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目標

 長かった。本当に長かった。

 いくら授乳が楽しみだからといって、液体を延々と流し込まれるのはきつかった。

 いくら眠り放題だからといって、身動きができないのはきつかった。

 いくらメイドさんだからといって、50過ぎのマダム達に、過剰なスキンシップを受けるのは、本当に、本当にきつかった・・・!


 今日という、この素晴らしい日に、ようやく俺は・・・・。

 ハイハイができるようになったのだ!

 地道にガラガラで筋トレしていたのがよかったな。あれがなかったら未だに腹ばい移動でノロノロ動くことしかできなかった。

 そんでメイドさんに捕獲されるのだ。 これからはそんなことはなくなる!なんと素晴らしいことかッ!


 ・・・・いやわかってるんスよ?

ハイハイできるようになったからって、歯も生えてない口では流動食しか食えないし、マダムからも逃げられない。

 でもようやく見えた希望ッス。少しくらい浮かれたっていいじゃないッスか。


 さておき、これである程度、活動範囲が広がったわけだ。

 日中はせいぜいこの部屋の中だけだが、夜中は監視の目を盗んで動けば屋敷の中を動ける。


 さしあたっての探索対象である部屋を見渡す。そこまでものは多くない。

 今、俺が寝ているベット(赤ん坊用。柵つき)と物を置くチェスト、後は着替えを入れるクローゼットくらいしかない。

 一時期出産祝いだか、誕生祝いだかで物が溢れていた時期があったが、邪魔にしかならないということで別の部屋に運び出していった。

 結構な量があったが、もしかしてこの家は地位が高いのだろうか。メイドさんも多いし。

 ただの日本の一市民としてはなんか落ち着かない。

 貴族だったりしたら作法とか礼儀とか面倒そうだ。どちらかというと小心者だったから人に命令するのにも躊躇する。

 まぁ後で考えればいいか。所詮三男以降なのは確定してるし。


 ベットの柵に手をかけて、体を起こす。意外と赤ん坊の握る力というのは強い。この体くらいは簡単に持ち上がる。

持ち上がるというかぶら下がる感じだが。

 足を使ってどうにか柵の上に落ち着く。後は下に・・・おっと!?

 手を滑らせて下に落ちる。幸いタオルが大量にあって怪我はしなかった。

 しっかしドキドキしたー。こんなとこで死んだら世話ないな。

 せっかく立てた目標が無駄になるところだった。




 この世界で生きていくに当たって俺は当面の目標を立てていた。赤ん坊だからな。時間は腐る程あった。


 まず第一に、あのクソカタカナ(ターヴ)をぶっ飛ばす。人を騙しやがって。絶対にただじゃおかねぇ・・!


 第二に12体の化物を殺せるだけの力を手に入れる。「ススメ」が監視装置だとか言ってやがったからな。

いずれその機能をなんとかするにしても、戦う力を手に入れないと、あっさり死ぬだろう。


 第三。これが俺にとってはある意味、一番重要かつ身近なことだ。




 この世界を楽しむ。




 シンプルで曖昧すぎるかもしれないがこれだ。わざわざ野郎のケツ追っかけたり、その依頼を片付けたりするよりいいだろう。

 せっかく異世界に来たんだ。こう、胸躍るものがあるじゃねぇか。ロマンスとかリヴィドゥー(発音よく)とか。できるかどうかは別にしても。

 まぁそれ以外特に決まってない、行き当たりばったりな目標だが、ないよりマシだ。


 とか考えるうちに部屋の探索は終わっていた。何も無い。届かない場所なんかもあったがそれほどめぼしいものはないだろう。

 あるのは俺の肌着とか陶器の水差しとかそんなもんだ。

 確かに乳幼児の部屋に「魔法大辞典」とか「意味ありげな鍵」とかあったら不自然極まりない。

 額縁の裏とか探したり、銅像の首を回したりして仕掛けを疑うレベル。


 こうなると夜まで暇だ。

 とりあえずベットに・・・、と動き出した途端、ガシャン!と音がした。

 見ると横にあった水差しが落ちて割れている。やっべ。やっちまった。


「なんの音!?向こうの部屋からだわ!」


 ヤバイヤバイヤバイ・・!マダム襲来!マダム襲来ー!

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