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「あ〜そこそこ。――――わふッ!あ、ちょっとそこキク〜!」


「――――なにやってんのよあんたら。」


「見ての通りマッサージだが?」


 宿の食堂でヴィゼの肩もみをしていると呆れたようなエミリアの声がした。

 今は昼過ぎのちょうど人がいなくなる時間だった。俗に言うアイドルタイムってヤツ。まばらに居るが客は話し合いに興じていて注文をとるやつはいないらしい。

 俺がメシを食いに来るとヤケに疲れた様子のヴィゼがいたのでマッサージを申し出た。一応、俺が紹介したところだからな。こいつらには長く働いてもらわないと、俺のメンツが潰れる。


「だからってお客さんいるとこで肩紐外すなッ!」


「ぶふッ!?」


 エミリアのパンチによって俺の顔が潰された。(物理的に)

 とはいえ、仕方ないことだ。どうにも着ている服が野暮ったくて、揉みにくいのでちょっとくつろげてもらったわけだ。

 肩紐は下着のことだろう。


「あー。あたし着けてないんだよねー。あー。ユージーンもうちょい下。」


「あいよ。」


「さらっと衝撃発言しないでよ・・。今度から着けること!あの時買ってあげたでしょう!」


「俺の金でな。」


 あんな布切れなのに値段が馬鹿にならなくて驚いたものだ。おかげで少々財布事情が寂しくなっているが野暮なことは言わないでおこう。


「だからこうしてサービスしているんじゃない。ほらどう?美少女のナ・マ・ハ・ダ?」


「ふむ。チャルナ、ゴー。」


「――――あむッ。もむもむ。じゅるるるるる!」


「いひゃひゃひゃひゃ!ちゃ、チャルちゃん!吸いながらなめちゃ、あははははは!くすぐったい!」


「そのセリフはせめて後十年経ってから言うんだな。」


「アンタ、本当は年いくつなのよ・・・。」


 俺が揉んでいたスペースに、横で大人しくしていたチャルナが噛み付く、いや、舐めてるのか?

 楽しそうなのでなによりだ。


「おお!美少女の絡み!」「いやーいいもん見れたわー!」「少し前から面白くなってきたよなこの宿。」


 向こうの冒険者のパーティが眩しそうにこちらを見ている。

 段々、宿泊客の野郎率が上昇していたがもしかして本当にこれ目当てなのか?というかショーを見てる気分みたいだな。




 しばらくするとフィルシアに呼ばれて厨房の手伝いに戻って行った。

 俺も席を立とうとすると、先ほどの騒いでいた3人パーティが俺に向かって手招きしていた。何の用だろうか?


「何の用だ?」


「いや、お前さん、あの子らと仲いいみたいだからさ。ちょっと話聞きたくてな。」


「そうそう。特にあのエミリアさんの話とか!」


「お前ドMかよ。俺はあのヴィゼって子だな。あの元気さがたまらん。」


「お、俺は女将ケシーさん・・・。」


「「お前ッ!?」」


 ・・・どうにもテンションが学生っぽいというかなんというか・・。

 冒険者は荒っぽい、という評判だが、このテンションであっちこっちで騒ぎを起こしたらその評価も当然な気がする。

 さて、話といっても何を話せばいいのやら・・。


「待て待てお前ら!なぜ可憐なフィルシアちゃんが入ってないのだ!?」


「そうだ!大体元気と言ったらチャルナちゃんだろうが!」


 あああああ・・・。他のテーブルの冒険者も集まってきた。

 なんなの?冒険者って暇なの?実はモンスター追っかけてるんじゃなくて女のケツ追っかけてんの?

 それぞれ手に飲み物を持っているところから長期戦の構えだというのが伺える。

 面倒事に巻き込まれた気がする・・。というかこいつらどんだけロリコンが多いんだろうか。エミリアや母親のケシーならまだしも他はまだ10歳くらいだぞ?


「わかっとらんな!あの元気っ子達が組んでこそ魅力が増すんだろうが!」


「いや、ヴィゼちゃんとフィルシアちゃんを組ませた時の双方の過保護っぷりも捨てがたい!」


「なんだお前ら揃いも揃って!みんな子どもじゃないか!あの胸を見ろ!他にあんなの見たことあるか!?」


「お、女将さん。」


「「「「お前は黙ってろ!」」」」


 ああ、なんというかしょうもない会話だ。

 でもなんとなく地球のオタク仲間を思い出す。あいつらもアニメキャラがどうとかでよく議論していたなぁ。

 懐かしい気持ちになって議論の様子を眺めて居ると冒険者の一人がこちらに気づいた。


「坊主はどう思う?」


「おお、そういえば呼んでおいてすっかり忘れていたぜ!」


「すまんすまん。で、どうなんだ坊主?」


「だーれが好きなんだよ?バラさんからオジさんたちにこっそり教えてみな?」


 何故か矛先がこっちに向かって来た。そんなしょうもないことを聞くために呼ばれたのか?

 あいつらをどう思っているか、か。

 しばらく天井に視線を向けて、そして思ったことを言ってやる。




「とりあえず後ろの親父さんディランから逃げた方がいいと思うが。」




「「「「「ッ!?」」」」」


「はっはっは。うちの娘と家内がどうしたって?」


 いつの間にか後ろに気配を消して忍び寄っていた仕事人ディランの目が、いつも温和そうに細められていた目が、かっ!と赤光を放ちそうな感じで見開かれていた。

 その手には大工道具。まさかこの場面で日曜大工に精を出すと思っているバカはいないだろう。

 錐やトンカチ、釘なんかを持った手をクロスさせながら低く笑い声を上げているその姿は、まるで戦場の拷問吏のようであった。


「ひぃッ!?オヤジの目が開いた!?」


「ヤベェ!逃げろ!」


「はっはっは。逃すと思うのかね?」


「「「「「ヒィィィィィ!?」」」」」


 いつものゴロゴロしている姿が嘘のような機敏な動作で走り出す親父さんに冒険者が悲鳴を上げる。

 壁や天井を跳ね回りながら、少しずつ行き止まりの方に追い立てて行く。

 ・・・いったい何者なんだあのオッサン。





 やがて夕飯の時間になって食堂に行ってみると、隅の方にズタボロになった何かが打ち捨てられていたが・・・気にしないでおこう。


 昼のことで他の冒険者もなにかしら変なこだわりでもあるのかと、聞き耳を立てていたが、特にそういう会話は聞き取れなかった。

 代わりに妙な噂が流れていたのでそれに興味を惹かれた。


 ひとつは最近、貴族街のほうで動きがある、ということに端を発した議論から聞いたもので、どうにもきな臭い連中が裏で動いているらしい。

 貴族の子供が誘拐されかけたり、どこぞの教会が襲撃されたり。(貴族街らしいから、南街の広場の件とは関係ないようだ。)


 次は『英雄召喚』というものが近々全ての大陸の国の長が集まる場で行われるらしい、ということ。

 噂の内容がイマイチ理解できないのは、『英雄召喚』について知らないことに起因していた。今度調べておこう。


 後は南街のスラムがここ数年で拡大したことだろうか。

 どうやら王族が予算削減やらなんやらを実行してその分を軍備に回したらしく、大量の失業者がでているとか。それで支持基盤が揺らいで不満が出ているようだ。


 後は、ギルドに最近出入りしている小柄なエルフの新入りの話になっていた。まあ俺なのだが。

 なんでも大量の素材を持ち込んでいるので、目をつけた無法者がいたらしいが逆にケツの毛まで毟られて馬車で引きずり回された上で殺されたされた、ということになっているらしい。そのため今でも死んだ無法者どもの声が北の街道に響くとか。・・・・なんで怪談話になってんだ。

 色々な噂がごちゃ混ぜになっていたが、今のところ、正体がバレてるわけではないらしいな。


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