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ダークホース

扉の前で未知の生命体は叫び悶えた。

歓喜の雄叫びというくらいは分かるが、内容は俺の理解が追いつかない。


「こんなダークホースを見逃すなんて私としたことが一生の不覚だったわ!不良×平凡?いえ、山手くんから告白してるんだからこの場合は平凡×不良ね!うーん…まだ手をつけたことのない部類ね。

ハマるかどうか不安だけれど……いいえ!亜子!食べず嫌いはよくないわ!珍味は、食して初めてよさがわかるのよ!」


「あ、亜子ちゃん。落ち着いて」


いきなり扉を蹴破る勢いで開け放たれた先にいたのは同じクラスメイトの錦織亜子と、佐々木良子だった。一人はなにやらわけのわからないことをまくしたて、もう一人はそれを必死に抑えている。

なんというか、錦織の言ってる言葉の半分も理解できない俺はおかしいのだろうか。

というよりも理解することを脳が拒絶してやがる。

後ろから佐々木さんがひょっこりと入ってくると、俺を見て苦笑いした。


苦労してるなぁ佐々木さん。


「ごめんなさい。山手くん、竪山先輩。

私が部活行くって言ったら亜子ちゃんが着いて来ちゃって…」


「いや、まあ…それは全然構わないけど」


佐々木さんがまるで保護者のようで、不憫でならない。

同情からそう言うと、騒いでいた錦織がこちらを見て目を爛々に光らせた。

女豹かお前は。


「それでそれで?そっちの人は先輩なの?」


話を振られた竪山先輩が露骨に嫌そうな顔で俺を見ている。

いや、俺のせいなのか?これ。

仕方なく俺が説明することに。


「オカ研唯一の2年生の竪山先輩だよ。あのさ、錦織…さっきからなに興奮してんだ?」


「なにって!山手くんが告ってたからに決まってんじゃん!」


「告っ!?はああ?」


なんの話だ!


寝耳に水な話にギョッとする俺に不思議そうに首を傾げる人間が2人。

錦織と竪山先輩だ。


「さっき言ってたじゃん。俺は本気だーとか」


「言ってねぇ!つーか、誰が誰に告白したって?」


「だから山手くんが竪山先輩に」


話についていけない俺。

佐々木さんまでもがえぇ!と驚いている。

マズイ。

このままだとマズイ。


「まてまてまて!なんの話だよ!告白?竪山先輩に?」


「なんだ?違うのか?」


そう言って聞いて来たのは件の竪山先輩で。

俺は全身全霊を持って否定した。


「当たり前でしょうが!俺は、女の子が、大好きです!」


俺の熱弁にシーンと静まり返る多目的ルーム。

あれ?なんだろこの空気。



「な…なんだそうか」


やけに疲労感のある声で息をはきながらそう言ったのは竪山先輩だった。


「いや〜よかった。山手があまりに鬼気迫る顔で迫ってくるから誤解してた。はー、よかった」


ちょっと先輩?なんですかそのものすごい安堵のこもった声は。

つーか、俺をなんだと思ってんですか!


「なーんだー…つまんなーい」


錦織に至ってはもうなにも喋るな。


俺はドッと出てきた疲れにげんなりして、うなだれた。

なにをどう聞き間違えたらそんなわけのわからない結論に至るのか、自分の発言を振り返ってみてもやはりわからなかった。


「じゃあなに話してたわけ?」


錦織の言葉にハッとする。

そういえばまだ肝心のことを伝えていない。

俺は咳払いをした。


「先輩に大事な話があるんですよ」


「おぉ。愛の告白じゃないならなんだっていいぞ」


茶化すように言う竪山先輩にムッとしながらようやく伝えたかった内容を口にする。


「先輩の妹のことです」


「は、」


笑っていた竪山先輩はまるで壊れたおもちゃのように固まった。

口が笑ったまま完全に止まっている。

やはり触れられたくない話か。


「妹?竪山先輩、妹いるんですか?」


佐々木さんが意外そうな声を出す。

確かに意外と思うのも納得だ。

今まで微塵もきょうだいがいるようなそぶりを竪山先輩は見せなかったのだから。


「先輩の妹さんに頼まれまして、今日会って話したいと伝言を……先輩?」


だいぶ端折って伝えていると先輩がいまだに動かないことに気がついた。

ゼンマイおもちゃのゼンマイが切れたみたいに固まったままの先輩は、俺の呼びかけにようやく気がついたらしく顔を手で覆った。


「あの、大丈夫ですか?」


竪山先輩はしたを向いたまま沈黙している。

やっぱり触れちゃいけないことだったのではないか、とかなり不安に感じて俺はもう一度先輩に呼びかけた。


「あの、先輩…」


俺としてはかなり心配して声をかけていた…が、次の瞬間、


「クッ…」


「く?」


聞き返す間も無く、先輩はゲラゲラと腹を抱えて笑い出したのだ。


「ブッハハハ!!あー、腹いてぇ!」


ポカンとほうける俺たちを置き去りにして笑い続ける先輩に俺はなんだかムカついて来て怒鳴っていた。


「なんなんですか突然!ワライダケでも食べましたか!?」


「それって本当にあるの?」


「皮肉に決まってるでしょバカ」


佐々木さんの天然ボケの発言に冷静に突っ込む錦織を尻目にいまだに笑っている先輩をにらみつければ、先輩はようやく笑いをやめてくれた。

しかしまだヒクヒクと口元が動いている。

気を抜くとまた笑い出してしまいそうだ。


「悪い悪い。山手があまりに素直過ぎてな」


「なんの話です。俺が素直なのは確かですけど」


「こないだ柚子霧中学前で会った時の会話だろ?」


発端の出来事だったため素直にうなずくと、竪山先輩は手を左右に振って苦笑した。


「あれ、嘘だから」


「はい?」


「だから嘘なんだよ。妹なんか俺にはいない」


ギョッとする俺を無視して先輩は勝手に話し続ける。


ちょっと待ってくれよ。頭が混乱してる。


「あん時は知り合いと待ち合わせしてたんだ。たまたまあそこでお前に鉢合わせたからちょっと冗談のつもりであんなこと言ったんだが、まさか真に受けるとはな。悪かったな山手」


「じ、冗談?」


「ああ。しかしまさか俺の妹が見たいからってそんなあからさまな嘘ついてまで、お前もよくやるな。その好奇心はいつかお前の身を滅ぼすぞ」


「ち、ちょっと待って下さいよ!嘘?嘘なわけないですよ!だって、俺は竪山先輩の妹さんに実際に頼まれたんです!」


実際には弟だが、話していると面倒くさいため省いて伝える。

まだよくわからないが、ひょっとして実が見つけた子は竪山先輩の妹じゃないのか?

竪山違いの別人なのか?


混乱する俺に先輩は豪快に笑う。


「嘘つけ。ま、仮にもし本当にそんなことがあったとしても人違いだ。俺に妹はいない」


先輩はそう言うと、ヒョイと愛用の机ベッドから下りてドアへと向かった。


「先輩?どこに…」


「今日は帰るな。イマイチ眠りが浅い。後藤に伝えといてくれ」


それだけ言うと俺が呼び止める間も無く先輩はあっという間にドアの向こう側へと行ってしまった。


「なに?深刻な話しだったの?」


錦織が居心地の悪そうな声で呼びかけて来ていたが俺の耳には入らなかった。

ただ、笑って否定した先輩の話が俺の中で木霊する。


先輩に妹はいない。


じゃあ、実が見つけたという畑中清子とは、一体誰なんだ?


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