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フォルネウス

 ゴオッ!

 空気の唸る音を引き連れながら鋼の塊が空を薙ぐ。

 巨漢が放つ必殺の一撃を、俺は体さばきで躱す。その動きを予想していたフォルネウスの蹴りがさらに下から迫る。

 俺は体の軽さを利用してその足の上に手をついた。

 そのまま無理な体勢で攻撃した反動で固まっている上半身に剣の一撃を振り下ろす。


「――――ぬうッ!」


 気合の声が聞こえたかと思うと、信じられないことに横合いから拳が迫る。

 あの大剣に添えていた手を離して咄嗟に迎撃に出るとは思わなかった俺は、瞬時に反応できず、それでもなんとか腕を交差して衝撃を軽減した。


「―――ぐうッ!?」


 インパクトの瞬間、体がバラバラになりそうな衝撃が伝わってくる。

 吹っ飛ばされている内に体勢を変えて着地。勢いのままゴロゴロと転がって距離をとる。

 立ち上がって息を整えるとフォルネウスがこちらに向かってくるところだった。その動きはとても大質量の大剣を扱っているようには見えないほど俊敏だ。


 ――――なんだあのバケモンは。冗談じゃねえ。

 大剣どころか普通に一撃もらった時点でゲームオーバーになる膂力。

 小回りが効く俺と同じくらいの俊敏性。

 さすが、隊長になるにふさわしい実力だ。なんて言うほど余裕はない。


 真正面から剣で打ち合うなど、力はともかく剣が圧倒的に不利だ。

 あの一撃をまともに受け止めでもしたら、たちまち剣ごと切り裂かれるだろう。さっきの俺の攻撃の再現になるだけだ。

 よしんば剣がもっても、圧倒的な体重差で地面に押さえつけられて終わり。


 ならば―――――


「おおおおおおおッ!!」


 懐から『拳銃型魔道具フライクーゲル』を取り出し絶叫しながら引き金を連続で引いた。


「――――ッ!?なんだとッ!?」


 大量に撃ち出された魔法を見て目を剥くフォルネウス。

 何もバカ正直に剣で勝とうとする必要は無い。遠距離から魔法で迎撃すればいい。


 驚愕の感情を色濃く残したまま、それでも大剣で払い落とせたのは手放しで賞賛しても良いほどだった。

 ただし、完全には防げず数発の被弾をくらったようだ。


「ぐ、う・・・!驚いたぞ・・!まさか無詠唱の古代遺物アーティファクト、それも2つも揃えてくるとは!本当に何者だ貴様!?」


「はあ?見てわかんねーのかよ。可愛い可愛いただの子供だよ。」


「クソッ!よくもまあ白々しい・・!」


「あ、れは・・・。」


 固唾を飲んで見つめていたギャラリーの中。

 セレナが俺の持つ『フライクーゲル』を見つめて驚いた表情をしている。いや、他の連中も驚いているようだが、セレナだけ種類が違う。そのせいでセレナだけ浮き彫りになっているかのように目立つ。

 なんだあの表情は・・・?まるで――――


「ユージーン・・・貴方はまさか・・・!」


「―――――そらッ!よそ見をしている暇なぞないぞッ!!」


「―――ッ!くそッ!少しくらいゆっくりさせろジジイッ!」


「死んでからゆっくりしておけええええッ!」


 数瞬前まで立っていた場所をけたたましい轟音をたてて巨剣が穿つ。

 セレナのことは気になるが後回しだ。


 一旦距離を離そうとするのだが、相手が食いついてきて出来ない。

 向こうもわかっているのだろう。俺の有効打がこれしかないということを。

 なんとか隙を突いてわずかばかりの距離を離す。


「喰らえッ!!」


 撃鉄の起こす金属音の中、吠えるように言葉を発した。

 俺の撃ち出す魔法弾がフォルネウスに殺到し―――――


「「『我と我が名と我がしるべ 誓いによりてわれ守る 堅牢なる水楯すいじゅん いざここに!』」「『アクア・シールド!』」


「なにッ!?ごあッ!!」


 フォルネウスが呪文を唱えると水の膜のようなものが虚空に出現し、俺の放った魔法弾がそれにぶつかって消える。

 それに驚いている間に巨剣の横薙の斬撃を喰らう。咄嗟に盾にした剣が瞬時に両断された。それで軽減されたのか、浅く傷が刻まれただけで済む。


 さっきのあれは・・防御用の呪文か!!


「くくく・・。ここは海が近い。水属性の魔法は強化される。そんな無属性の魔法弾なんぞシールドがあれば消すのは容易たやすいわ!」


 しまった・・。フィールド効果みたいなものがあるのか。俺の読んだ魔法関連の書籍にはそんなことは書いてなかったから見落としていた。

 だが別段、困るわけではない。

 水属性が強化されるというなら反対の属性で、その防御力を突破するだけの物に切り替えるだけだ。


 この世界では魔法に属性がある。

 基本の無属性、ポピュラーなのはこれに火、水、風、土の4属性を足した5属性だ。あまり多くはないが光と闇の魔法もある。

 この属性、まるでゲームのように相克関係がある。

 火は水に、水は土に、土は風に、風は火に強い。

 闇は4属に強く、光に弱い。

 光は闇に強く、4属に弱い。

 無属性はこのどれにも当てはまらない。


 フォルネウスが俺の無属性の魔法弾を防げたのは、水の力が強くなるこのフィールドの力を借りているからなのだろう。



 以前に作ったレーザーの魔法弾を刻んだ弾倉パックを取り出す。

 外せるようにしておいた弾倉ごと入れ替えてはめ直し、再び構えた。


 △セット:フレイム・レーザー△


「何をするつもりか知らんが、そのまま死ぬがいいッ!」


「たかだか一回防いだだけで随分偉そうだなッ!」


 こちらに突進しながら再び詠唱を開始するフォルネウス。

 その体に照準を付けて引き金を引く。


「『アクア・シールド!!』」


「二度も同じ手が通じるかッ!!」


 ヒュウン――――

 風を切るかのような鋭く、そしてどこか透明な響きが一瞬辺りに鳴る。

 そして――――


「があッ!?馬鹿な・・ッ!?」


 その一瞬でフォルネウスの右手に穴が開いていた。

 水の膜には穴が空き、少しだけ震えると地面に落ちて音をたてる。


「くそッ!まさか炎の魔法まで・・!だがそれならばッ!『ウインド・シールド』!」


「無駄だッ!!」


 俺は『フライクーゲル』の引き金・・ではなく、その下にあるもうひとつのレバーを引いた。

 今の今まで使う機会はなかったが、こんな時のために属性を自由に変えられる機構を。


 通常の拳銃ならば、一発撃つごとに弾倉が回転して次弾の装填とする。

 だが俺の『フライクーゲル』は実弾ではない魔法。装填は必要なく、一発放てばもう一度魔力を入れれば発動する。

 極端なことを言えば拳銃部分に装填することなく、銃弾を手に持った状態で魔力を通わせれば事足りる。

 それでもこうして輪胴弾倉を採用した拳銃に込めているのはこうして属性の交換を用意にするためだ。


 内部の機構に従って弾倉が回転する。薬莢部分の尻に刻んだ属性を示すマークが『土』になったところで再び、引き金を引いた。


 △セット:ラウンド・レーザー△


 『土』の黄色い色味を帯びた閃光が、一直線にフォルネウスに伸びる。薄く張ってあった緑色の遮蔽物は閃光の前にあっけなく貫かれる。


「ぐあああああああああッ!?」


 その左足に穴があくに至ってようやく己の失策に気づいたようだ。こいつなら最初から回避するつもりで動いていれば被弾しないで済んだかもしれない。

 まあ今更遅いんだが。




「なんなんだその古代遺物アーティファクトは!?属性を瞬時に切り替えられる!?そんな馬鹿なことがあるはずない!!威力こそ個人の範疇だが、その技術は国宝クラスだぞ!?」


「へえ。こんなもんで国宝か。随分安いもんだな。」


「貴様・・ッ!それほどの武力と財力がありながら、何故この国の、いや、世界のために尽くそうとしないッ!?」


 フォルネウスは顔を歪ませて俺に向かって吼えた。怒りの感情と共にあたりに魔力が撒き散らされる。

 ・・・今度は本当にそう思っているらしい。


 よくわからん理屈だが・・・。俺の『フライクーゲル』をどっかで買ったものだと思っているのか?

 しっかし世界のために尽くせ、ってテロリストだかスパイだか知らんがこいつが広げるにはでかい風呂敷だな。


「別に俺はこの国に義理なんてない。政治が腐ってようが関係ないね。というかお前スパイなんぞに世界のために尽くせ、って言われてもな。」


「確かに私はこの国の者ではない!だが私もスラム出身だった!お前たちが見てきたような、死が身近にある場所で生まれた!あの場所ではいくら頑張っても生活は改善しない!もっと上の所から仕組み自体を変えなくてはいけなかったんだ!だから私は・・・!」


「汚れ仕事をして、金と権力を貯めている、って?」


 俺の質問にコクりと頷く。

 こいつから見ればなんでもできる力と金を持っているくせに、何も持っていない自分たちの邪魔をするのが許せない、ということか。しかも仕組みを変える途中。

 ・・・八つ当たりみたいなもんじゃねえか?

 こいつがいくら頑張ったところでスラムは減らない。こいつがやろうとしていることは逆に国を弱体化させスラムを大きくする行為だ。

 国が違うとはいえスラムに暮らす民を心配し、そのために他国のスラムを大きくする行為に手を貸す。どう考えても整合性が取れていない。

 なにかおかしい・・・・。


「お前のような貴族にはわかるまい。たかが明日のパンのために手を汚す子供がいるというのに、笑いながら民へと流れる金を持っていくお前らには・・・!」


 ―――なんか俺関係なくね?内容的には横領の事のようだが・・・・。


 よく見るとフォルネウスの様子がおかしい。しゃべっている内容も支離滅裂だし、瞳もうつろだ。

 まるで――――さっきのレオのようだ。

 こいつはまさか・・・・。


「―――――もういいわ。やりなさい!」


「なにぃッ!?」


 その言葉と共に俺の背後、森の方から濃密な魔力が溢れ出る。

 振り返った先には身の丈を超える大きさの巨大な魔法弾。

 ―――――ツガイ魔法か!?


 そう思うと同時にフォルネウスごと弾き飛ばされていた。

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