弱気な恋人
愛の光なき人生は無意味である。(シラーの言葉)
側にいてほしいならいてほしいって言えば良い。言えば良いのにアイツは言わない。
ただ寂しそうな顔をするだけ。もしくは笑うだけ。
それが俺には物凄く不愉快だったりする。
「・・・なーくん、今日、一緒に・・帰れたり、する?」
そう控えめに訊いてくるのはやめてほしい、一応付き合ってんだろ、俺ら。
もしかしてコイツ、俺と付き合ってる自覚がないのか。
ちゃんとOKしたよな・・・俺。
「あ、ぁの、都合悪かったら・・・一人で帰るから・・・、無理しなくて、良い、から」
俺が返事しないでいると不安になったのか、視線を下げ、呟くように言ってきた。
なんでこんなに弱気なんだよ。もし、断ったとしても、駄々こねるぐらいしやがれ。
まじで俺と付き合ってる自覚がないのか?ないのかっ?
無意識にため息がでた。
そのため息にビクリと肩をふるわせたソイツは、俯いてた顔をもっと俯かせてきやがった。
この角度じゃぁ表情が伺えない。伺えないけど、泣きそうな顔してるのは気配でわかる。
「別に都合悪いとは言ってないだろうが」
「ごっ、ごめんなさいっっ」
いや、なぜ。なぜここで謝ってくる。意味分かんねえし。
なんでもかんでも謝れば良いってもんじゃねえだろう、たくっ。その謝り癖、即効なおせ。言葉に出さず、ビクビク震える小動物に愚痴る。
これで言葉に出してみろ、絶対泣くぞ、コイツ。んで引きこもりになる。
もっと強い心を持ちましょう。
「お前部活何時に終わんの?」
「えっ・・・?えっと・・・6時には・・・終わる、と思う・・・」
「はっきり言え」
「ごごごめんなさいっっ」
どもりすぎだろっ、これは。そんなにこわく言ったつもりはない。
「6時か。俺の方は多分7時までやると思うから、一時間くらい待たねぇといけないぞ?」
「へ、平気っ!全然待てるっ!!」
「んなら、図書室で待っといて。終わったら行く」
コイツは文化部。俺は運動部。部活動終了時間が大分違ったりする。
だからなのか、俺たちが一緒に帰ることは、部活の定休日以外殆どない。
別に部活ある日も一緒に帰って良いんだが(むしろ帰りたいんだが)。一時間も待たせるのは気が引けて嫌だった。アイツはアイツで遠慮して俺が誘わなければ一緒に帰ろうとしない。遠慮すんなっての。別に迷惑なんかじゃねえんだから。
「本当に、良い・・・の?一緒に、その、帰ってもらって・・・」
まだ言うか。てか、はっきり言えって言ってるだろうが。学習しねえなコイツ。
「良いって言ってるだろ。迷惑じゃないし、恋人だろ?」
極めて素っ気なく応えたつもりが、何故かソイツは顔をパッと上げ、控えめに俺の瞳を見つめながら「ありがと」そう言って嬉しそうに微笑ってきた。
その微笑みは心なしか、どこか照れてるようでもあった。
「・・・・・・・・・」
不覚にも。
不覚にも、胸が高鳴ってしまったことは、口が裂けても絶対言わない。
・・・そういや、なんでいきなり一緒に帰ろうなんて言ってきたんだ?
内気なコイツが誘ってくるのって、カナリめずらしいよな。
・・・別れ話だったりして。
・・・・・・・・・あはは、あり得ねぇ・・よな?うん、あり得ねえって。