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犬とウサギと猫とネズミ

 呼吸困難寸前まで笑い転げた俺は獣人2人に連れられて広場の外まで連れ出された。ぜぇぜぇ言いながら息を整えている俺の前に2人が揃って自己紹介をし始める。


「一応助けてもらったんだからお礼を言わせて。あたしはヴィゼ。犬の獣人・・・だったんだけどね。あんたあたしに何したの?」


「ヴィゼちゃん。お礼言ってないよ・・。あの・・!本当にありがとうございました。私はフィルシアです。助けていただいてホントに感謝しています。」


「ん?いや、俺は助けた覚えはないぞ?」


「わう?」


「ふえ?」


 ようやく息が整った俺は顔を上げて2人を見た。

 さっきはあんな状況だったせいで観察する暇がなかったがこうして見ると薄汚れているものの、2人とも整った顔立ちをしている。

 歳は・・・チャルナ(人化)と同じくらい、要するに俺よりも少し上の8歳か9歳くらいだろう。

 犬娘・・・ヴィゼは茶色の髪をボロい布切れでポニーテールにしているせいか活発な印象がある。瞳は大きくパッチリと開かれていて好奇心旺盛なのをうかがわせる。今は尖った三角の耳が無いせいで普通の人間のようだ。

 ウサギ娘・・・フィルシアは薄い桃色の髪を三つ編みにしている大人しい、というか臆病な印象の子だ。タレ目でビクビクしている姿がいかにもウサギ、って感じ。目も赤いしな。

 ヴィゼは活発。フィルシアは臆病。見事に『動』と『静』で印象が別れたな。


 そのどちらも訝しげな顔をしているので俺は先程の発言の意図を説明してやる。


「別に俺は助けようとしていたわけじゃない。司祭アイツが気に食わないからおちょくってやろうとしただけだ。んでお前らはそこにたまたま・・・・居ただけ。」


「そ、そんな理由!?もっとこう・・一目ぼれした、とかないの!?」


「いや、別に。」


「くう〜ッ!なんでもないように返されると腹立つね。もう少し夢見させてくれてもいいじゃん!」


「ヴィ、ヴィゼちゃん・・・。」


 地団駄踏みそうなくらい悔しがるヴィゼ。まあ本気では無いようですぐに立ち直ってきたが。

 ――――っとと。そうだ。忘れるところだった。


「ヴィゼ。ちょっと動くな。」


「わう?こう?」


「そうだ。そのまま。」


 そのまま無造作にボロボロの服のポケットに手を突っ込む・・・・・・


「わふ!?ちょ、ちょっと何してんの!?ひゃあん!?あ、ちょ、そこダメぇ・・・ッ!」


「いいから動くな。――――よし。これだ。」


 演技の際に仕込んだ『変化の輝石』を取り出す。チャルナやラティに試した時にブカブカでも効果があるのを確認していたので、おそらくこいつは身につける必要はないと思っていた。持ってさえいれば効果は発揮される。

 この輝石の効果は、獣を獣人に、そして獣人を人に・・・・・する効果がある。さっきの実験はうまくいったようだ。


 ボウンッ!


 薄い白煙が上がり、今まで消えていた犬耳と尻尾がヴィゼの頭に出現する。


「わふぅ!?なになにどうなってんの!?」


「わぁ!ヴィゼちゃんのお耳が元に戻りましたぁ!」


「え?ほ、ホント?お、おぉ〜〜!あたしの耳だぁ!」


 驚くフィルシアの声で自分の頭をまさぐり、犬耳が戻っているのを確認するヴィゼ。

 ひとしきり触ってから不思議そうに俺の手の中の輝石を見つめる。


「あり?あたしそんなの持ってたっけ?というかソレ取ったら元に戻ったよね?って事は・・。」


「え?え?ど、どういうことですか・・?」


 ヴィゼは気づいたようだな。

 ちょうどいいから先程から暇そうにしていたチャルナを抱えて輝石をかける。なんとなくオモチャを見せびらかして優越感に浸っている時を思い出した。


「そうだ。あの騒ぎの時に俺が仕込んだ。コイツの効果は人間以外を人化させること。――――こんな風にな。」


 ボウンッ


「うにゃー。」


「――ちょッ!?服!服着てない!?」


「きゃあッ!?み、見ちゃダメですーー!」


 フィルシアの声と共に目隠しされて視界が真っ暗になる。

 ・・・おかしいな。ちょっとドヤ顔でキメたはずなのになんでこんなコントみたいなことになってんだ。




 チャルナには荷物にまとめた俺のシャツを着せてようやく落ち着いた。今は路地にある木箱を引っ張ってきてそこに座っている。

 そういえばこいつらはなんであの広場にいたんだろうな。親がいるわけでもなく2人で寄り添うようにしていたのが気になったので聞いてみる。

 すると少し気まずそうに口を開いた。


「あー。あたしたち、そのぉ、・・奴隷なんだよね。んで前のご主人がうっかり死んじゃったもんで・・・。」


「その、収入がなくて困っていたんです・・。新しいご主人様を探していたんですがお金もなくなってしまって・・。」


「んでこの南街に流れてきた、と。」


 コクリと頷く2人を見て納得した。

 以前の主人が死んで、この2人の所有者は居なくなったが奴隷から開放されたわけではないのでそのまま奴隷だったんだろう。普通なら奴隷は所有者の持ち物扱いなので、遺品として売却されるか相続されるかするはずなのだが、話を聞くと主人が身寄りがない奴だったらしいのでそのまま放置されたようだ。


 そんなことを考えていたらフィルシアが顔を赤くしてモジモジしながら口を開いた。


「あの、それでさっきも言ったように新しいご主人様を探しているんですが・・・。その、私たちのご主人様になってくれませんかッ!?」


「フィー!?あんたなに言ってんの!?こんな極悪面のやつにそんなこと言っちゃダメだよ!」


 突飛なことを言い出したフィルシアにヴィゼが驚く。先程までの臆病さはどこに行ったのか、顔を赤くしたままこちらを見ているフィルシア。

 残念ながらそんな余裕はない。寮に入るつもりだったのが宿に逗留しているせいで金は余計にかかっているんだ。誰かを雇うほど金は多くなかった。

 しかし・・・ご主人様、か。心躍るワードだよな。ダリアの屋敷にいた時は坊ちゃんだったし、チャルナはマスターだし、新鮮だ。惜しむらくは奴隷じゃなくメイドさんに言って欲しかった。

 考え事に没頭している俺がどう映ったのか、フィルシアがさらにアピールをしてくる。


「助けてくれたお礼になんでもします!その、体を求められても応えますから!滅茶苦茶にされても大丈夫ですから!」


「あの、ちょっとフィー?なんか様子が・・・。」


 確かにちょっと目がトロンとして息が荒くなっているような・・。先ほどまで草食系動物だと思っていたフィルシアが急に肉食動物になったような気がする。これ以上喋らせてもマズい。さっさと拒否しなくては。

 爆弾発言?スルーだスルー。


「悪いがそんな余裕はないな。すまないが他をあたってくれ。」


「うにゃ?マスター、ダメなの?」


 今までおとなしくしていたチャルナが残念そうにこちらを見てくる。この2人と別れるのがそんなに嫌なのか、目が潤んでいる。雨の中の子犬と目があった時のような妙な罪悪感が湧き上がる。

 しかしダメなもんはダメだ。


「俺たちには金がない。こいつらが稼げるなら話は別だがそれができるならこんなとこにいないだろう。」


「マスター・・。お願い・・。」


「こちらからもお願いします。どうかご主人様になってください。」


「わふー。・・こうなるとフィルシアは頑固だからねー。しょうがない。あたしからもお願いするよご主人。」


 ・・・・面倒なことになったな。

 俺は金がないから雇いたくない。チャルナは一緒にいたい。この2人は仕える主人が欲しい。どうしたものか・・。


 んーこの条件を全部揃えるためには・・・ん?

 そうだ!これなら全部一気に解決する。

 閃いた答えをシミュレートしてみたが試す価値はありそうだ。俺はニヤリと笑いながら獣娘たちに提案をした。






「――――で、ウチに連れてきたわけね。」


「ああ。確か人を雇いたいとか言ってなかったか?」


「そりゃ人手は欲しいけど・・・。」


 エミリアはため息をついて考え始めたようだ。

 俺が連れてきたのは【まどろむ子ヤギ亭】。ここでヴィゼとフィルシアを雇ってもらおうと考えた。

 ここならチャルナも一緒に居れるし2人にも仕える相手ができる。獣人が多いから宿で差別が起きるということもない。俺も金を払わずに済むし、宿は従業員を確保できる。良いコト尽くめだ。


 ――――と思うのは俺だけか。エミリアはため息をついて首を振った。


「ダメね。この子らの服を用意して、綺麗にして、部屋を用意して、ってなると初期投資が多くて手が出せないわ。奴隷とは言え客商売だもの。見栄えをよくしないと。確かに従業員は欲しいけど、ね。」


「やっぱりあなたにご主人様になっていただくしか・・・。ハァハァ。」


「待て待て。まだ交渉の余地はあるから後ろで息を荒げるな。」


 いつの間にか背後に忍び寄っていたフィルシアに寒気を感じる。なんなんだこいつ・・。変態くさい気がする。はっきり言って俺は性欲の対象としてフィルシアを見ることはできない。こんな子供に興奮なんてしない。・・・・はず。

 コホンとひとつ咳をして、エミリアとの交渉を開始する。


「俺が連れてきたんだ。それくらいは面倒見る。部屋は俺たちと同室でいい。金もいくらか出そう。これでどうだ?」


「そりゃ助かるけど。いいの?お金払いたくないんじゃない?」


「このままずっと付きまとわれて、無理やり『ご主人様』にされるよりはマシだ。」


「わかったわ。それならいいわよ。――――ただし、この子らに手を出したらダメなんだからね。」


「しないしない。」


 俺はそんなに手当たり次第に手を出すようなやつに見えるのか。今回ばかりは俺は手を出される側のような気がしなくもないが。

 宿の外でじゃれあっているヴィゼとチャルナを呼び戻す。2人ともシッポをパタパタ振って嬉しそうな顔をしているので聞こえていたのだろう。

 エミリアが腰に手を当てて精一杯偉そうにしながら宣言した。


「それじゃ、そこの2人。採用!仕事をしてもらうのはもう少し後ね。あたしはエミリア。お父さんとお母さんは後で紹介してあげる。よろしく!」


「「よろしくお願いします!」」


「と、いうわけでヴィゼ、フィルシアの2人はここで働け。部屋は俺たちと同室。後で金を渡して服を揃えてもらおう。いいか?」


「あたしは良いよー。わふふ。これから面白くなりそうだねチャルちゃん。」


「うにゃう!そうだね!ありがとーマスター!」


「私としてはご主人様になってもらいたかったのですけど・・。」


「それはないな。」


「わふー。この状態・・・・になると妙に積極的になるけど落ち着いたら元に戻るから。」


 なんだろな?『この状態』って。深く聞くのもアレだし流すか。





「わふー。結構綺麗だねー。」


「いいからホラ、ベットはそっちだ。」


「了解しましたご主人様。」


「その呼び方はヤメろ!」


「うにゃー。なんかワクワクしてきたよマスター!」


「手を離すなああああああああッ!?」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら部屋に折りたたんだベットを持ってくる。4人で持ち上げてなんとか持って来れた。俺以外、特にフィルシアが不安なだったが余裕で持って来れた。意外と力がある。

 今まで部屋の大部分を使っていなかったからもう一つベットを置く余裕はあった。なんとも姦しくなりそうだが俺にも利点はある。

 最近ベッタリだったチャルナの面倒見をこいつらに押し付けようと思っている。チャルナはネコの年齢を考えると親から離れて独り立ちしてもおかしくない年齢なのだが、未だに親代わりの俺にくっついている。友達になったようだし、これを機に独り立ちし始めてくれるといいんだが・・。




「わふ?わー!なに何この子!?可愛いー!」


「チュッ!?」


 あ、ラティが捕まってる。片隅に置いておいた鳥カゴをヴィゼが見つけたようだ。

 カゴの中で「やべぇ見つかった!」って感じの雰囲気がしているから、これからこいつらのオモチャになるのがわかるんだろう。


「うにゃ・・。ゴハン・・。ジュル。」


「チュウウウ!?」


「チャルナちゃん。食べちゃダメですよ。ご主人様。この子は?」


「ああ。俺のペットのラティだ。食用じゃないから食うなよ。」


 一応釘を刺しておく。さっきのフィルシアの肉食獣のような気配がどうにも意識にこびりついて離れない。

 階下からエミリアの呼ぶ声が聞こえる。服の金を渡してこのあと買い物に行ってもらうんだった。


「そいつで遊んでもいいが殺さないようにな。あとチャルナにはやるなよ。食われる。」


「「「はーい。」」」


「チュウウウウウウウウウウッ!?」


 後ろからラティの鳴き声ヒメイが聞こえた気がするが気のせいだと思うことにした。

 やれやれなんか大所帯になってきたな。

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