにはああいうのも悪くない」
と舌舐めずりをしてレイモンドが言いました。
全く1人と1機はこりないのです。
基地に到着すると眠っている機体は基地の航空機専用病院で治療を受けて意識を取り戻しました。たっくんはその横で好物のカルピスを飲みながら水平尾翼の治療を受けていました。
お医者さんはなんども首をひねっていました。
「どうしてこの子だけ睡眠薬がきかなかったのだろう」
するとF35がベッドの上から
「先輩のポケットを開いてみて下さい」
と言いました。
「な,何を言うんだ,同志ライトニング君」
たっくんがウェポンベイを隠そうとするとケビンが
「追加のカルピスだよ」
と大きめジョッキに入ったカルピスを手渡すとそれに機体を伸ばしたたっくんの下に潜り込んでウェポンベイのスイッチを押してしまいました。
中から袋詰めのお菓子が山ほど落ちました。
つまりたっくんは睡眠薬がきかなかったのではなく現地ではたまたま形質上薬を混入できないびんのジュースと缶入りのポテトチップスだけしかてをつけなかったのと普通のお菓子をまったく食べていなかったのは後で基地内の人間用の独身寮で売ろうと思ってお持ち帰り袋につめていたのです。
最近たっくんはよく駅や繁華街で漫画雑誌やエロ本などを拾っては人間用の独身寮の玄関の一角に並べ,10円や50円などで売って(とくに最新刊の漫画雑誌は高く売れます)こづかいをせこせこ稼いでいたのをF35は知っていたのです。
当然お菓子はボッシュート,睡眠薬の分析をするために国内の空軍医療支援局にまわされてしまいました。
「なんだよう,商売はし損ねるし金目のものは回収し損ねるし。損ばっかりだぁ。行くんじゃなかった」
たっくんは本当に落ち込んでいました。
するとホワイト少佐が
「そういえば君はさっきライトニングのことを同志ライトニングなんて呼んでいたけどそんな難しい言葉どこで覚えたのかな」
と質問しました。
「あいつらが言ってたんだよ。お互いのこと同志ナントカ,みたいに同志運20とか同志殲20とか」
とたっくんが何の気なしに答えました。
「ちょっと気になる呼び方だな。他にどんな話をしていたか覚えていないかい?」
「んーわかんね。でもレイモンドがスマホであいつらのこと撮影してたよ」
そこで人間用の空軍病院で大事をとって検査を受けていたレイモンドからスマホのデータを受け取って一度基地の人間で動画を見ることになりました。
動画には人間達とJ20が写っていましたがホワイト少佐が
「これはキナの軍服ではありませんし,人間も全員がキナ人というわけではないようです。人種も様々ですよ」
と言いました。
「じゃあこの団体は一体何なんだ。このJ20ってのは何の目的があって誰の命令で働いてんだ」
ぶすっとした顔でジェイムスン中佐が言いました。
それはこれから調査しなければなりません。
また面倒な情報戦が続くのかとジェイムスン中佐は思いました。
そんな話をしていたら水平尾翼を治療して塗り直したステルス塗装を保護するために被覆材(早い話が飛行機用傷パワーパッド)を貼ったたっくんがきました。
「お,もう晩飯の時間か」
ジェイムスン中佐は腕時計を見て6時になっているので席を立ちました。
「とにかくあとはこの薬も動画も分析待ちだな」
とジェイムスン中佐はたっくんと一緒にハンガーの方へ歩いて帰りました。
「今日はトマト煮込みハンバーグだってさ!」
「そうかそうか」
その頃,B2君のハンガーでも晩御飯だったのですがなんだかレイモンドが元気がありません。
「どうした今日はお前の好きなカレーだってのに」
レオナルドが言いました。
「何も今回の件はお前が悪いってわけじゃないだろう。むしろお前が動画を撮った事でこれからいろんなことが明確になってくるんだ。だからもう俺もお説教したりしないから。そんな暗い顔をするな」
「そうじゃないんだ,兄さん」
レイモンドはお通夜のような顔をして言いました。
「だってお菓子を食べたせいでこれじゃせっかくのカレーがあんまり食べられないよ!いつもなら8杯は食べられそうだけど今日は5杯しか食べられそうにない!せっかくのカレーなのに!カレーなのに!」
とレイモンドはバンバンとドラえもんのような丸い手でテーブルを悔しそうに叩きました。
それを見てレオナルドが
「やっぱりお前にはダイエットとお説教が必要だな!」
とためいきをつきました。
<おわり>