百鬼夜行の妖に出会った悲しき女の話
おい、そこのお前サン。良ければ相席しねェかい?
草木も眠る丑三つ時、ここで会ったのも一つの縁だ。
おーい、生二つ。
勝手に決めんなって?どうせ呑む気だったんだろ。一人で呑むのもつまらねェし、丁度いいじゃねェか。ここのオススメはアレだぜ。ツマミは全部手作りでな。これが旨いんだよ。
口調が独特だって?田舎から出てきて随分経つのに未だ抜けねェ。都会に慣れれば上手くいくと思ったんだがな。これも好きだって?おう、ありがとな。
そうだな。気分は良いし酒の肴になる話をしてやろうか?なに、遠慮は要らねェよ。
「百鬼夜行の妖に出会った悲しき女の話」だ。おっとこう云う話は…って、お前サン、百鬼夜行も知らねェのか?百鬼夜行はそうだな。丁度今みてェな時間に集団で街に繰り出す妖の事だ。百の鬼の夜行って書くだろ?文字の通り鬼も居るが、今はそれだけじゃねェ。お前サン思いつく限りの妖、言ってみろ。唐傘、一つ目、砂かけ、子泣き、ぬらりひょん。お前サン、メジャーなとこ攻めたな。どうせ昔見たアニメとかからだろう?ああ、他にもごまんと妖は存在する。妖の力さえあれば全ての妖は参加出来るんだ。
そう、その日も大勢の妖が百鬼夜行に参加していた。そりゃあ、皆思い思いの事をやったさ。驚かすのが好きな奴は酔っ払いを追いかけ回すし、ケーキ屋の仕込みを邪魔してた奴もいたな。
ほら生二つとお通し届いたぞ。店員に呑みすぎだって怒られちまったけど、ちゃんと金払うしそこまで酔ってもねェから大丈夫だ。
話戻すぞ。
その中の妖一人が目を付けたのは呑み屋で働く女だった。通りに面してるのに時間も時間だからな、その呑み屋には客一人居なかった。ほら、深夜に一人きりって怖さも倍増するってもんだろ?
店内は明るいから、裏口で待ったさ。ゴミ捨てに来たりするだろう?ちょうど電灯も切れかかってるトコロでな。雰囲気は完璧だった。
「お嬢サン」
振り向いた瞬間に驚かそうとしたのにな。女は別に驚きゃしなかった。寧ろ驚いたのは妖の方だった。妖はその時殆ど力を使っていなかった。大抵の人には妖は力を使わなきゃ見えねェのに、ソイツには妖が最初っから見えていたんだ。雰囲気で分かったって。
あれだよ。誕生日のサプライズされる側が気付いてるけど、知らないフリするような感じだ。
情けねェ話だよな。驚かす方が驚かされてやんの。
女は笑顔だった。そして
「今、お客さん居ないし呑んできます?」
ってな。阿保かと思ったよ。
妖の見た目は人間に近かった。何せ半妖だしな。言ったろ?妖の力があれば半妖でも百鬼夜行には参加できる。
だけど普通、妖って気付いたら関わるか?面白そうだったら関わる?お前サンも物好きな奴だな。
その上、その妖は一文無しだ。あたりめェだろ。普段は見えねェ事を良い事に、人様の家に上がりこんで摘み食いの如く飯を戴いてんだからな。
格好が付かねェが仕方ねェ。そん時は世話になった。
それからその妖はその呑み屋に度々訪れるようになった。勿論食ったツマミの旨さが忘れられなかったのもあるが、そうだよ。女に惚れちまったのさ。
ほら血筋だよ。両親だって人間と妖だ。人を好きになるのも仕方ねェだろ?
確かに一回目は最悪だったが二回目以降はちゃんと取り繕ったさ。告白もしたし、プロポーズもした。女は悩んでたけどオーケーしてくれたさ。
でも、朝が来れば百鬼夜行は終わる。妖はそれが厭だった。夜になればまた会えるって分かっているのにな。会えない時間が辛かったんだ。なんか最近こう云う曲多いよな。男が好きな女の為に夜通うなんて平安時代みたいだろ?今は平成だけどな。笑うとこだぞ。ここ。
ああ、もう分かってんだろ?そうだ。その妖は俺の事だ。そんな顔をするな。お前サンを取って喰おうっちゃ考えてねェ。て言うか俺は人間は喰わねェよ。そういやお前サンも見える方らしいな。俺殆ど力使ってねェしな。
女に会いに行かなくて良いのかって?此処を何処だと思ってんだよ。そう、此処は呑み屋だ。分かるだろ。
で、さっきの店員が俺の好きな女で俺の妻なワケだ。結局惚気かよって、お前もすげー奴だな。最初辺りでびびって逃げ出すんじゃねェかなんて思ってたんだよ。結構度胸あるんだな。
お、もう帰るのか?邪魔したらわるいって?別に気にしちゃいねェよ。今日は話聞いてくれてありがとな。そうさ、人間にも色んな奴が居るように妖にだって色んな奴が居るんだよ。
その気になりゃあ、俺だってやれんだぜ。イカサマとかそっちじゃねェ。テレビとかあんだろ?あれに協力してやれば金だって入るさ。今日は給料日なんだよ。好きな女の為なら頑張れるさ。
ああ、また会えたら宜しくな。
タイトルを変えた方が良いって?
「女に惚れちまった情けねェ妖の話」ってか?
とんだ笑い話じゃねェか。
ホラーちっくにしたかった…