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同行者プラス1

タイトルの『同行者プラス1』

単純に同行者がひとり増えた、という解釈でも

『同行者プラス』の1話という解釈でも、どっちでも取れるようにしています。


 人魚は自分の名をレリューと名乗った。

 エンコントロ・エストラーダに隣接する人魚の里に君臨する人魚の王族、カンタンテ。こいつはその長女だという。


「――――私は里からここまで追われて逃げてきたのです。あの魔人に狙われて……」


「よくもまぁ魔人なんて化物に狙われて逃げれたもんだねぇ。エストラーダからここまでどれほど離れていると思ってんだい」


「確かにな。1年かけて行く距離を、捕まることなく逃げるのはちと尋常じゃねぇな」


「うんうん。確かにねー」


「あみゅ……はみゅ……んみゃ……ましゅひゃー……」


 この場には俺と人魚の他にコネホやリツィオなんかの姿もある。

 俺だけじゃ対処しきれないので呼んだのだ。…………まぁ面倒を押し付けただけ、という見方もできるし、実情はほぼそれに近いわけだが。

 ちなみに人魚は大きめのタライを用意して、その中に半身浴のように浸かってもらっている。


「それは湖の中を真っ直ぐ来たので陸路よりは早いですし、私は水の中なのでそうそう滅多なことでは捕まりませんよ」


「でもなんで追われてたのかはわからないんだよねぇ?王族が必要ならまだ生まれたばっかりの弟がいるはずだしぃ〜。なにか特別な役目が有るわけでもない」


「そうなんですけど……」


「れろ……ぺちゅ……おいひぃ……おいひぃよ……ましゅたー」


 俺たちの疑問に戸惑いながらも事情を話すレリュー。

 しかし……。

 先程から俺とリツィオを見る時だけ視線が泳ぐ。

 なんだ?俺がそういった扱いになるのはまだわかるが、リツィオとはさっき会ったばかりだろうに。なんであんな不審そうな視線を向けるのか……。

 リツィオもリツィオでそれに気づいているはずなのに、特に触れる様子がない。

 一緒に入ってきたコネホやルカに対しては変わった様子を見せないから、やっぱりリツィオは特別みたいだ。何か訳があるのか?

 それは後々聞くとして、今は理由探しか。

 俺は手を組んで机に肘をついた某指令のポーズをしながら問いかける。


「どっかの奴と婚姻関係になった、とかで狙われている。……なんてのはどうだ?」


「お相手との結婚を狙う別の勢力、ってことかい?」


「う〜ん……そもそも人魚と結婚できる種族なんていうのは限られているし……。大体それならレリューちゃんが生きている必要はないんじゃない?」


「はぁはぁ……ますたー……マスター……」


「ああ、なら違うか……あいつらレリューのことは生かしておきたいみたいだったしな」


 さらっと言われた推測にレリューがその幼い顔を青くする。

 リツィオも結構遠慮がないな。いつものこいつならもう少し配慮ってもんがあるんだが。コイツもこいつでなんかおかしいな。

 だが確かに、死んでもいいなら俺が捌いて食ったって問題はない。むしろ手間が省けるだけだ。

 そうなると後は……身代金?身代金目当ての誘拐か?


「お金?魔人がそんなもの持ってたって何に使うのユー君?」


「そう言われればそうだな……。…………ってか人の考えてることさらっと当てるなリツィオ」


「うふふ。オネーサンは愛しい弟のことならなんでもわかるんだよぅ♪」


「んにゃ……れりゅ……くちゅくちゅ……あむ……みゅふふ……」


 なんか怖いなこいつ……。

 得体の知れない笑みを貼り付けているリツィオを、夜中に不審者に会った女学生のような顔でレリューが見つめている。

 だよな?やっぱり怖いよな?


「こほん……。兎に角!この娘が狙われているのは間違いないんだ!ここは王族に恩を売る意味でもレリューを守らなくちゃいけないよ!」


「ああ。それに関しては同感だ。俺もあの食い込みどもに身の程を教えてやんなくちゃいけないからな」


 仕切り直すように言うコネホ。その意見には心底同意する。

 最近俺も獲物を逃がすことが多くなったからな。アイツ等がまたレリューを狙って来るというのなら、それは願ってもないことだ。

 俺とコネホはしばらく見つめ合う。

 そのうち、どちらからともなく笑い出した。


「ふっふっふ……」


「くっくっく……」


「みゃっみゃっみゃ……」


「んふふふふふふふふふふ!」


「はぁーッはっはっはぁッ!」


「みゃーはっはっはッ!」


「あ、あのでもそっちの人は私のこと食べようとしましたよね……?」


「「そこは流せ」」


「今日のユー君とコネホさんは変に仲いいなぁ……」


 羨ましい……、というリツィオのつぶやきは無視して具体的な護衛プランを練ることにする。

 基本は俺が四六時中そばにいるという前提。そこから自由になる護衛のうち、手練の者数名を逗留する馬車の近くに配置。その前後の馬車には察知に長けた能力を持つ者を交代式で常に割り当てておく。

 警報に応じて飛び道具を装備した冒険者も勘定に入れてある。

 俺がぶっ飛ばした連中がようやく全員戻ってきたからこそできる芸当だ。


「――――とまぁこんなもんか」


「そうさね。今度の商人会議の時にもっと人を寄越すように掛け合ってみるよ」


「だけど本当に良いの?せっかく逃げて来たのにまた戻っちゃうようなことして」


「はい。相手が魔人ならどこにいても一緒ですから」


 レリューの行き先についてはエストラーダの連合軍に身柄を預ける、ということで一致した。本人からの強い希望もあっての事だが、実質的に身を守るにはそうするしかない。

 なにしろ相手は魔人。その力を最大限活用すれば一国を滅ぼすこともたやすいという化物だ。

 しかもそれが2体。並大抵の村の警備では軽くあしらわれてしまうだろう。


「しっかしまぁ、一国の軍隊でも手こずるような相手を、よくもまぁ簡単に撃退できたもんだねぇ」


「うふふ。そりゃあ、なんたってユー君だもの」


「あむン……ちゅぶ……レロレロ……」


「なんでお前が誇らしげなんだよ」


「いい子いい子してあげようか?」


「要らねぇよ!ガキ扱いすんな!」


「んッ、んんッ……あむちゅ……じゅるるるるる」


「……あの、ちょっといいですか?聞きたいことがあるんですが……」


 おずおずと、俺とリツィオのやりとりに割って入るレリュー。

 どうにも控えめというかなんというか。

 視線で続きを促すと上目遣いに視線を固定したまま、疑問を口にした。


「あの、本当に、そのユージーンさん?があの魔人をやっつけたんですか?」


「ああ。なんなら後で証拠でも見せるよ。なんてったってこいつは炎龍にすら勝っちまう子供だからねぇ」


「バアさん面倒なこと言うな。証拠なんてどうやって用意するんだ」


「そりゃあ、そこらの魔物を一発仕留めてくりゃいいのさ」


「炎龍を……?ほ、ホントですか?」


 レリューは何やら半信半疑っぽい様子。

 そりゃそうか。目の前に小学生連れてきて『こいつはゴジラを倒した男だ』なんて紹介されたら、頭の病気を疑われてもしょうがない。それと同じだ。

 あの魔人共が全力ではなかった、なんて言い出したら余計ごたつくな。

 とにかくその点については後回しだ。

 後々何らかのパフォーマンスでもしないと面倒なことになりかねん。


「あ、あともう1つあるんですが……」


「この際だからなんでも聞いておいた方が良いよ?」


「は、はい……その……なんていうか……その猫さん・・・はどうしちゃったんですか?」


 そう言って俺の耳に齧り付いている・・・・・・・・・チャルナを水かきのついた指で差すレリュー。

 よくよく見ればレリューの顔は赤らんでおり、口に出すのも恥ずかしそうなのが伺える。


「あー……。こいつは何て言うか……魔人に何かされたらしくてな。起きてからずっとこうなんだよ」


「あみゅ……れちゅ……まひゅたー……」


 音を立てて俺の耳を舐めるチャルナの顔もまた、朱に染まっている。馬車の裏で見つけた時には肝を冷やしたものだが、起き上りと同時に飛びかかられてしまえばその心配も杞憂と分かった。

 チャルナの様子については、以前に同じ状態になったのを見たことがあるので落ち着いて対処スルーできている。

 発情だ。


「どうやら強制的に発情状態にされているみたいでな。薬も効かないようだし、変なことにならない限り、薬が抜けるまで放置しておくことにした」


「ほ、放置って……ええと、その状態で、ですか……?」


「何か問題でも?」


「い、いえ……」


 チュパチュパと音を立てて耳を舐めるチャルナを、チラチラと目を逸らしてはまた見つめるレリュー、という構図になる。

 対して俺は某指令のポーズで無表情を貫いている。

 正直、柔らかい唇に挟まれて、柔らかく湿った舌が耳の内と言わず外と言わずに這いずり回る感触は、チェリーな俺としては耐え難い。

 下半身がやんごとない状態になっているのがその証だ。

 とはいえ、意地でもそれは悟られたくないので、必死にポーカーフェイスでごまかしているのだ。


 さっきから耳鳴りと舐め立てる音で、話の内容を聞き取るのも難しいくらいだが、そこは唇の動きを読んでなんとか補っている。

 真面目くさった顔を繕いながら、説明を続ける。


「どうやら後から来た方の魔人は、そういった系統に長けた種族らしい」


「そういった種族……サキュバス、とかですか?」


「多分な」


 あの露出度と色気はいかにも、という感じだ。

 一応、男女で組にしておいて片方がやられても対処できるように、護衛の連中を編成してはいるが。

 魔人、と聞いて逃げて来たときのことを思い出したのか、レリューの赤くなっていた顔が青くなる。


「…………心配すんな。今度こそちゃんとした理由で守ってやるから」


「……そう、ですね。ありがとうございます」


 俺の言葉にペコリと頭を下げる。

 よくできた子だ。中学生かそこらだと思うが礼儀がしっかりできている。

 まったく、こんないい子を捌こうなんて言いだしたのはどこのどいつだ?


「――――ユー君、ユー君。それは流石にないわー、だよ」


 うっさい。また考えてること勝手に読みやがって。





「とまぁ、それはそれとしてどうしようかねぇ……。いくら護衛をしているからと言っても、レリュー様が素早く逃げられないなら難易度が跳ね上がるよ」


「馬車を変えるにしても、そのカッコをなんとかしなくちゃ目立っちゃうよねぇ……」


 確かに人魚の格好はとても目立つ。

 護衛モノの小説なんかでも、車を目立たないのに変えて逃げる描写があったな。護衛対象が下半身魚で動きも鈍くて目立つ、なんてことになっていたら、それは難しいだろう。

 とはいえ、それについてはあまり心配していない。


「こっちにもそれなりに打つ手はある。――チャルナ」


「ハァハァ……ましゅたー……にゃうん!?」


 チャルナの首に掛けてあった『変化の輝石』を外す。

 と同時に小さな破裂音を立てて、チャルナが黒猫に戻る。


「「「…………え?」」」


「んでこれを……はい」


 驚いているレリューの首に改めて『変化の輝石』を掛けた。

 赤い光が石から広がり、同じような破裂音とともに、レリューに人間の足が生えた。

 これで問題は解決だ。スピード解決。


「え、え、えええええぇぇぇぇぇぇーーーッ!?な、何ですかこれ!?足!?足生えましたよ!?」


「なに、コレ……?」


「こりゃあ……驚いたね……」


 取り乱すレリュー。驚きに目を見張るリツィオとコネホ。

 あー……そういえばチャルナのこれについては説明したことはなかったか?


「ど、ど、ど、どうなっているんですかこれ!?私のあ、あ、足はどうなってしまったんですか!?」


「ふむ……こりゃ面白いね。店で使えないもんかねぇ……?」


「スゴイスゴイスゴーイッ!なにコレ!?なにコレなにコレ!?」


「あー……。うっさい。後にしろ」


「にゃうん……みゃう……なうー」


 ……結局騒ぎが収まってようやく落ち着いた頃には朝になっていた。

 そんなこんなで巡業商団ストローラーズに新しい同行者が増えたのだった。

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