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短編

私は、重大な秘密を抱えている

作者: 如月あい

 私は、重大な秘密を抱えている。


「さて、では事件の内容を整理させてください」

 自称、探偵さんはそう言った。そして彼は淡々と話し始めた。


 事件は有名な避暑地にある貸別荘で起こった。

 この場に集まった人間は、高校時代の同級生。演劇部のメンバーだ。みんな同い年で、メンバーは被害者も入れて七人。

 警察が来るまでの間、たまたま知り合った探偵さんの知恵を借り、謎解きをしようとしているのだった。

「木ノ内さん、白里さん、八月一日(ほづみ)さんは名前をうかがいましたが……お名前を聞いてもよろしいですか?」

 探偵さんは別荘を借りるときに記入した名簿を持っている。しかし誰が誰かということを一致させるためにその質問をしているようだった。

新妻(にいづま)真由です」

「新妻さん、珍しいですね」

「あ、よろしければ私は下の名前で呼んでください」

「真由さんですね」

 そうやって私が言うと、探偵さんは確認するように名を呼んだ。

「なんだかその気持ちわかるなあ……」

 八月一日(ほづみ)さんがしみじみとそういった。私と八月一日(ほづみ)さんは仲間だから分かり合えるのだった。

 同じような苗字を持つ仲間として。

「私からしたら、うらやましいわよ、八月一日(ほづみ)なんて名前。私は鈴木明子(あきこ)だもの。まったくどこをとっても普通じゃない」

 私たちはそんな話をしながら、しばし名前の話で花を咲かせた。

 探偵さんは一通り名前を聞き終えると、少し息を吐いて言った。

「鈴木さんが二人……」

「明子でいいわ」

 鈴木明子さんが明るくそう言った。

「わかりました。ではそのように」

 探偵さんはそういうと、まずは木ノ内さんの方を向いた。

「まず、元演劇部の坂本(たかし)さんが紅茶にいれられた毒を飲んでなくなりました。死亡推定時刻は、二十一時頃ですが、この事件を自殺とするには不自然な点がある。そうおっしゃったのは、木ノ内さんでしたね?」

「ああ。ボール……じゃなくて坂本は、三ヶ月後に結婚が決まってるんだぜ? そんな奴が自殺なんて信じられなよなぁ? び……じゃなくて鈴木?」

「ちょっとあんた! さっきの話きいてなかったわけ? ちゃんと名乗ったとおりに呼びなさいよ!」

 明子さんがそうやって怒鳴った。

 すると木ノ内さんは肩をすくめて言った。

「演劇部時代はくそふざけた名前で呼んでたのによ、いきなり下の名前ってハードル高いだろ……? ってわかったわかった。にらむなよ、お前は明子って呼んでやるってば」

「くそふざけた名前……というのは、坂本さんをボールと呼んでいらっしゃったようなことですか?」

 探偵さんがそう聞くと、私たちはみんなうなずいた。

「坂本は中学の時のあだ名がさっかー、だからボールさ」

 高校時代の私たちの発想はおかしくて、社会人になった私たちにはかなり恥ずかしかった。だから、たぶんみんな、そのあだ名を探偵さんに披露する気になれないのだろう。

 正直なところ、私も披露してほしくはない。

「なるほど」

「でもそれを探偵さんに覚えさせるのは申し訳ないから、探偵さんに覚えてもらった名前で呼ばせようと思ったの」

 明子さんはそういうと、小さく木ノ内さんをにらみつけた。

「わかりました。私も木ノ内さんが呼んでいる呼び方で誰が誰かわかりますから、大丈夫ですよ。さすがにボールなどと突飛なあだ名でよばれると混乱しますが。私も木ノ内さんに合わせて名前を呼ばせていただきます」

 探偵さんはそう言ってなだめて、明子さんは少し落ち着いた様子だった。

「まず、死亡推定時刻に皆さんが何をされていたか教えていただけますか?」

「私は部屋にいました。お風呂に入る前のことだったので」

「部屋にいたと証明できる方は?」

「いいえ」

「私はリビングにいたわ。そう、白里くんと、真由もね」

「でもそういえば、新妻にいづまさんはトイレに行ったよね? リビングの時計がなってたから、たぶん、九時ぴったりに」

 白里さんは気づいてはいけないことに気づいたとばかりにはっと目を見開いて言った。たぶん探偵さん気分なんだろう。

「ちょっと、なんで真由に容疑をかけようとしてんのよ! たった五分ぐらいじゃない」

「まあまあ明子さん、落ち着いてください。二階の坂本さんの部屋に行き、毒を入れて戻ってくるくらいは五分でできます。つまり、鈴木さんと新妻さんには、アリバイがないんですね?」

 私はうなずこうとした、しかしそれよりも先に、木ノ内さんが口を挟んだ。

「新妻はシロだと思うぞ。俺がトイレから戻ってくるとき、新妻とすれ違ったし、トイレの方向はリビングからむかうと階段とは逆。あんな奥の不便なところで、しかも一階にしかないんだからまったくめんどうな別荘だよ」

「あれ、でもあんたリビングにいなかったわよね、そういえば?」

「トイレに行って、部屋で寝ようと思ったんだよ。早くから飲んでて眠かったし、俺が酒に弱いの知ってんだろ?」

「酒に酔った勢いで殺しちゃったんじゃないの?」

「ああん? ざけんじゃねえ! 酒によって殺すんなら、毒なんてちんまい殺し方じゃなくて、もっと派手に殺ってやるよ!」

 木ノ内さんはそうやって怒鳴ると明子さんを睨みつけた。この二人は昔からこうだった。この二人は変わらないから、私はけっこう二人のことが好きだった。

「ですが、やはり木ノ内さんにもアリバイはないんですね?」

「……まあな」

 私は、自分の抱えている秘密がバレるのが怖かった。だから私は極力話さないようにしようと心がけている。

 でも、木ノ内さんの顔色をみるかぎり、それもかなり限界に近いかもしれない。


八月一日ほづみさんはどうされていましたか?」

 探偵さんが聞くと、八月一日ほづみさんは、少し考えて答えた。

「ああ、たぶん、外にいました」

「外?」

「酔いを覚ましたかったし、タバコを吸いたくて」

「外に行くことは誰かに伝えましたか?」

「確か、鈴木さんに言ったような……」

「あ、はい。時間はわかりませんけど、リビングで聞きました」

「それ、僕も聞いたよ。ご飯食べ終わってすぐだから、八時半ぐらいかな」

 探偵さんはふむと考えて、私も含めてアリバイの不確かな四人を順番に眺めた。

「さて、容疑者は四人です」

「おいおい、三人だろ? 真由は違うって」

「いえ。お二人でずっと一緒にいたわけではありませんし、犯行は可能です」

 ああ、そろそろばれてしまう。それがわかった。

 私から言いだそうか、どうしようか。

 木ノ内さんはそろそろ耐えられないだろう。

 でも私はまだ、勇気が出せない。もうこのまま、誰にも知られずに終わってしまえばいいのに。


「四人は、被害者とどんな関係でしたか?」

「んー、新妻さんはあいつと元恋人だよ」

「え、でもそれは高校時代の話だし……」

「そういや、鈴木もあいつと付き合ってたよな?」

「え! 知らなかった!」

 明子さんが大げさに驚いた。

「そうだけど、一年前に別れたよ」

「そっかそっか。木ノ内は、まあ、よく喧嘩してたし、正直動機なんていっぱいありそうだよね」

「てめえ、喧嘩売ってんのかよ!」

「だってそうじゃない! ここから帰って一週間後に最後の独身時代を謳歌するとかなんとか言って、二人でツアーで海外に旅行に行くって言ってた八月一日ほづみは違うと思うしね。お金も払ったって言ってたしさ」

「それは本当ですか、八月一日ほづみさん?」

 探偵さんがすかさず確認する。

「あ、そうです」

「支払いはすませてますか?」

「はい、もう二週間前には」

「なるほど。少し疑いは弱まりますね。そして、正直にいうと、木ノ内は違うと個人的に考えています」

「ん?」

「喧嘩をよくされていたなら、そんな木ノ内さんが淹れた紅茶を素直に飲むと思えません。失礼ながら木ノ内さんは紅茶を淹れるタイプではないでしょう?」

「……」

「そうなると、自然と、怪しいのは新妻さんか鈴木さんになります」


 もうもたないな、と直感した。

 私は密かに覚悟を決める。

 そしてやはり木ノ内さんは口を開いた。


「悪い、真由」

「……いいよ。悠太くん」

「え? まってまって……まさか、真由と木ノ内って……」

 明子さんが大きく目を見開いた。

「付き合ってるんだよ。俺とお前が付き合ってたから、言いにくいって真由が言ったから隠してたけど」

「なにそれ!? 私ぜんぜん気にしないわよっ! もう、真由ったら!」

「それで、どうして今その話を?」

 探偵さんがもっともな疑問を口にした。

「実は、悠太くんと私はちょっとの間だけ外に出て話したんです。明子に言うかどうかについて。そうしたら田中・・くん……あ、八月一日ほづみくんにも会って……」

「口止めされたので黙ってました」

 田中八月一日たなかほづみさんはそう言うと、ぽりぽりと頭をかいた。

「そうすると、待てよ、残るのは……」

 白里さんがこちらを向いた。

 それに合わせて全員の視線がこちらを向く。



 探偵さんが私をまっすぐと見つめた。

 やっぱりだめみたい。

「犯人は、あなたなんですね、鈴木真由・・・・さん」

 探偵さんは私にそう言った。

 降参だ。


「ばれちゃいましたね。だって彼、一年間も二股をかけて、彼女との結婚が決まったら私のこと捨てるんだもの」

 力なく笑って私は言うと、他の五人が黙った。


「あーあ、失敗しちゃったな。ほんとは新妻さんに罪を着せたかったのに。リビングのドアをずっと見張ってたのよ」

「え?」

「だって、あなたも、木ノ内くんも知ってたんでしょう? 彼が二股をかけてたこと」

「それは……その……」

「悪い!」

 口ごもった新妻さんと違い、木ノ内さんはがばりと頭を下げた。

「こんなことになるなら、言えば良かった……でも、幸せそうなお前をみたら、その……」

「もういい。もういいよ」


 私は、重大な秘密を抱えていた。

 でもそれももう、終わった。

 秘密って、なくなると、こんなに心が軽くなるものなんだ。

 














「はい、カット! みんなおつかれさん! 俺の死体を発見するシーンは、誰かカメラ代わってくれよ!」



主演 (犯人役)

鈴木真由すずきまゆ


被害者

坂本隆さかもとたかし


演劇部メンバー

鈴木明子すずきあきこ

新妻真由にいづままゆ

田中八月一日たなかほづみ

木ノ内悠太きのうちゆうた

白里彰人しらさとあきと



演出

如月あい


脚本

如月あい


カメラ

坂本隆、白里彰人


探偵

探偵さん




*なお、この映画は、x大学映画サークルによるフィクション作品です


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[良い点] 面白かったです。確かに読み直しました。頭がこんがらかってきましたが、あとがきものおかげで理解が進みました。でもそのおかげで疑問も増えて「一言」のほうに書かせていただきました。 [一言] 探…
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