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死後の世界

「死んだ…………、はずだったんだけどなぁ…………」


 今、視界に広がっているのは白い世界。どこまでもどこまでも白一色が続いている。

 というか目印になるものが何もなく完全に遠近感が狂っている。


「なんかの実験であったなこんなの」


 精神学かなにかにまつわる噂だ。何もない空間にいると人は精神の均衡を崩してしまう。白い、とは何もないことを示している。

 だから白い部屋に人を入れて観察する、という話だったはずだ。

 小説で読んだ気がする話を思い出しながら、俺《・》はひとりごちた。



 あの瞬間、確かに俺は死んだ。しかし気付くとここで寝っ転がっていた。体は五体満足。

 少なくともあの暴行で受けた傷はない。相当ひどい有様になっていたはずだが、その痕跡すらない。


 それならここは治療を受けた病院か、というとそんなわけがない。こんな妙な病室を作る意味がない。

 治療器具もなく、ただひたすら白い病室なんて何に使うのか。

 そもそも致命傷の痕跡すらないのは超常現象とすら言っていいだろう。

ならばここは・・・。


「死後の世界ってやつか」


 嫌だなこんな殺風景、とつぶやく。普通なら慌てふためいたりするのだろうが、俺は心が疲れきっていた。

 何かリアクションするのも気だるい。

 真っ裸で大の字になっても、恥ずかしいとすら感じない。今はただ、泥のように眠りたかった。



 だから



「ヤァ。ヨウコソ。コノセカイヘ」


 こんなありきたりなセリフと共に何かが横に立っても、反応するのが面倒だった。


「…………」


「…………」


「…………アレ?チョットー?モシモシー」


「…………」


「アノスイマセン。オキテクダサイー」


 ひたすらに無視。どうせ一度死んでいるんだ。どうにでもなってくれ。俺は寝る。しかし一向に眠気はこない。


 無視を決め込んでいる間、ぐるぐると俺の周囲を歩き回りながら声をかけてくる、カタカナ野郎。さすがに少しウザったくなってきた。


「アレ?コノヒトノココ、ププッ。コンナコトニナッテ――――」


「死にてぇらしいなカタカナ野郎!」


「ヒィッ!?」


 全裸なのを忘れていた。恥ずかしい。人目があるのとないのでは違うもんだ。羞恥心でつい苛立ったまま喧嘩腰で答える。


「何の用だ腐れカタカナ。ゆっくり寝かせろよカタカナ虫風情が。読みずれぇんだよカタカナ」


「・・・あのホントスイマセンでした」


「おう」


 妙にカタコトっぽかった言葉が急に流暢になる。最初からそうしろ。ちなみに目は閉じたままだ。開けると負ける。


「ヒィッ、とか妙に可愛らしい悲鳴あげやがって何様だ?」


「え、あの、意味が・・・」


 動揺してるらしい。そりゃそうだ。全裸がいきなり喧嘩売ってきて、次の瞬間よくわからない理屈で絡んでくる。微動だにしない全裸で。

 俺なら泣くね。怖いし。


 しかし声からすると中性的、っつーか男か女かわからんな。これで女だったら完全に俺は変態だ。

 こんな状況でいかにも訳知り顔で出てくるってことは死神か悪魔か、それこそ神とかか。

 妙に気になってきた。涙目の女神さまとかいたらテンション上がる。

 優しげな顔を困惑で一杯にしているんじゃないかと期待に胸膨らむ。


「あの・・・。目を開けて下さい」


 ちょうどよく声をかけてくる女神(仮)。いいだろう。そのツラ、拝ませてもらう。



「あ、よかった。死んでるのかと思っ―――「帰れカタカナ野郎ッ!!」ぶげぇぇぇぇッ!?」


 目を開けた先にいたのは、菱形の仮面を被った、

 ――どうみても男の姿だった。

 その横っツラを張り倒す!

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