表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

ポリグロット

【ポリグロット】

多言語に通じている人。多言語使用者。多言語話者。


「失礼しまーす、・・・尊?」

「あ、成深くん」

図書室の中に入ってすぐ、声を掛けてきたのは尊じゃなく図書室の先生だった。

「良かったぁ、そろそろ閉めよう思ってたから」

「まじっすか?」

「まじまじ。ぎりぎりセーフ、だよ」

「良かった」

安堵の息を吐いて辺りを見渡す、尊の姿が見えない。

「あぁ、尊くんね。尊くんは其処の本棚の後ろにいると思うよ」

其処、といって先生が指差した本棚。その本棚に向かって足を進める。

「尊」

本棚の後ろ。其処には丸い机と3つの椅子があった。

その1つの椅子に尊が座っている。・・・机に突っ伏しながら。

「尊・・・?」

近づいて尊の顔を覗くとそこには、

「・・・・っんにゃ・・」

寝顔があった。

『んにゃ』って・・・お前は猫か。しかも本を枕にしてるし。ヨダレたらしてねえだろうな。

「みこ、尊っ!おい、こらっ。起きろ!」

「・・・・・・・・・・・ぁと、5分」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

バシンッ、

「いったぁー…っ!!」

「そんな強く叩いてない。・・・おはよ」

「・・・・・・ぁ、おはよ」

寝起きというのもあって頬が紅く、瞳も少し潤んでいる。

その潤んだ瞳が俺を見上げてきた。しかも上目で。ちょっとヤバいぞ、腰にキた。

「って、もう8時っ!?ごごごごめんっっ!寝っちゃってたっ、ぼくそのっ」

「落ち着け落ち着け。俺も色々あって今来たところだ。むしろ謝らねえといけないの、俺のほうだし」

「いいいやっ誘ったの、僕、だし!なーくん全然、悪くないっ」

「・・・・尊、とりあえず落ち着け、な?」

「ごごごごごめんなさいっ」

いやいやいや。なぜ、そこで謝るんだ・・・。しかもどもりすぎ。

これは違う話題を出した方が良いかな。ふいに目に入った尊が枕代わりにしていた本。

ヨダレはたれてないようだ。・・・って、えぇ!?

「・・・尊、その本」

「え・・・?これ、がどうか、した?」

「英語・・・?」

尊が枕代わりにしていた本は、横書きで、しかも全部ローマ字で書いてあった。

もしや本気で枕代わりにしてた、とか・・・?

「ううん、フランス語・・だよ」

「フ、フランスゥ?あれか、ちゃおかっ?」

「それは、イタリア・・・かな。・・・フランス、は『Bonjour(ボンジュール)』・・・かと」

「えっ、ぼん?じゃなくて、いや、いやいや、んなこと訊いてねえし、つか発音良いなぁお前っ!え、読めんの?お前フランス語読めんの?」

「い、一応・・・因みに、英語とイタリア語とドイツ語も・・・読める、し ・・・話せる」

「ほ、本当ですかっ!?」

驚愕な事実を聞いて、つい敬語になってしまった。

そのことに自分自身も驚いたし、尊もカナリ驚いたようだ。

てか、コイツが文系得意なのは知ってたけど、こんなに外国語が強い奴だったとは知らなかった・・・。人は見掛けによらず、ってのは本当なんだな。いやはや。

「おーい、お二人さん。そろそろ俺も帰りたいのですが」

「えっ、あ、すみません。すぐ帰りますっ。ほら、みこ帰んぞ」

「あ、はいっ」

いきなり急かされた尊は、慌てフランス語の本を鞄にしまい椅子から立ち上がった。尊が立ってから俺は出入り口の方へ足を動かす。

「失礼しました」

「ん。尊くん、成深くん、気をつけて帰りなよ?」

「あ、はい。・・・さよう、なら」

「ん、ばぁいばい」

手をふる先生に一礼してから俺たちは図書室をでた。

図書室をでるとすぐ窓が目についた。夏が近いからと言ってもさすがに8時。外はカナリ暗い。

「まっくら・・・だね」

「だな。悪いな、二時間近く待たしちまって」

「ぼく、寝てたし。お互い様、だよ」

「んでもなぁ。っと、そろそろまじで校門閉められるな。少し早足で行くぞ」

尊が小さく頷くのを確認してから、俺は腕時計を見た。

あと3分で8時になる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ