第35話モフモフを愛する男
黒髪のつんつんとはねた髪でショートの男。
そんな男の名は神薙 綾人という少年だ。
彼の性癖は一言で言うとモフモフした獣が好きなのだ。
彼の撫でテクはうっとりさせるほどだとか。
龍星とよい勝負なのかもしれない。
まあ、そんな彼に許せないものがある。
それは……奴隷として捕らえて売り出す商売人だ。
今日もまた売り出す商売する店に乱暴にドアをけり上げて中に入る。
そこにはずらりと、檻にいれられた獣人・亜人がいた。
中にはフェザーオルクもおり、これが綾人の怒りのボルテージをあげるのだ。
「あ、あんたは!? 誰だ!?」
「てめーは知らなくていいんだよ!」
そう言って剣を向ける綾人は冷たい目で商売人を見ていた。
その視線に怯えて逃げ出そうとする商売人の足と腕を剣で斬り落とす。
甲高い悲鳴をあげる商売人には目もくれずにずかずかと近寄り、商売人のポケットにある束の鍵をだすと
牢屋に近寄り、鍵をあける。
それに気づいた獣人・亜人の子たちは怯えたように身を寄せ合い綾人を見つめる。
「もう、大丈夫だぞ。 お前らは自由だ」
その言葉に奴隷の獣人と亜人たちは困惑したように顔を見合わせる。
ふと、彼の目についたのは彼女たちの首にある首輪だ。
それを見て小さく舌打ちをする綾人。
「あ、あの助けてくれたということですか?」
おそらくつぐみより小さいだろうと思われる少女が尋ねる。
彼女の背中には真っ白い鳥のような翼。そしてロップイヤーの兎耳とお尻からは猫のしっぽが生えている。
おそらく彼女は亜人と獣人とフェザーオルクの血が混じった種族なのだろう。
真っ白い髪に赤い瞳がじっと綾人を見つめている。
「ああ、こんなところにいるのは嫌だろ」
「そ、そのありがとうございます」
「嘘にゃ! こいつもうちらを売る気にゃ!」
「ちょっと、失礼よ」
やわらかに笑いながら言う綾人にお礼を言う先ほどの少女だが。
猫の先祖を持つ褐色肌のフェルプールの少女が叫んだ。
そんな彼女をなだめるのはフェザーオルクの少女である。
黒い猫耳と黒い猫しっぽがチャーミングだ。
「でも、売らないとはかぎらないし」
雲雀という鳥の獣人の女の子は警戒した様子で綾人を見ている。
雲雀という鳥の獣人の女の子の耳には羽耳が生えており、背中には羽がある。
「甘い顔をしてだますのが人間だもんね」
狐の獣人の女の子がじーと綾人を見てそう言った。
「また、そうやってだます気なんでしょ!」
オオカミの獣人の女の子がそう叫ぶ。
「言うこと聞かないとムチでうつんでしょ? もう、痛いのも空腹もいやだよ」
パピヨンのような犬耳と犬しっぽをもつ獣人の女の子が言った。
「怖いのはもう嫌にゃ」
猫又の少女は涙目でそう言って座り込む。
「逃げ出してもどうせ、捕まるし。 もう嫌になる」
「ふええ、怖いよ~っ!?」
金色の妖狐の少女は不機嫌そうにぼやいているようだ。
銀色の妖狐は恐怖で泣き出してしまっていた。
「信用するのも疲れた」
「なにしても無駄なんだもん」
人狼の少女はそうぽつりとつぶやいた。
狗神の少女が座り込んでうつむいている。
ここまで追い詰めたあの商人に綾人に怒りがわき、動けない商人の首を剣で跳ねた。
ごろんごろんと、商人の首が転がる。
その様子を呆然と見つめる奴隷の異種族の彼女たち。
「できたら、信用してほしい。 俺は君たちを売ったりしないし、粗末に扱いもしない
それは誓うから」
剣に滴り落ちる血をしりめに綾人は彼女たちへと手を伸ばす。
優しい笑みを浮かべて恐怖におびえる彼女たちを癒すために……。
根拠なんてこれっぽっちもない、ないが彼ならば本当にそんなことしないのではないのだろう?
最後の最後で裏切られるのでは?とも頭をもたげたが、それでもいい気がした。
彼ならばそんなことはしないと不思議とそう思えたのだ。
彼女たちはこぞって綾人の手に手を乗せた。
そして彼女たちをつれて商人の屋敷から綾人は出て行く。
もう、用などないのだから……。