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罵倒少女イカロス☆つかさ

感想、よろしくお願いします。

「ヘイ、ミスターツカサ! 早く起きないと学校に遅刻しちまうぜぇ?」

 そりゃあ、僕だって17歳だ。

 ちょっとは二次元チックでファンタジーな事だって期待したりもするさ。

 トーストくわえた転入生と曲がり角でぶつかるだとか。

 青空から自分のところへと美少女が降ってくるだとか。

 教室に入ってきたテロリストを異能で撃退するだとか。

 少女を守る為に超能力バトルに巻き込まれたりだとか。

 世界を守る為に秘められた力を目覚めさせたりだとか。

 そんな非日常的で非現実的なイベントを望みもするさ。

 でも。

 でも、だ。

「早起きはサーモンの得、とか言ったりするんだろぅ? さっさと起きてサーモンの得しちゃいなよミスターツカサぁ!」

「こんなチャラチャラした野郎を期待した覚えはどこにも無ぇんだよ!」

 僕はガバッと起き上がりながら、枕元にて軽快な踊りを披露しているチャラ男に向かって声を張り上げた。

「おっ! 寝起きだと言うのにその声量と罵倒のキレ。さっすがイカロスが認めただけの事はあるよハッハー!」

「心底うぜぇ!」

 妙にアメリカンでオーバーなリアクションを交えながら話し続ける居候――イカロス。

「今日も絶好調だなぁミスターツカサは! 今日もヨロシク頼むぜぇ?」

 美少女と一つ屋根の下、とかなら僕だってやぶさかでは無いのに、イカロスはどこからどうみても男だ。

 そしてこの僕――入間司いるま つかさだって紛れもなく男だ。

 ボーイズがラヴな展開は僕の管轄外だ。

 大体。

「魔法少女のマスコットキャラって、何かこう、肩の上に乗れそうなサイズが定番だろ!?」

 それなのに。

 それなのに。

「何でお前はそんな外見で、男を魔法少女に勧誘してるんだよ!」


 三日前。

 七十二時間ほど前。

「ヘイ、ユー! ちょっと魔法少女とかやってみたかったりしちゃったりしないカーイ?」

 僕は、不審者に遭遇していた。

 ここは日本だ。

 法治国家と言う奴だ。

 つまり、法によって治める国家、と言うことだ。

 だから。

「オゥ! 無言でケータイ取り出すのヨクナイ! ポリスをコールするのもヨクナイ!」

「不審者を放置しない国、それが法治国家ですから」

 1を2回ほどプッシュしたところで、不審者は大慌てで土下座を開始していた。

 1日の3分の1くらいが終了した時間に、住宅地で土下座している不審者。

 とっととポリスをコールしたくなるくらいには、コイツは怪しかった。

「と言うか、人の登校の邪魔をしないでくれませんか投降させますよ」

 君子危うきに近寄らず。

 触らぬ神には祟り無し。

 すでに近寄ってる気もするし触っちゃったりもしている気もするが、それと不審者を華麗にスルーしながら僕はUターンした。

「オゥ! 流石イカロスが認めた存在ネ罵倒スバラシイ!」

「イカロス……?」

 それがコイツの名前か?

 どっかの神話で、蝋燭で翼を固めて飛んだ、とか言うアレか?

「だったらそのまま墜落死しちゃえば良いのに……」

 大体、神話の中のイカロスは、なんで蝋燭で翼を固めようと思ったんだ?

 絶対重くなって飛べないだろうに。

「大体、一人称が自分の名前、なんてヤツは大抵ロクな人格してないモンなんだよだからとっとと去れ」

 とか言いながら、僕の頭の中に浮かんできたのは実姉の姿。

 うん。やはりこの論は間違っていないらしい。

 全国の『一人称が自分の名前』で『マトモな人』には申し訳ないが、実際にそんな人が僕の目の前に現れない限り、僕はこの考えを改める気はさらっさら無い。

 で。

 そんな僕の言葉を受けて。

「クフ、ウフフフフフ……」

 この不審者は、自分で自分を抱き締めながら怪しく笑っていた。

 顔がそこそこ整っているのに、なんかもう色々と台無しになりそうな構図だった。

 と言うか、こんなのと一緒にいたら僕まで不審者扱いされそうだ。

 朱に染まると赤くなるらしいし。

 類は友を呼んだりするらしいし。

 そうと決めたら、後は実行するだけだ。

 スニーカーにグッと力を込めて、その力を地面にぶつけて駆け出す寸前。

「あ、因みに、魔法少女は仕事1回につき10万円ダヨー?」

「それをさっさと言いやがれ馬鹿野郎」


「で、俺に何をしろってんだ変態が」

 約半日後。

 僕と不審者――イカロスとやらは、駅前の商店街にあるファミレスに居た。

 第二次成長期真っ盛りな学生にしては少し遅めな夕食、と言うワケだ。

「夕食代が浮いたんだ。少しくらいは話を聞いてやる」

「イチイチ上から目線なボーイダネェ……」

 イカロスとやらは、自分のサイフを覗きながら涙声でそう口にした。

「イチイチ上から目線なボーイに魔法少女を薦める不審者、って刑期どんくらいだろう」

「ソーリー許してマジェスティ!」

 と言うか、なんでコイツはこんなエセ英語を交えて会話しているんだ?

 髪色は外国人っぽい――もちろん地毛では無いだろうか――が、それ以外はザ・日本人な外見だ。

 あ、名前も日本人らしくはないか。

「で、そもそも魔法少女ってなんだ」

 僕の知っている魔法少女は、二次元幼女もしくは二次元少女にのみ許された崇高なる職業である。

 少なくとも、男子高校生が就いていい職業では無いはずだ。

 と言うか、そもそも三次元の人間が就いていい職業ではないはずだ。

「その辺の幼女に同じセリフ言ってみろ。二つ返事でオーケーするんじゃねぇの?」

 まぁ、そんな事したら確実にポリスがワッパをサモンしてアタックしてくるんだろうけど。

 って、口調が若干うつってきてるな。ヤバイヤバイ。

「タシカに幼女に罵られるコトを快感に思うピープルもいるケド、それは好ましくナイネ」

「男に罵られることを快感に思うやつも充分ヤバいけどな」

 いやそもそも『快感を与えるために罵る』とかどんな水商売だよ。

 少なくとも、未成年がやっていい仕事ではない。

 なるほど。妙に給料が高いのはそう言うワケか。

「あいにく、水商売に手を出す予定はないので辞退しますご馳走様でした」

「マァマァ、ハナシは最後まで聞くモノダヨ」

 ガタッ、とでも音がしそうな仕草で立ち上がりかける僕に刺さる声。

 その声はさっきまでとは違い、少しマジメなものだった。

 ……イントネーションは若干怪しいが。

「魔法少女、ソレは町の平和を守る美少女」

 フォークでスパゲッティを巻き取りながらイカロスは話す。

「警察を恐れぬアホドモヲ、魅惑で誘惑で躾けるシゴト」

 そのフォークを喋り続ける口へ運びながらイカロスは話す。

「でも、少女をキケンなメに合わせるワケにはイカナもぐもぐもぐもぐ……」

「食いながら話すな汚いねぇ!」

 と、目の前に並ぶ食品をあらかた平らげ終えた僕は(店の迷惑にならないレベルで)叫び。

 イカロスはゴクン、と飲み込み。

「ダカラ、力のアル男に。でも可愛い男を容易シテ」

 水をぐいっ、と飲み干し

「――男の娘に罵倒サセレバ良イって気付いたヨ」


「――懐かしいネェ」

 時へ現在に戻る。

「まだ3日前だよ!」

 と、叫びながら時計を見てみると時間が時間だった。

 回想シーンに時間を使いすぎていたようだ。

 なので僕は素早く着替えて、必要な物をカバンに詰め込んで。

「ジャア、今晩も宜しくダヨー」

「勿論バイト代は分かってるんだろうなぁ!?」

「サイフの中を見てみるヨー!」

 そんな言葉をバックに靴を乱暴に履き、家を出て鍵を閉めて走り出して。

 信号待ちの時にサイフを開けてみると、諭吉さんが10人いた。


「はぁ」

 その日の深夜。

 僕のズボン――のポケット――の中のサイフには、10万円が入っていた。

 だが、そのズボンは今、僕の家にある。

 僕が今、着ている服はと言うと。

「なんっで俺がこんな服を……」

 フリッフリな、ザ・魔法少女なドレスだった。

 ピンクと白の、ザ・魔法少女なドレスだった。

 コスプレ用の、ザ・魔法少女なドレスだった。

 しかもコレ、どうみても魔法な感じの謎パワーで夕食直後に僕に着せたものだ。

 これを着た直後のアイツの顔がニヤけていて気持ち悪かったので、ついうっかり回し蹴りを決めてしまったのだが気にしない。

『モウスグそこヲ通る、下着ドロボウを、心折れるマデ、罵倒、して……』

 とは、僕に蹴られた顔を紅に染めたイカロスの台詞だ。因みに出血による赤ではない。

 遺言ととっても良いんだろうか。

「んにしても、前払いで10万とは……」

 しかもマジモンの金だ。

 帰り道にうっかり使いたくもなったが、前払いの金を使うのも気が引けたのでやめた。

 口が悪い自覚はあるが、流石に良心の呵責ぐらいはあるさ。

「今日が始めての仕事、だっつうのにアイツは何処に……」

 答え、僕の家で気絶している。多分。

「こうなるんだったら、蹴るのは後回しにしておけば良かったかな……」

 あの日の夕食後から今日の今までに、魔法少女としての罵倒の仕方は一応習っておいてある。

 が、流石に不安なところもある。

 だって、相手は変態とは居え犯罪者だ。

「あ」

 とかなんとかぼやいている内に。

 ターゲット、発見。

 サラリーマン風な男が、女性用下着が干されているベランダに屋根から飛び降りていた。

 慣れているのか、大した音もしていない。

 スーツからは、なんだか肌触りが良さそうな謎の布――と言うか女性用下着が顔を覗かせていた。

 間違いなさそうだ。

「んじゃ、いきますか」

 と、僕は今いる所――三軒隣の家の屋根で呟く。

 視線の先には、下着を前に鼻の下を伸ばすサラリーマン。

「魔法少女に視力、って必要なモンなんだな」

 イカロスが俺に着せた魔法少女服の能力その1。

 レーシック要らずな、超視力付与。

 流石に透視とかはできないが、遠くのものでも結構見える。

「よい、」

 さて。

 イカロスが俺に着せた魔法少女服の能力その1。

「しょっ」

 圧倒的な身体能力。

 だんっ、と瓦が破壊される音が、聞こえた気がした。


「まっ、魔法少女!?」

 下着泥棒の第一声は、そんな予想通りと言うか没個性と言うか、まぁありふれたものだった。

 いやありふれてはいないか。ありふれててたまるか、っての。

「おま――」

 おまえ、と切り出そうとしたところで気付く。

 今の僕の格好は、男ではない。

 女だ。

 そして、顔には僕が僕である事を隠せるアイテムが皆無だ。

 だから、ここは男の口調ではダメだ。

 女口調で、完璧に、これが僕でないと思わせなければならないのではないだろうか。

 勿論、バレた時のリスクはそっちの方が高い。

 だが、それを言っていては始まらない。

「アンタ、なーに人様の下着に手を出そうとしてんのクズが」

「ソレ、アンタみたいなカスでキスも未経験なクズでゲスでゴミな人間が触れていい代物だと思っているの?」

「アンタが集めた下着の枚数と同じ数、アンタを殴りたい人が居るんだよ?」

「あ、それにアタシを加えたプラス1か」

「つーわけで速やかに早急に死んで」

「もしくは自首して」

「あとそれ、アンタみたいなキモ男が趣味で穿いてるやつだよ」

 最後は嘘だ。

 と言うか、この家の住人がどんな人なのかを僕は知らない。

「……なんでコスプレイヤーに罵倒されているんだ俺……」

 僕の罵倒に傷付いたワケではなく、どうやらこのシチュエーションに傷付いている様子だ。

 さて。

 イカロスが俺に着せた魔法少女服の能力その3。

 ぴら。

「こーんな男に罵倒されて気分、どう?」

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 ぱきん。

 そんな、心折れたサインを僕に伝えること。

 それが、3つ目の機能。


 能力その4。

 どこからか生み出したリボンで、犯人を多少マニアックなカタチに縛り上げる。

 能力その5。

 どこからか生み出した紙を、どこからか生み出したテープで犯人の背中に貼る。

 能力その6。

 どこからか生み出したペンで、その紙にこの下着泥棒の罪状を簡単に書き記す。

 能力その7。

 どこからか生み出した幾つものアイテム達を、1回の指パッチンで消滅させる。

 能力その2。

 前述の圧倒的身体能力を駆使し、素早く犯人を警察の前に放置し僕は逃げ去る。

 能力その8。

 某猫型ロボのポケットみたいな巾着袋から自宅の鍵を取り出して鍵穴に入れる。

 能力その2。

 前述の圧倒的な身体能力で、イカロスが目覚めるであろう威力の打撃を加える。

 能力その9。

 魔法少女風フリフリドレスを、謎のパワーで小型のペンダントへと変化させる。

「10万円とは言え、何だよこの恥ずかしいハメは」

 そして脱ぎ捨ててあった自分の服を身に付ける。

 時間は深夜。

 今から寝たら確実に寝坊するであろう深夜。

 僕は、イカロスを起こしていた。

「……ナ、ンダーヨー」

 寝惚け眼をこすりながらイカロスは口を開く。

「これ、もう引退しても良いんだよな良いよな良くないとは言わせねぇぞ!」

 さっきの小型ペンダントをイカロスに投げつけ――ようとして、やめる。

「いや、これ、格好にさえ目を瞑れば割と悪用できるんじゃ……」

「罵倒少女の力、気に入ったかヨー?」

「んなワケねーだろ殺すぞ、……って、罵倒少女?」

 魔法少女じゃなくて?

「1文字違いで大違い、ダヨネー」

「『ダヨネー』じゃねぇよ詐欺だよなそれ!?」

 普通の魔法少女は罵倒で闘わないよな!?

 最初から罵倒を前提に話が進んでいる時点でおかしいと思ったけどさ!

「レディに罵倒なんてさせたら、逆上が怖いデショー? だから男使うのサ」

「男なら逆上されても良い、と? 力あるから?」

「ソレもあるシ、男とバラせば大ダメージヨー?」

「……」

 確かに、僕はさっきもその手法を使った。

「ダカラ、罵倒少年ナラヌ罵倒少女ハ、この世にいるヨ」

「……他にもこんな変態チックな仕事やってるヤツいんのかよ……」

「さァ?」

 深夜。

 ペンダントが輝き。

 能力その2。

 イカロスは再び眠った。

 永遠に、では無いハズだ。

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