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渡り鳥


 それから2日。オヤジが到着したという知らせを受けて俺は王城に出向いた。

 セレナがお見舞いという形で治療院を訪れ、そのまま同じ馬車で城へと向かう。


 豪華な家屋、というか屋敷が立ち並ぶ貴族街を抜けて王城の門で止まる。遠くから眺めたことは何度もあったがここまで近づいてみるのは初めてだ。

 白く巨大な城。この中にこの国の最高権力者がいる、と思うと身が引き締まる。

 ――――なんてことはなく。


「あー。マジでダッリぃぃぃぃ。謁見ダリぃ。」


「なんですのその言い草は!仮にも王族ですのよ!?」


「仮なのかよ・・・。いや、なんつってもお前の親だしなぁ・・・。」


「どういう意味ですの!?」


 終始だらけきっている俺にセレナから叱責が飛ぶ。ちなみに馬車には俺たちの他に王立学校の学長も居るがさっきから青い顔でダラダラ汗をかいているのみで口を挟むことはない。

 学校の管理下で起きた事件、しかも職員の一人がスパイだったのだ。今回のことは明らかにコイツの失態だ。


「そう固まることないぜ、センセ。大丈夫。どうせキツイ説教喰らうだけだ。」


「フォローになってませんわ!?」


「だけって何ですか、だけって・・・!今回のことは王族のみならず、貴族うちでも力のある貴方のお家のことも関わっているんですからね!」


 泣くなよ・・・。いい年こいた大人(御年70歳、男)が涙目でいても誰も得しない。

 いつもオヤジからどやされている俺からしたら、説教だけならそんなに怖いもんでもないんだが・・・。

 俺が怖いのは家の監視が付いて自由に動けなくなることくらいか。


 城の中から案内役の男が現れた。

 とりあえず謁見の間に行く前に一度控えの間で待機させられるらしい。

 セレナとは途中で別れた。今回アイツは王族むこうサイドだとさ。




「お・・・。」


「ぬう・・・。」


 控えの間の扉を開けると、そこにはダリア家当主であるオヤジがいた。学長はその仏頂面を見た途端、体を固めてしまった。

 まぁ自分とこの失敗で傷ついた子供の親だからな。それも有力貴族。気持ちはわからなくもない。


「ユージーン・・・。お前はたかだか数ヶ月でどれだけ大きな問題を起こせば気が済むのだ・・・。」


「―――こういう時は嘘でもいいから体の心配するのが親ってもんだろ?」


「そのふてぶてしい顔を見た途端にそんな気は無くなってしまったわ!なんだテロリスト単独鎮圧とは!よくやった!」


「褒めんのかよ・・・。」


「武家の子供としてはこれ以上ない業績だな。武勲をたて、そのうえ四肢を損なうことなく帰還する。そこについては評価する。腕の一本や二本なくなっても生きて帰ってくるのは優秀な証だ。死んでいなければどうとでもなる。」



「『しなやす』かよ・・。」


 格ゲーなどでよく言われる『死ななきゃ安い』の略だ。


「だが貴族、しかも『公爵』までいくと話は変わる。今回のことでパワーバランスが大きく動いた。それの始末をつけねばならん。

 ――――ところでそちらは?」


「ああ。王立学校の学長。」


「あ、あの今回のことは誠に申し訳なく・・・・。」


「いや、いい。それよりもうちのドラ息子をそちらに受け入れて下さって感謝しておるくらいだ。ウチのコイツのことは気にしなくてもいい。どうせ殺しても死なん。己から首を突っ込んでいったようなものらしいしな。」


「あ、ありがとう御座いますッ!」


「実際死にかけた息子に対してあんまりじゃないスかね。お父様・・・。」


 もの凄い勢いで頭を下げる学長。

 これで唯一傷ついた生徒の親から許されたわけで。それなら批判や取らされる責任もいくらか少なくなるはずだ。

 代わりにウチに対して借りは残るだろうが、な。




 腰を落ち着けてメイドさんの淹れてくれた紅茶を飲み話し込むことしばらく。

 ようやく謁見の準備が整ったようで廊下から呼ばれる。

 今回の謁見は王城の中で最も広い謁見の間で行われるらしい。なんでも多くの貴族が今回の事件に興味を示しているらしく大々的にその顛末を報告を聞きたがっているらしい。

 野次馬根性マジお疲れ、とでも言ってやりたくなるが、事は一貴族の話で済むことではない。ヘタをすれば軍事的な緊張をもたらすこともある。何より計画の一端に他の貴族の子弟が関わっていた以上、他人事ではいられないだろう。


「ダリア家当主ドルフ・ダリア様、ならびにユージーン・ダリア様、王立学校校長アストン・アプリコット様、おなぁ〜りいぃぃぃぃ!」


 うわッマジであんなセリフ言うのかよ・・・。

 などと思っても表面上は非常に真面目くさったような顔を繕って赤い絨毯の上を進む。壁際には多くの貴族がズラッと並んでいる。集まるだけ集まっているんじゃないかコレ?

 謁見の間は豪華な装飾品がイヤミにならない程度に置かれていた。一つ一つが絢爛なため配置する数が多すぎると、華やかさと下品さを取り違えたものになるとの配慮だろう。

 正面の玉座には立派なヒゲを蓄えた壮年の男性が座っている。その左には同じ年くらいの女性が、反対側にはセレナがお澄まし顔でいる。こうして見ると確かに王女様っぽい。反対側のは現国王のお妃様か。

 厳粛な空気のせいか、王家の面々からは威圧感のようなものが放たれている気がする。


 ある程度近くまで進むとドルフが片膝をつく。俺もその後ろで同じようにした。先頭にドルフ。後ろに俺と学長という並びだ。学長も膝を着いたのを感じてドルフが口を開いた。


「招聘に預かり参上いたしました、ドルフ・ダリアに御座います。」


「同じく、息子のユージーン・ダリア。この度は拝顔たまわり恐悦至極。」


「お、同じく、アストン・アプリコット。お目にかかれて光栄にございます。」


「うむ。よく来てくれた。歓迎申し上げる。―――――なかなか聡明な息子のようで将来が期待できるな、ドルフよ。」


「もったいなきお言葉。」


「して、なぜ招いたか、理由は教えずともわかっておるだろう?」


「誘拐事件のことに関して、で御座いますね。」


「左様。」


 こんなことせんでもわかってるんだからさっさとやれよ、と思うがこうやって儀式めいた手順を踏むことで威厳を保っているのだろうと考えれば仕方がないと納得できる。

 国王は学長に命じて事の顛末を報告させる。

 ワライラ王立学校の行事で林間学校を行ったこと。その夜に何者かの襲撃を受けたこと。正体は他国の間諜だということ、目的が恐らく国力を削ぐこと、そしてその撃退に俺が活躍したこと。

 ちなみに学長は林間学校に参加しておらず、報告は同行した先生方の報告を取りまとめたものだ。報告書を読む間中、その足がプルプル震えていて気の毒だった。

 貴族たちの反応は表立っては特にないが、学校の失態については野次がちらほら聞こえていたし、ミゼルのことや俺の働きの時は大きくざわめいていた。


「――――ふむ。アストンよ。そなたの事を疑っているわけではないが、それはまことか?このような子供が、敵国の間者をことごとく打倒した、と?とてもではないが信じられたものではない。」


 壁際に並んでいた一人が口を挟む。たぶん宰相などの偉い立場のものだろう。そのセリフに「子供にも負ける弱兵・・・。」という言葉が聞こえて笑いをこらえる気配が湧く。

 学長は力なく頷いた。コイツも半信半疑なのだろう。

 どいつもコイツも信じてないらしい。ちょーーーっとだけムカついたなぁー、お兄さん。


「うむ。それもそうだな。―――のうユージーンよ。その力、示して見せる気はないか?」


「――――お望みとあらば。」


 いかにも見てみたい、というのを隠さずにいる王様。その目がキラキラと輝いているのを見ては嫌とは言えないだろう。


「ならば・・・・騎士をひとりここに。」


 宰相に命じられて甲冑を着込んだ男が前に進み出る。

 面防で見えないがどことなく戸惑っているようだ。武器はなく、素手で相手するらしいがかえって鎧は邪魔じゃないか?


「どうやっても良い。倒して見せよ。そこもとも手加減はするな。」


「御意。」


 短く返事をする騎士。

 少し離れた場所に移動し、正面から相対する。

 なかなか強そうだがそこまで手こずる気はしない。


「では―――――始めっ!」


 ダンッ!


 開始の合図。

 一足飛びに騎士の懐に踏み込む。

 足が石造りの床を叩く音を残して急接近した。


 あちらはまだ俺をを認識してさえいない。

 その胸元を掌底で打つ。


 ガカイィィン!


 手の平に伝わる硬い感触。

 金属がひしゃげる音。


 それを残して騎士は謁見の間の端まで吹き飛んでいた。


「―――――はぁ・・・・?」


「な、んだと・・・!?」


 目の前で起きた現象を上手く理解できないらしい貴族が壁際で呻く。

 騎士の方は・・・・なんとか自分で起き上がったか。下手すると鎧を貫通する可能性が高かったが上手くいったようだ。

 ・・・面倒事は嫌いだがこうして力を振るって鼻をあかすのは実に気分がいい。

 にっ、と口元で笑みを作りながら陛下の方に向き直った。


「これでご満足頂けましたでしょうか陛下?」


「ぬふふ。良い良い。実に満足だ。」


 そう言って実に楽しそうに笑う陛下。多分セレナから何があったか聞いていたんだろう。わざわざ報告が有ったことを言わないあたり確信犯だ。


「皆の衆。見ただろう?これほどの力を持っていれば他国の間諜などはひとたまりもない。」


「あれが子供の力だと・・・!?馬鹿な・・・!」「あれが建国から伝わる『黒華ダリア』の血・・・」


「もうひとつの『王家』か・・・。」


 壁際の貴族たちがざわめく。

 国王が宰相に視線を向けると、慌てて口を開いた。


「え、ええ。確かにその通りです。」


 宰相も渋々頷いた。・・・よし、勝った。




「で、そのぅ・・・報告書には『天を裂く大魔法』を単独で放った、とありますが、これは流石に冗談ですよね?」


 ・・・多分最後に放ったやつだと思うが・・・・・。

 一瞬何を言ってるのかと思った。流石に誇張が過ぎる。


「いささか誤解があるようですが、そのようにも見える攻撃はいたしました。ただ、あれは『古代遺物アーティファクト』の力です。しかも一回限りの使い捨てで二度は行えません。」


「なんと!そのようなものが・・・!」


 これは一応の保険だ。俺の社会的な地位、というか権力がないうちに『力』の事を公表すると面倒なことになりかねん。

 そして問題になるのは・・・・・『アレ』、すっごい気分悪くなるんだよな・・・。

 魔力の噴出が続く間中、ずっとトラウマの場面を頭の中で再生し続ける、という副作用、というか仕様なんだろうけど、それがキツイ。誰が好き好んで自分が死んだ場面見続けたいと思うんだ。

 強力な魔力を得るために自分の精神と向き合う、なんてのは漫画によくある展開だが、使う度にトラウマを見せ付けられるなんて・・・。

 ターヴの野郎、相当底意地が悪い。

 戦力としては相当なメリットがあるが、そう何度も使いたいわけじゃないので誰かに利用されるのは御免被る。なので『アレこっきり』ということで騙すしかない。


 魔法というのは『当時の感情を思い出して』魔力を引き出すのは効率が悪い。これは感情の大きさが、引き出される魔力に釣り合わないということだ。

 ならばなぜ俺のアレは魔法(仮)として現れるのか。


 仮説の一つが、感情(=魔力)が大きすぎるということ。減衰した魔力でもあれほどの大きな力になった、という仮説だ。

 効率が悪かろうがなんだろうが、問答無用で魔法として顕現するほどの魔力があれば問題ないわけだ。

 だがこれはあまり現実的とは言えない。量が馬鹿デカすぎる。


 もうひとつの仮説。こちらのほうが本命だ。

 それは、『フラッシュバック』。過去の記憶の『追体験』だ。

 フラッシュバックは過去に受けたトラウマの記憶が突然、鮮明に思い出される、という心理現象のこと。

 普通なら突然、かつ無意識に起きるもので俺の場合は当てはまらないのかもしれないが、この概念がしっくり来る。


 『フラッシュバック』は『思い出す』わけじゃない。『再び体験した』のと同じ感覚だ。

 だから魔力の減衰が起きずにあれほどの魔力が湧き上がるのかもしれない。





「――――いかがしましたかな?」


「―――っ!?も、申し訳ない。少し体調が悪くて気が抜けてました。」


「ふむ。それも致し方ないでしょう。今ここにこうして立てているのも奇跡みたいなものですからな。」


 思考に没頭していた俺に声がかかる。まだ広間の雰囲気は静まっていないのでそれほど長時間ほうけていたわけではないようだ。

 一つ咳をして、場を鎮めた国王がちらりとセレナに目をやる。向こうは相変わらずのおすまし顔だが、何かしら合図を送ったのだろう。妙に顔が赤い。


「これでこの者が嘘を申していたわけではない、と証明されたわけだな。

 ―――ユージーン。まことによくこの国の未来を作る者たちを守ってくれたな。

 今回のことは一重にお前のおかげで犠牲が出なかった。国中の貴族を代表して礼を言おう。」


「はっ!ありがたき幸せ。」


「うむ。ついては褒美をとらせる。ルード。」


「はい。こちらが目録になります。」


 宰相が渡してくる紙を親父が受け取る。

 あの中に細々とした褒美の品が記入されているのだろう。なにせ少なく見積もっても百人近い人数の貴族の子供が関係していたのだ。贈り物も膨大な数になるだろうな。


「今のが各貴族の分だ。そして王家からも褒美がある。

 儂の娘、セレナをお主の―――「失礼ながら陛下。お願いが御座います。」―――なんだと?」


 無理矢理セリフに割り込むと、国王が、というか広間の全員が驚いたように目を見張る。ドルフでさえもこちらを振り向いて驚愕に目を見開いていた。

 国王の言葉を途中で阻むなど無礼にも程がある。そう分かっていても言いたいことがあった。


「無礼をお許し下さい。ですが、このままわたくしめに褒美を与えては少々厄介なことになりかねません。」


「――――どういうことだ?」


「このまま『ダリア公爵家』にあまり褒美を、力を与えすぎれば、この度の間者のようなものに利用されてしまいます。

 ダリア家はこのアルフライラ王国でも指折りの権力を持っているわけです。そして今回のことでさらに力を増す。当然、快く思わない者もいるでしょう。そこを今回のような間者に誘導されれば―――。」


「謀反、離反に繋がる、と。その程度のことは想定しておる。」


 今は国内で争っている場合ではないだろうに、と吐き捨てるように言う国王。

 壁際の貴族の内、何人かが居心地が悪そうに身じろぎした。

 正直、俺も貰えるなら貰っておきたいのだが、それをすると不利益の方が大きそうなのでやめておいた。


「ええ。対策もしているのでしょう。しかし、相手方には『精神魔法』の使い手がいます。」


「なに!?本当か!?」


「ええ・・。報告書にも上がっております。」


「なんということだ・・・!そこまでして我が国を貶めたいのか!」


 この世界では『感情』が武器になることもあって、情緒的なものを重視する傾向が強い。

 精神魔法はその大切な『心』を歪めてしまう禁忌の魔法であることを、精神魔法について調べた時に知っていた。

 国王がそのことを聞いて激昂するのも無理はないことだった。

 おかげで俺の交渉に説得力が出る。



 ――――さあ、うまく騙されてくれよ・・・?



「その魔法は『掛けられた者の想いを何倍にも増幅して誘導する』、ということが出来ます。それを使えばあるいは国家転覆を狙うことも可能でしょう。あるいは疑心暗鬼に陥らせて、口さがない者に『ダリア家が謀反の計画を立てている』とでも吹き込み、ダリア家とアルフメート、両家を争わせて国の力を削ぐことも。」


「なんと恐ろしい・・・!」


「問題なのは『元々持っている想い』を利用すること。例え魔法を解除してもその精神が変質した状態で固定されてしまえば・・・。」


「た、確かに捕らえた賊の中には魔法の反応がないくせに挙動が怪しいものが居りましたが・・・・。」


「ぬう・・・。」


 顔を歪める国王。青ざめる宰相。

 事の厄介さに気づいたんだろう。魔法を解除してもその効力が失われないのであれば、それはもうそういう思考回路を持ったひとりの人間だ。操られた証明もできず、その人間をうかつに処罰してしまえば今度はそれがに繋がる。

 ここまでの話に嘘はない。つくのはこれからだ。


「それと、これはただの推測でしかないのですが、相手はもしかしたらどこかの国ではないのかもしれません。」


「どういうことだ?」


「例えば戦争になれば武具・防具が売れます。それを狙って今回のようなことをすれば・・・。」


「再び戦争になって儲かる・・・。なるほど、これは迂闊にどこかの国に手を出すわけにはいかなくなったのう。」


「もっともこれは例えでしかありません。そして相手方の組織の規模はこの大陸に留まるとは思えません。」


「フム・・・。なぜそう思う?」


「事件で使われた魔法の術式が、この大陸にはない形式でした。」


 これがここ一番の嘘だ。俺には他大陸の魔法についての知識がない。詳しく知っているわけでもない。むしろこの国のものしか知らない。

 ミゼルやその部下が使った魔法も普通に俺と同じルールに基づいて使われていたものだった。

 つまりこれはなんの根拠もない真っ赤な嘘なのだ。


「ほう。いかにしてその事実を知った?」


「先ほど報告の中にあった古代遺物アーティファクトの取引をした際、売人の男が使っていたのと似た形式でしたので。その者は他の大陸から来たと言っていました。」


 ザワッ!

 俺の発言に再びざわめきが広がる。

 あれ?なんでざわついてんだ?変なこと言ったか?


「その年で魔法陣を理解したというのか!?」「ありえん・・・目に見えない魔法陣を見る『スキル持ち』ならまだしも・・。」「まさか。さっきの異常な力もスキルでしょう?それだとふたつのスキルを持っていることになりますよ。」


 ん?魔方陣が目に見えない・・・・・・

 あれって普通、見えないのか!?マズい。下手な発言をすると面倒事がまた増える!

 内心ドキドキしていると国王がまた咳をして黙らせた。


「なるほどな・・・。どうやってそれを知ったかはさておこう。それで?それを我に知らせてなんとする?」


 ああ、どうやら流してくれるみたいだ。ほっと一息ついてから、今回の俺の狙いを告げる。


「私に『海を渡る許可』を褒美として頂きたいのです。」


「ッ!?」


 俺の発言に国王のみならず広間の人間全員が驚く。この発言はある意味常識はずれのものだった。



 

 今、この国に限らず、多くの国では海を渡って別の大陸に渡るのは制限されている。人口の流出防止、流入するスパイの阻止、他大陸からの第三勢力の台頭の阻止・・・・。

 様々な理由があるが、これの例外として一部の優秀な者が許可を得て海を渡ることがある。他大陸に赴き、ここにはない文化、技術を持って帰り、それによって自国に利益をもたらす場合ケースだ。

 なぜ優秀なものを海外に流出させるような真似をするのかというと、それまで行った多くのものが帰ってこないからだ。

 他の大陸で何があったのか、帰って来るのは全体の半数以下だ。

 居心地の良い場所に居を構えた、程度なら良いのだが、中には仲間を全員失って這々の体で帰ってくるの者もいた。

 いたずらに実力のない者が行けばそれはすなわち死に繋がる。

 なので海外に行くのはそれなりの実力を持った者、ということになる。その者を失う可能性があっても他国の文化、物品というものは価値のあるものだ。


 その過酷な試練に、こともあろうに見た目だけならただの7歳の子供が志願した。それは自ら死にに行くのと同義だ。


「待て待て・・。今の話とお前が『渡り鳥』になるのとなんの関係がある。」


「いくつか理由はありますが、ひとつは先の組織を潰しに行くこと、もうひとつは修行をしたいのです。」


「修業、とな?」


「はい。私は未だ幼く、未熟です。現に今回の事件で私は死にかけました。なので強くなりたいのです。」


 この部分は掛け値なしに俺の本音だ。

 たかだか工作部隊の一団と交戦した程度で死にかけているようではこれから起こる戦いでは生きていけない。俺にナメた真似してくれた連中を殴ることもできない。この国で行き詰っているよりは、他の大陸に行って実践を経験して強くなりたい。


「だがもう少し待っても良いのではないかね?君は自分でも言った通りまだ子供だ。」


「例の組織がそれを待ってくれますか?」


「それは・・・。」


 こっちの理由は完全に後付けだ。俺はこの国から出たい一心で言っているんだ。わざわざ海を渡るのは俺の血筋関係で恨みが相当溜まっている隣国に行くわけにはいかないからだ。

 なんでもいいからさっさとウンと頷けぇ・・・・!さぁ!さぁ!!


「だ、ダメですわッ!」


 それまで一言も言葉を発していなかったセレナが声を上げる。

 俺と国王のやりとりに注視していた貴族も驚いてセレナに目を向ける。


「あ、え、えと、コホン!貴方が居なくなってもダリア家に褒美は行くのですから意味はありませんわ。何も外国に行ってまで修行する必要もありません。この国に居なさい。」


 何を言ってやがるんだこいつは・・・!

 こんな時まで邪魔しに来やがって!アホ女がぁぁぁぁッ!

 ――――などという胸の内は微塵も感じさせることなく極めて真面目な顔でセレナに視線を向ける。


「私に渡航権を与えて頂ければその分褒美が減るわけですし、私個人にしたって利権と共に海外に出て行く。ダリア家の戦力が増えるわけではないのです。ここまですれば今回の件でダリア家が手に入れた物はただの物品のみとなります。」


 なにせ当事者がいなくなるのだ。今回の功績がただの一個人にしては大きすぎるのと相まって、噂という形で評判も薄くなるだろう。不満も突っ込みどころを失っていく。


「何より海外の組織がいなくなれば我が国は後顧の憂いなく、外交に勤しめる。まだ意味がないと言えますか?」


「う、ぐ・・・。あ、貴方がそんなことできるわけがないでしょう!直ぐに死んでしまいますわ!」


「これはおかしな事を。ある程度の実力があることは王女殿下自らご覧になっていたではありませんか。」


「うぅ・・・・。ぐすっ。どうしても、この国を出ていくつもりですの!?」


 涙目になるなよ・・・。何なんだこいつは・・・。

 うんざりしてため息を吐きたくなる。そんな俺の気分を読み取ったわけではないだろうが、国王がひとつ大きく頷くと声を上げた。


「よかろう!ユージーン・ダリアよ!お主が『渡航権利保持者』、通称『渡り鳥』になることを許可しよう!いつの日かこの国に帰還し、益をもたらすことを期待する!」


「・・・・ありがとう御座います、陛下。」


 何はともあれ、これで俺は海を渡れる。

 ようやく異世界物語らしくなってきたじゃないか。せっかく異世界に来たんだから色々な場所に行って楽しみたい。

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