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初めての休日

 チャルナの発情騒ぎから5日。

 チャルナはヴィゼから分けてもらった薬で沈静化した。これからも不定期でアレ・・が来ると思うと心配なのだが対処の仕方もわかったので大丈夫・・・だと思いたい。


 今日は学校が休みなので狩りに行こうとしたらフィルシアから最近働き詰めなので休むように言われた。ちなみに俺が冒険者であることは話していない。ちょっと遊びに行くというようなスタンスで誤魔化している。

 依頼クエストに行く際には俺はローブ、チャルナには顔の半分を隠す布を身につけることを徹底している。バレるとまずいからな。


 思えば学校だの冒険者だのとずっと駆けずり回っていた気がする。スキルの身体機能上昇(中)でスタミナもアップしているようなので特に苦もなく動けていたのだが、ちょうどいい機会なのでリフレッシュしよう。効率的に動くには適度な休憩も必要だ。



 休みの有効活用、といえば定番なのはやっぱり二度寝だ。

 異論・反論は認める。

 ・・・起きたらな。今は眠っていたい。

 今日は朝稽古もサボってずっとベットの中にいた。


「うにゃー。すぴー・・・。」


 横でチャルナが眠っているが今は色気の欠片もない。

 口を半開きにしてパタパタと手を動かしている。多分夢の中で何かの獲物を捕まえようとしているようだ。こいつらしいというかなんというか。

 というか俺の腕に噛み付いてきやがった。寝ぼけ半分だからか痛くない。


「にゃうー。ラティー・・・。おいひぃ・・・。」


 獲物はラティだった。そして美味しいのか。

 などと突っ込んだりはしない。心地よい微睡みに浸っていたい。

 今は半覚醒状態、というか多分現実なんだけど現実感を失ってフワフワしている。夢と現実を行ったり来たり。なんとも心地いい。


「ユージーンさーん。そろそろ起きて下さいよう・・・。どうしよう。休んだら、って言ったけどこんなに寝ているなんて。」


 フィルシアが起こしに来たようだ。聞こえてはいるが起きたくないなぁ・・。

 それから何度か俺に声をかけていたがまったく反応しないので実力行使にでるようだ。体がゆさゆさと揺さぶられている。

 んー。嫌だ。まだ起きたくない。

 毛布を頭から被って鉄壁の守りを築くと呆れたような、困ったような声が降ってきた。


「ああ・・。亀さんになっちゃいました・・。しょうがないですねぇ。寝顔は結構可愛かったんですけど。―――んしょっと。ほら、起ーきーてーくーだーさーいーッ!」


 毛布を引っ剥がそうと力が加わる。

 このあったかフィールドを破壊しようというなら俺も容赦しない。

 手を出して毛布を掴む腕を掴み、毛布の中こっちに引き入れた。


「きゃあッ!?あ、あのあの!ゆゆゆユージーンさん!?あ、ダメです!離して下さいー!」


 むぅ。まだ暴れるようだ。

 手足全てを使って抱きついて・・・・・押さえ込む。

 お、結構あったかくて気持ちいい。ふにふにしていて抱きやすいなぁ。


「あ、あ、ダメです・・!こんな近づいたら・・。こ、興奮しちゃいますよぅ・・。ハァ・・ハァ・・。ご主人様ぁ・・!」


 ん?なんか急に温度が増したような・・。あったかくなったはずなのに寒気がするような・・。

 まぁ抵抗がなくなったので良しとしよう。




 それからしばらくして。


「ちょっといつまで寝てるのー?・・あり?おっかしいな。フィーが起こしに来たはずなんだけどいないや。」


 今度はヴィゼか。よくもまぁ次から次に邪魔が入るな。


「ありゃりゃ。チャルちゃん枕かじってるよ。ほら、ダメだよー。」


「うにゃー・・。んま・・。」


「これ洗って取れるかな・・。さて、ユージーン。起きてー。」


 俺は抱き枕・・・を抱えていたのであっさりと毛布が取られる。

 ああ・・・。俺のあったかフィールドが・・・。

 寒くなったので抱き枕・・・にくっついて暖かさを補充していると驚いたような声が上がる。


「んなッ!?なんでフィーが布団の中に!?というか鼻血がッ!鼻血がヤバイって!ユージーン!それ枕じゃない!――離れないッ!?どんな力で抱きついてんの!?」


「うふふ・・。ご主人様ぁー・・。」


「アンタも抵抗しなさい!無駄にいい笑顔してんじゃないッ!――――もうダメだエミリアさん呼んでこないと!」


 バタバタとやかましいやつだ。

 俺は欠伸をひとつすると夢の中に沈み込んでいった。





「あいたた・・。何もフライパンで叩く必要ないだろ。」


「うっさい!嫁入り前の女の子と同衾していただけで有罪よ!」


 ひどいやつだ。

 まったく。せっかくの休日の目覚めが鈍痛で始まるとは・・。

 首筋が鼻血でスプラッタなことになっていたので殴打された頭も冷やすついでに井戸の水で洗い流していた。

 冷たい井戸水が心地いい。

 しかしなんでフィルシアが俺の布団に居たんだか。


「向こうは落ち着いたか?」


「まだ鼻血が出てたけど、もうじき治まるでしょう。」


「そうか・・。『ベットの上で血が出る』っていうシチュエーションなのにこんなに色気無い状況は初めてだ。」


「あっちは刺激が強かったみたいだけどね。・・・・。え!?ちょっと待って!『色気のある状況』の方は経験あるの!?」


「・・・ふッ。」


 あえてニヒルに笑ってみせる。あるといっても発情したチャルナに噛み付かれたときくらいだが。

 エミリアはみるみる内に顔を赤くしていく。こいつはこいつでからかい甲斐がある。

 主に色事関係だがこんなんで冒険者の相手とか大丈夫なのか?


「あ、あんた子供のくせに・・・!」


「いや、ある意味大人だ。」


 精神の年齢はとっくに28歳だ。思考は最近子供じみてきたがな。

 俺の言葉をどうとったのか、さらに顔を赤く染めるエミリア。そして・・・。


「ふ、不潔ッ!」


「―――ぐあッ!?」


 井戸の釣瓶つるべを思い切り頭にぶつけられた。

 さっきのフライパンの場所にクリティカルしてその場で悶絶。

 アイツはからかい過ぎると暴走するなぁ。

 というか俺、スキルとかレベルアップ(仮)とかで防御力上がっているはずなのに、なんであいつの攻撃はこうまでキク・・んだか。




 休み、といっても学生の頃は寝てるか友人と出かけていたか、だったからな。こっちで何をして休んだらいいんだか。

 散々迷った挙句、日頃できない事を試そう、ということになった。

 せっかくなのでヴィゼを連れ出して『ツガイ』の魔法を試そうと思っている。宿の中庭いつもはシーツなんかが干してある所に連れ出す。


「んで、なーにユージーン?試したいことって。」


「ああ、ちょっと聞きたいんだが、あー・・。そうだな。お前はどんなことをされたら嬉しくなる?」


「・・・・え?」


 少し聞き方を迷ったが、以前にチャルナに聞いた時と同じ言葉を使った。

 ・・ん?なんでヴィゼは頬を赤くして困ったような顔をしているんだ?


「そ、それってどういう意味・・?」


「ああ?そのままの意味だが?」


 よくわからない事をいうやつだ。というかこいつ自分でサバサバ系女子みたいな事を言ってるくせに偶に照れたような顔をするよな。

 目の前のヴィゼを見ながらそう思っていると、余計に顔を赤くする。


「そんな真剣に見つめて、そういう事を言うってことは・・・・。」


「どうした?」


「な、なななんでもないよ?え、えとそうだ!頭と背中撫でて欲しい!」


「・・・?よくわからん注文だな。いいのかそんなんで。」


 コクコクと頷いているようだしそれでいいらしい。

 頭はわからなくないが・・・背中って。おじいちゃんか。こういう時、女子はなんかのアクセサリーでも欲しがるかと思っていたが、違うのか?


 それでいいなら実行するまでだ。頭と背中を同時・・に撫でるには・・・こうか。

 ヴィゼを腕の中に包み込むようにして背中に手を伸ばす。


「ひゃん!?」


 何故か腕の中のヴィゼから悲鳴が上がるが気にしない。こいつが望んだことだし、文句はないだろう。

 そのまま頭に手を伸ばして後頭部の辺りを撫でつつ、背中も撫でる。

 ・・・・なんか地球むこうで妹をあやした時を思い出すなぁ。


「わふぅ!?ちちち近い、近いよぅ・・・。ひぅ!」


 お?犬耳が引っかかるな。そういえばこれも異世界っぽさの象徴だよな。

 今まで特に気にしてなかったが、気になる。俺も元オタクだしな。

 どうなってんだこれ?んー・・。耳のとこに生えてる毛は髪の毛とも少し違うな。短いし、髪質も柔らかい。


「んあッ!?ちょ、ちょっとユージーン?くすぐったいよ・・。はぅん!?こ、このまましちゃうの?いくら恩人でもそんな・・。」


 チャルナの猫耳は薄い、というかあれは皮膚だけみたいな感じだしな。ヴィゼの犬耳はもう少し厚みがある。

 髪の毛の生え際とかも人とは微妙に異なっているようだ。そういえば人の耳があるところはどうなっているんだ?


「あ、あ、あッ!そこ・・・ダメぇ・・。あぅ・・ぃぃ匂い・・。はッ!?ダメダメダメ!しっかりしなきゃ!ええと、羊が1匹!羊が2匹!」


 ・・・・急に羊を数えだした。あやすように撫でてたから眠くなったのか?

 俺も少し別のことに意識を持ってかれていたから人のことは言えないか。


 当初の目的通り、『ツガイ』の魔法を試してみる。

 魔法陣を構築し、ヴィゼから漏れ出ているであろう魔力を絡め取って注ぎ込もうとして。

 ――――ため息をついた。


「ひゃうん!?」


「あ、すまん。」


 ため息がヴィゼにかかってしまい、くすぐったそうに身悶えていた。

 謝りつつも体を離す。ヴィゼは顔を赤くしながらこちらを不思議そうに見ていた。

 先ほどの行為で十分に感情を揺り動かしたと思ったが、魔力は発生していなかった。

 つまり――――


「・・・ヴィゼ。もしかして獣人は魔力がないのか?」


「え?う、うんそうだけど。――――あ!もしかしてそれを試していたの!?」


「ああ。・・・言ってなかったか?」


「聞いてないよ!もう!もう!!変な勘違いしちゃったじゃない!」


 何故かひどくヴィゼは怒っている。・・・そんなにまずかったか?

 しかし、そうか。魔力が元々なかったのか。チャルナの時も試したが、アイツは『変化の輝石』を使っているだけに普通とは違うからこうして試してみた。


 話を聞くと、獣人は魔力がない代わりに非常に高い身体能力を持っているらしい。

 仮説だが、魔力になって外に放出されない分、生命力として器の中に留まっているんだと思う。器、つまり肉体なのでそれにより身体能力が普通の人より強いはずだ。


「アホー!ユージーンのアホたれー!!」


「ひどい言われようだな。そんなに不快だったか?」


「ふ、不快じゃなかったけどさ・・。むしろ気持ち・・よかった・・けど!だ、だからこそダメなの!ユージーンのアホー!!」


 なんじゃそりゃ。

 よくわからない理由でポカポカと叩いてくるヴィゼを連れて宿の中に戻る。

 外は少し肌寒かったが、ヴィゼを抱いていたところだけがほのかに暖かかった。

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