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ラット

 俺の【まどろむ子ヤギ亭】での逗留が決まり、学生寮の使用取り消しの手続きを行った以外は基本的に森へ出かけていた。次に登校するのは入学式だが、それにも日にちがあったからな。未だ見つからないアラートラットを探して連日森の奥まで探索する日々が続く。

 そして今日、ついに・・・・。


「くくくくく・・。絶対に今日という今日は逃がさんッ!」


「チュウッ!?」


 茂みからノコノコと現れたラットに向かって高らかに宣言する。前回の教訓に従って、チャルナはネコの状態で簀巻きにしてある。いくらこいつが食欲の権化だとしても動けまい。今も荷物からジタバタ動く感触があるが、厳重に縛ったのだ。そうやすやすとは抜け出せないはずだ。


「チチィッ!」


 いつぞやのように咆吼魔法『警報アラーム』を行使するラット。俺は待ってましたとばかりに魔法弾バレットを撃ち出した。

 拳大の光球が空間に尾を引いて飛ぶ。何発か外れたが、残りの弾はそのまま展開しようとしていた魔方陣にぶち当たる。


「チュウ?」


 俺が魔方陣に干渉しているのが違和感として感じられるのか、怪訝そうな気配を出すラット。

 俺の放った魔法弾は、魔力の流れを妨害しているらしく、魔法陣の光のラインの進む速度がゆっくりとしたものになっている。よし!【妖精眼の射手】の魔法遅延効果が出ている。後は魔方陣に当て続ける作業でレベルが上がるはずだ。

 あれ?これもしかして多段ヒットしたらもっと遅くなるんじゃね?ふと、そんなことを思いつく。

 突飛な思いつきにしては有効そうである。俺は両手の拳銃型魔道具フライクーゲルの引き金を引いた。


 ガガガっガガガっガガガガガガガガチンッ!

 とりあえず適当に連続して引いてみる。20に届くかという魔法弾が一斉に飛び、次々に魔法陣に吸い込まれていく。少し魔力が減った感覚がある。たぶん今までで一番魔力使ったかも。いくら個人で使える範囲内だから、と言ってもこれほど使えば強化された魔力量でも減るか。

 んー?一定の速度まで下がった後は、それ以上速度が下がらなくなったな。どうにも重ねがけの限度があるらしい。まぁすり抜けずに魔方陣に当たったところを見るに、十分にスキルの経験値稼ぎにはなるだろう。


「チュウッ!」


 あッ!あのネズミ野郎!魔方陣解除しやがった。あんまり遅くしすぎると向こうが魔方陣構築を中断するようだ。そりゃそうか。誰だって異変を感じたら一旦止めるだろう。

 ならば、とばかりに腰につけた袋を取り出す。もうひとつの目的、アラートラットの捕獲・・だ。

 俺がアラートラットに目をつけた理由は二つある。


 ひとつは比較的、危険のない場所で出てくる魔獣の内、魔法を使えるやつだということ。これは【妖精眼の射手】の経験値用。


 そして、ふたつ目はその魔法の特殊性。もっと言えば『警報』の有用性だ。

 この魔法は音によって周囲の生物をおびき寄せる。集まったやつ同士が殺し合い、死んだやつをこいつは喰らう。

 ならば集まったのがもし魔物や魔獣だったら?そしてそれを集まった先から狩り尽くしていけば・・?答えは簡単。莫大な経験値エーテルを集めることができる。それもたいして動くことなく。俺の今の実力がどれほどあるのかわからないが、この方法があれば飛躍的に成長できる。

 まぁ集まったやつを倒せれば、の話だが。いざとなればラットコイツよろしく魔獣どうし殺し合わせてエーテルだけいただく方針で行こう。


「『我と我が名と我がしるべ 誓いによりて敵を撃つ 破敵の弾丸 いざここに』」「『魔法弾バレット』」


 威力を調節した雷属性の魔法弾を放つ。上手く気絶してくれるといいんだが・・。


「ヂュウッ!」


 よし。黄色く光る魔法弾がラットを捉えてラットが動かなくなった。ピクピク動いてるから死んではいないだろう。

 袋に入れようとして・・・ふと気づく。

 捕獲して街に連れ帰ったとして、もし街中で『警報』を使われたら?人が集まるくらいならいいが、近くのネズミやらゴキとか寄ってきたら・・・。ヤバイ。俺の精神衛生上、非常によろしくない。

 どうにかならないか?


「ふがーッ!」


 荷物の中のチャルナがいまだにジタバタしているようだ。ボコボコとカバンの表面が浮き沈みしていてちょっと怖い。


「ん?あ、そうか。アレ・・を使えばいいのか。」


 俺はカバンから『変化の輝石・・・・・』を取り出した。そっと袋の上からラットにかける。いつものように赤い光が広がって・・・。

 ボウンッ!


「・・・。」


「・・・・・。」


 先程までラットがいた位置に、全裸で顔に袋を被った変質者・・・が現れた!


「ヤベー・・変態だ・・・!」


「あなたが何かしたんでチュ!」


 俺が愕然とした声を出すと、元ラットからツッコミが入る。袋で状況がわからないくせにツッコミを入れるとは。なかなかツッコミ力の高いやつだ。

 ちなみに見かけは女。意外と成熟した体つきだ。20歳くらいだろうか。尻尾がある以外は普通に見える。・・・袋以外は。威圧感を与えるためにそのまま袋をかぶせておいたんだが、犯罪臭が半端じゃない。ついじっとその場で見てしまった。やましい気持ちは・・ある。もう少しこうして居たかったがそれでは話が進まない。

 適当に俺の着ていたローブをかけてから、近くにあった蔓で手足を縛る。体をラットに近づけた時、耳に何かの音が届いた気がした。


 『ホン・・君のこと――――と思って・・んだ』


 ん?何か聞こえたような?気のせいか?周りには誰もいない。コイツと俺と、後、チャルナくらいか。声を出したらすぐに分かる。

 聞き覚えのある声だったんだが・・・。まぁいい。


 さぁ、交渉をはじめるか。


「よう。俺の言葉がわかるな?」


「私になんのようでチュかッ!早く解くでチュ!」


「黙れ。黙らないとそこにいる獰猛なネコをけしかける。」


 ガサガサガサッ!


「チュウッ!?」


 程よいタイミングでチャルナが荷物の中で動いた。まぁ今のチャルナが人化したこいつに噛み付いてもどうということはないが、状況を把握してない弱みにつけこんでおこう。目に見えておとなしくなったラットに笑いかけてやる。


「くくく。お前がおとなしく俺の言うことを聞けば安全だ。聞く気はあるか?」


 こくこくこく


 もの凄い勢いで袋に包まれた頭部が振られる。見ようによっては地面に寝転がった変質者がロックバンドばりの激しいヘッドバンギングをしているのだ。異様としか言い様がない。こんなとこを知り合いに見られたら誤解されることうけあいである。


「そうか。それは良かった。お前には俺に協力してもらおう。」


「な、何をすればいいんでチュか・・。」


「なーに。俺が指示したタイミングでさっきの魔法を使ってくれるだけでいい。集まったやつを俺が倒す。うまくすればお前はメシを食い放題。俺は欲しいモノが手に入る。その代わりお前は俺たちと一緒にいて行動を制限される。どうだ?乗るか?」


「・・・。仲間を裏切るわけにはいかないでチュ。」


「別にアラートラット、お前の一族を殺すわけじゃない。他の魔物に対して罪悪感があるのか?今まで散々殺しあわせておいてそれはないんじゃないか?」


「うぐぅ・・・。」


「今までと何が違う。獲物を殺すのが魔物から俺に変わっただけだ。そうだろ?」


「・・・それでも、でチュ。」


「もしお前が断るんだったら、ここで俺のネコに食わせて別のラットを捕まえるだけだ。その時犠牲になるのはお前の家族かもしれんなぁ?」


「・・・わかったでチュ。協力してやるでチュよこの外道ッ!その代わり他の仲間には手を出すなッ!」


「ははは。お褒めに預かり光栄です、ってか。それじゃ今日からお前は俺のペットだ。」


 いいねぇ。悪役というのは実に気分がいい。実際はもうこの森に用はないから、他の森に行くんだが。アラートラットがいるのは北の森だけだ。約束は守られる。

 これで練習台とエンカウントしやすい環境が手に入ったわけだ。さて、あとは・・・。


「うにゃーッ!」


「ひぃぃッ!?」


 このアホネコをどうするか、だ。


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