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三下

 レオに勝ったことで解放される20人は縄を切った状態で広場の隅に移動させた。

 貴族中心で解放したため、さすがに魔物がうろつく森の中を通って帰らせる訳にはいかず、一定数揃ったら冒険者を開放して逃がす予定だ。


 憎々しげな表情を浮かべるミゼルとフォルネウス。

 自分の手駒が負けたわけではないとはいえ、損失が出ているから悔しいのか?

 いいね。実に爽快だ。

 だがまだ足りない。


 次に指名されたのは小剣を携えた小柄な男。その瞳は散々自分たちをこき下ろした俺を痛めつけられるからか、嗜虐の期待に染まっている。


「へっへっへぇ。今のうちに命乞いでもしておくんだなぁ。ま、聞きはしねぇがな。」


「典型的な三下のセリフ言ってる自覚ある?戯言ほざいてないでかかってこいよ。」


 俺の挑発に乗った三下は奇声を張り上げなら突っ込んできた。

 強化した踏み込みで懐の内に入り、剣を振り上げて隙だらけになった脇腹に肘鉄を叩き込む。

 ただそれだけで男は吹っ飛び地面に倒れ込んだまま動かなくなる。

 あんまり強くないらしいな。これなら一斉に掛かられても問題ない。


「おいおい・・・!さっきもそうだったがなんだあの力・・・。大の大人が吹っ飛んだぞ!」


「あんなガキ相手に何やってやがる!」


「だがあの踏み込みの速さ。対応しきれないぞ!?」


 いきり立っているテロリストにはっきりと侮蔑を込めて挑発してみるか。正直、このままチンタラやってんのは性に合わない。


「面倒だから全員でかかって来てくんない?テロなんかやってる連中は暇なんだろうけど、こっちはアリを相手にしてられるほど暇じゃないんでね。」


「なんだと!?」


「ナメやがって・・・!」


 その場にいた20人ほどの人員の内、約半数が俺に向かって走りかかってくる。

 全員は無理か。まあそこまで上手くいくとは思ってなかったからいいが。



 最も先頭にいた男が突き出す刺突用の剣をサイドステップで躱す。

 その横から駆けてきた者が放った湾曲した剣の一撃をしゃがんで避ける。その間に先ほど突撃してきた男は後方へと跳び下がっていた。

 先に目の前の剣の男を倒そうとするが、その背後から飛んできた矢に阻まれる。


 ちッ!連携がうざいな。

 こちらが武器を持っていないから受けたあとで倒すのも難しい。回避してから反撃に移るまでのタイムラグで割り込まれる。

 地道に一人ずつ各個撃破してればよかった、とは思わない。その間に何かしらの策を打たれるのが面倒だ。


「『我と我が名と我がしるべ 誓いによりて敵を断つ 破敵のつるぎ いざここに』」「『ソード・クラフト』」


 とりあえず隙を見て魔法で剣を精製する。直後に斬りかかってきた湾刀の一撃を受け止めた。


「おいアレ、戦闘用の魔法だろ!?なんであのくらいの歳の、しかも男のガキが使ってんだよ!?」


「さっきの回避といい、今回の魔法といい、普通の子供じゃない!」


 外野の言葉を無視して相手のみぞおちを蹴り上げた。

 げうッ!と短くうめいてその場に崩れ落ちる男。

 その影から先ほどの刺突剣フルーレの男と、三日月斧クレッセントアックスを構えた男が走ってくる。斧は1メートルほどの長さで先端に弓なりの斧刃がついている。見るからに重そうで、持ってるやつも2メートル以上ある。

 さすがにあんな重量級の一撃ものを食らうとマズい。



 咄嗟に足元にあったを掴んでそいつらに放り投げる。


「おらあああああッ!人間手裏剣・・・・・だあああああああッ!」


「ひいいいいいいいいいいッ!?」


「う、うおおおおおッ!?」


「なあああああああああああッ!?」


 投げられた男、目標の男たち。

 三人分の悲鳴がして、地鳴りを響かせて倒れこむ。


「め、滅茶苦茶だ・・・!」


「おい!そいつスキル所持者だ!気をつけろ!」


 走り込んできた後続に声がかかるが今更遅い。

 拾った三日月斧をそのまま先ほどの要領で投げつける。

 高速で横回転しながら迫る斧に度肝を抜かれる槍の男と短剣の男。

 比較的重い槍の方はそのまま食らって吹っ飛ばされていたが、短剣の方はしゃがんで避けた。

 

 その顔面目掛けて剣を振る。

 短剣持ちの男はその剣で防ごうと思ったようだが、短剣ごと・・・・あっさり切り裂かれた。


「そんな馬鹿な!?」


「ヘタレのアイツがなんであんなに強いんだ!?」


「すごい・・・あんなに小さいのに・・・!」


 ついに学校側の方からも悲鳴が聞こえ始めた。

 ちなみに武器ごと切るなんてことができたのは、精製した剣の切れ味と俺の力技のおかげだ。技術を上げればそんな要素が無くても切れるようになるだろう。

 俺の剣術は【剣豪の系譜】の武術習得補正(小)のおかげで普通に剣を学ぶよりも成長の伸びが良く、盗賊や三下相手なら問題なく勝てるまで成長していた。




「流石にこれなら避けれまい!『魔法弾バレット!!』


 残った奴らが一斉に攻撃してきた。正面から矢が、横から魔法がそれぞれ俺に向かって殺到する。

 弓矢はともかく魔法が厄介だな。弾速が速く、数が多い。貫通性がないのが救いか。


「『ダガー・クラフト』!」


 片手にいくつもの短刀ダガーを精製し、魔法弾の射線上・・・にばらまく。

 ガガガガガガガガガガッ!

 咄嗟に展開した間に合せの防壁ダガーに魔法弾が炸裂し――――俺に触れることなく消滅していった。


「なにッ!?」


 驚く魔法使いをよそに、アーチャーに高速で接近した。最初に放たれた矢は既に叩き落としてある。

 接近するまでに何本か放たれた矢はかすることもなく地面に刺さる。

 守ってくれる前衛がいなくなった残りの連中を倒すまでそれほどの時間は必要なかった。






「案外大したことないな。さて、お次は誰から死ぬ?」


 挑んだ奴らが倒されて流石に俺が普通じゃないことに気がついたんだろう。テロリストどもは青くなっている。

 残った人質は残り50人ほど。あと5人は倒さなくていけない。とはいえこれ以上減らしたら普通に突破できる人数しか残らない。それを向こうもわかっているはずだ。

 何かを仕掛けてくるとしたら―――――今。


「―――――私が行こう。」


「フォルネウス!?」


 傷顔リーダーの男が前に出る。ミゼルは驚いているようだが、他のメンバーの表情が安心に変わっていくのを見ると何かしら手はあるのだろう。


「もはや猶予はない。時間も・・・人も・・・!このまま無為に被害が出れば作戦どころか撤退もままならん。ならば私が出てせめて散っていった仲間の仇を取ろう!」


 フォルネウスの体から威圧感のあるなにかが放たれる。

 コイツの眼前から消えなければ、命が無いと思えるほどの気配。

 ・・・これが殺気、というものか・・。


 フォルネウスは背中に吊ってあった獲物に手を伸ばす。

 ――――途端に殺気がさらに増した。

 知らず背中に冷や汗が浮かぶ。

 相手の武器は2メートルを確実に超える大剣だった。剣身、鍔、柄。その全てが通常のそれよりかなり大きくできている。

 ただでさえ大柄なフォルネウスがそれを持つと、眼前に壁が現れたような圧迫感を放つ。


「『ツーハンデッドソード』、ってヤツか。こりゃあ、ちょっと厳しいかもな・・・。」


 いつの間にか滲んだ汗を拭いながら俺は激闘への一歩を踏み出した。

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