幕間:ルカ視点
「…………気づかれていましたか」
「やっぱりね。ユー君くらいなら気づかないわけないとは思ってたけど……。アレはこっちの真意まで気づいてるね」
「……本当ですか?」
彼が広場を去ってから、リツィオ様はおかしそうに笑った。最近のリツィオ様は彼のことに御執心のようだ。
私の主人がこの商団に入ってから身に纏うようになった笑顔の仮面。
最近はリツィオ様が本当は何を考えているのか、最も身近にいる自分でさえもわからない。
表面的には昔よりも今の方が感情豊かになっているように見えるが、実際はそうではない。ある目的のために己を殺し、感情を殺して笑顔を演じているのだ。
心の内はもっと、ずっと、冷たくなっている。
そばにいる自分でさえわからない彼女の真意。それをあの出会って一年も経っていない年下の少年が理解しているというのか?
「いくらなんでもそれは…………」
「ケーラちゃん達と私達で、ユー君は力の入り方が全く違うんだよぉー。コネホさんと私達の考えが別々だってことも多分バレちゃってるねー」
それには武人として、自分も気づいていた。ケーラ達には無防備と言えるまで警戒のレベルを落としたユージーンだが、未だに私達2人には身構えることがある。
それさえ見れば確かに警戒されているとわかる。
だがそれは『コネホ側のスパイ』『事情を知っている大人』に対するモノだと思っていた。そして彼は間接的にコネホ側に友好を示したのだからこちらに対する警戒も薄れるものだとばかり――――
そういうとリツィオ様は首を振る。
あれはまだこちらを警戒している、と。
――――だが、それは…………
「――――それはリツィオ様が彼にイタズラばかりするからではありませんか?」
「うぐッ…………そこを突くとはお主なかなかやるなッ!」
「お褒めに預かり光栄です」
いまいち噛み合わない私達の会話が広場の喧騒に混じって消える。
リツィオ様はふぅー、と大きく息を吐くと不貞腐れるように続きを話す。
「ちょっと入れ込みすぎたみたいねぇー。どうにも引っ張られているのよー」
「それは…………『演技』に、ですか?それとも――」
――『彼に』ですか?
そう言いたかったが流石に自分の憶測で、主人の意思を問うような真似はできない。
そんな内心を、リツィオ様は笑っているようだった。困ったように眉を寄せ、口に出さなかった続きを補い、それに答える。
「そりゃあ……両方よ」
「リツィオ様……」
「ほら、そんな顔しないの。綺麗な顔が台無しよ?」
「ですが……」
感情を殺して生きている主人が、何かに惹かれる。
『目的』の為とは言え、少し昔の彼女が笑顔の仮面の向こうから出てこようとしているように感じられる。
だが、今はそれをどうこう言っていられる余裕はない。
問題はユージーンにこちらの事が……私達がコネホとは別の目的を持って動いているとバレてしまった、という事だ。
「たぶん、ユー君はこっちが怪しいということまでは気づいていても、具体的に何をしよう、とかまでは分かっていないんだと思うよ。
その上で、『俺にちょっかいかけてくるなら容赦しない』ってポーズをとってるみたい。こっちから何かしなければあっちから動くことはないと思うなぁ」
「なぜ、そう言えるのですか?」
「だってユー君の性格なら『俺に歯向かう?ブッコロしてやる!』じゃない?」
「そこまで短気だとは思いませんが……でも確かにそうですね」
彼は力押しを好む。戦いのスタイルも、人間関係も。
まるで本当に大切な物は別にあって、そのためにだけに急いでいるように感じることが多々ある。それ以外はどうでもいいかのような扱いだ。
そんな人間が、目的のために邪魔になる存在が出たらどうするか。
答えは徹底排除あるのみだ。
向かってこないならそのまま放置。
確かに彼らしいと言える。
「だからさっきの話は、コネホさんに向けて釘を刺すと同時に、私達に対して『裏があるのは知っているから大人しくしておけ』って宣言なわけよ」
「ならば現状は彼には接触しないで放置――――とは、いかないんですよね?」
「うん。だってなんとしても『目的』のために彼は必要だからね」
リツィオ様はなんでもないことのように言うが、本当にいいのだろうか。
いくら強いとは言え、まだ十にもなっていない子供に。
――――『1つの国を救え』だなんて。
こっそりとため息を吐く。
彼と同じくらいの年の妹が居る村にもう少しで着くというのに、こんな気持ちでいいのだろうか?
すみません、ルイ。どうやら約束を守るにはこの問題をどうにかしないといけないようです…………。
幕間を日曜日に追加されるように更新していたつもりでしたが、ずれて土曜日に追加されてしまいました。
しょうがないのでこののまま土曜日は幕間で他者視点で物語を進めていくことにします。
ううむ……。どこで間違ったんだろ……?