幕間:ターヴ視点
―――――ターヴ視点――――――
白。
視界はどこまで行っても白一色で他の色なんて欠片もない。
これが黒だったなら『闇の中に何かがあるかも』、と想像を膨らませることもできるだろう。
しかしここまで明るいとその可能性など微塵も期待できない。
その『白』は残酷なまでに何もないことを表していた。
ただただひたすら白いその世界に、黄金色の輝きがさざ波のように広がる。
「お、ようやく目を覚ましましたね。ユージさん。」
ボクはしばらくぶりに声を発した。
仮面に阻まれてややくぐもった響きになるがここには見ての通り、ボクしかいない。
己が気にしさえしなければいいだけだ。
手元に目を向けて黄金色に光る『本』を見やる。
「長かったなぁ・・・。ひーふーみー・・・・7年も経ってようやくか。まぁ子供だしね。あまり早く目覚められても困るし。」
ココに来てからやけに独り言が増えたなぁ。
そうは思っても思考と同時に口をついて出てくる言葉を止められない。どうせボクしかいないんだしどうでもいいか。
ひとしきり独り言を言って、その後何も考えずに眠るような生活を繰り返していると、こんな弊害がでるようだ。
「『黄道十二宮』の方もあと少しかかるみたいだし、ちょうどいい、って言えば良いのかな?」
神々たちがわざわざ自慢げに教えてくれるお陰で向こうの進捗状況も丸分かりだ。
この『本』はユージさんが持つ『本』とセットになっていてあちらの状況把握を順次教えてくれる。
それによると彼はようやくスタートラインに立つことが出来たようだ。
「チュートリアルはもうおしまい。さぁ!頑張ってくださいよ?あなたには強くなってもらわないといけないんですからね。」
『本』のページにはさざ波が走り、湖面のように揺らめいている。
その中に彼、『上月祐次』が映りこんでいる。その姿はボロボロで、非常に驚いた顔でこちらを見上げていた。
まったく情けない限りだ。仮にも神の顔を殴った男だというのに。
「こんなこと言ったらまた殴りに来るのでしょうけど。ふふふ」
クスクスと笑った。
衝撃的な出会い方だったのだ。このくだらない場所に囚われている自分にとっては。
笑劇的な別れ方もした。あの時の彼の顔ったら無かった。今でも偶に思い出して笑ってしまう。
「ボクが男だから、なんて理由で傷つけられたのは初めてだったし、ね。」
指先でゆっくりと彼の顔の輪郭をなぞる。
本当は神の体に男だとか、女だとかそういう分類は意味をなさない。如何様にも変えられるからだ。
いつか再会して女神の体であったらどんな面白い反応を見せてくれるのだろう?それまでにどんな冒険をして来るのだろう?
「さあ!ここからが冒険本編だ!役者が揃うまでに脱落しないでくださいよ。」
どうかお楽しみください、というと同時に輝きは消え、何も書かれていないページに戻る。
ああ、あっちの方でなにかあったようだ。もう少し見ていたかったんだけどなぁ・・・。
「いい加減、こっちもやらないとねぇ。肝心の役者もボクに放り出すとか何考えてるんだか。」
そう言って振り返る。
そこにはそれぞれの輝きを放つ剣が、槍が、杖が。
ありとあらゆる武具物品が視界いっぱいに突き立っていた。
「頼みますよユージさん。貴方にはボクをここから出してもらわなきゃいけないんですから・・・・。」
そう言ってボクは『本』の背表紙をゆっくりと撫でた。
これにて転生編〜春の大陸編終了しました。お次は夏の大陸の物語です。
これを執筆しているのは10月下旬。もう冬の足音が聞こえて来る時期です。なのに何が悲しくて夏の物語を書いているのか・・・。
ネタを考えるときは家の風呂にじっくり浸かって考えるか、近くのスーパー銭湯のサウナで考え込んでいます。これから夏の大陸編なので状況を再現したほうが書きやすいでしょうし。
不思議とリラックスしきった時の方が、机に向かって唸っている時よりもアイディアが湧いてくるようです。
まぁそれで風呂からあがる頃には忘れていたりするんですが。