幕間:盗賊視点
―――――盗賊視点――――――
「はあッ!はあッ!はあッ!」
俺は必死に逃げていた。背後からは笑い声と共に草をかき分けて近づく足音が聞こえてくる。
体はアイツにやられた傷でボロボロで、大の男のくせに泣きそうになっていた。でも今はそんなことはできない。
泣いたらアイツに居場所がバレる。
少しでも足を止めたらオシマイだ。
そんなことをしたら俺は殺されてしまう。パドやマージみたいに。
その時のことを思い出すと胃の中から熱いものがこみ上げてくる。
――ダレカ。ダレデモイイ。
―――タスケテ。
ついに体力の限界が来てしまう。と同時にアジトにしている山小屋が見えた。ここなら見つからないだろう。後ろの足音と笑いは聞こえなくなっていた。安心して小屋に近づく。
走り通しで足が棒のようだ。体中の筋肉がこれ以上は動けないと訴えていた。
ここならさすがにアイツも見つけられないだろう。
ここに居たなら俺は死なずに済む。
仲間はみんな殺されてしまっただろう。俺には何もできなかった。だが、俺は生きている。
申し訳なさで埋め尽くされたが、俺にはこうして生きることしかできない。仇うちなんてあの化物にしようなんて思わなかった。
豪華な馬車を襲ったまでは良かったんだ。久しぶりの特上の獲物にみんな沸き立った。
だが・・。
あの黒い化物が現れた。アイツは俺の、俺の仲間を・・・。
いつの間にか小屋にたどり着いていたようだ。誰もいない小屋の扉に手をかける。
「ただいま・・・。」
反射的に声が漏れた。弱りきっていてか細い声だ。そもそも誰もいないんだ。
それは誰にも届かない――――はずだった。
「おかえりなさぁい。あ・な・たぁ。」
一瞬聞き間違えかと思った。仲間は全員捕まったはずだった。ならばこの声は――――
「ご飯にするぅ?」
扉の先にはアイツがいた。
月明かりに満ちる部屋を背に立っているせいで。その顔は見えない。
その夜天に似たローブの下、三日月のように弧を描く口が薄闇に浮かぶ。
夜が笑っていた。
切り取られた夜空の化身がそこにいた。
悪夢だ。コイツこそ悪夢そのもの。
「お風呂にするぅ?」
その右手には何故かホカホカの米が握られている。
後ろに煮立ったお湯が宙に浮かんでいた。
そして左手には――――
「それとも――――」
「 タ ・ ワ ・ シ ? 」
「ぎゃああああああああああぶぶうううふむぐうううううううううううううううッ!?」
【幕間:逃亡者視点】をなぞって書きました。よければ見比べてみて下さい。