ソレの名前
どんなに愛しているかを話すことができるのは、すこしも愛してないからである。(ペトラルカの言葉)
「ほんと、に?」
本当に、って・・・まてまて。俺ら一応恋人同士だろうが。
なんで信じてくれないかなあ、コイツは。
「ばか、信じろよ」
「え、でも・・・どうして?どうして、ぼく、なの?」
その質問、カナリ今更だろ。
「恋に理屈求めんなっ、好きになっちまったもんはしかたねえだろーが」
「・・・・ぅ・・」
未だに尊の頬は紅かった。
てゆうか、さっきよりももっと紅くなってる気がする。
「でも、でも、・・・雪城くん、は・・・性格も、外見も、・・・良い、から・・・フる、なんて・・・勿体無い、気が」
それが恋人の言う言葉かよ。つうか、自分でゆった言葉に顔歪めんなっつうの。
自分も傷つくなら最初っからゆうなよな。たく・・・、
「・・・しゃーねえだろ。俺は雪城じゃなくて、お前が良いんだから」
てゆうか、全然全くこれっぽちも勿体無く感じてないんだが。俺って酷いやつなのな。
「ぼく、で・・・良い、の?」
まだ言うか。
「くどい」
「ご、ごめん」
「お前で、じゃなくて・・・お前が、良いんだってば」
もう半分投げやりになっていた。
正直、俺は今、そうとう疲れてる。なんで話してるだけでこんなに疲れるかな。
・・・・・・・・・・あぁ、そうか。好きな相手だからか。
「つうか、お前は俺で良いのか?」
「えっ?」
「俺なんかでまじで良いのか?」
すぐ苛々するし、ため息吐きまくるし、他人のことは超無関心だし、思いやりとかねえし、優しいってわけでもねえし、言葉もキツい時あるし・・・、
・・・なんか言葉にしてみると俺って本当に嫌な奴だな。やべぇ凹んだ。・・・おい、尊、こんな男のどこが良いんだよ。
言葉にださず、目で訊いてみたが尊はこたえなかった。こたえない代わりに俺の目をじっと見つめてる。
暫くして、口をさきに開いたのは、また尊だった。
「・・・なんか、じゃないよ」
「・・・?」
「なーくん、は・・・なんか、じゃない」
「・・・・・」
「ぼく、も・・・なーくん、が、良い」
あ、微笑った。
無邪気な子供みたいに、それでもやっぱり控えめに、尊が微笑った。
「どこ、が、良いかは・・・その、・・・よく、言えないんだけど」
困ったように眉を寄せながら、また微笑う。
その微笑った顔が可愛いのなんのって、俺は不覚にも見惚れてしまった。ちきしょう、カナリ溺愛してんじゃねえかっ。
「そんなもん、俺も同じだ」
言えるわけねえ。どこが好きかなんて、言えるわけねえ。
なんてったって、俺は『尊』が好きなんだから。
「あのさ」
「・・・ぅん?」
小首を傾げる、その動作さえ愛しく思えてしまう俺は、多分末期だろう。
「俺、尊の目・・・すげえ好きだ」
尊が目を見開き、その目に俺を映す。
ただ、それだけのことなのに、なぜか無性に嬉しくなって、俺は無意識のうちに目を細めていた。
麻痺したのか、頭ん中が真っ白になって、尊の顔に自分の顔を近づけて、気付けば尊の驚いたような瞳が目の前にあって、それから、それから、唇には、柔らかいものが触れていて。
あれ、これってナンだっけ。ナンてゆうんだっけ。
やっべ、久々すぎて名前が出てこねえ。えっと・・・えっと・・・、
「ん、ぅ・・・」
鼻にかかった尊の声が耳に響いた。その声はどういうわけか(もしかしたら頭同様耳も麻痺したのかもしれない)、酷く甘く聞こえた。
あぁ、そうだ。これは、
キス、だ。




