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セレナ

「―――――不合格。」


「え?え!?な、何がですの!?」


「その口調で金髪だったらドリルにしないと不合格だろッ!」


「い、意味が毛ほども理解できないですわッ!?」


 顔を真っ赤にして叫ぶ目の前の少女。年は俺と同じくらい・・というか試験会場で見たような気がする。

 日光を受けてキラキラと光りを反射する金の髪は背中側は腰ほどまで伸びている。その瞳はエメラルドのように澄んだ緑色をしている。金髪碧眼、ってやつか。幼いながらも将来美人になると思わせる整った顔立ちをしている。・・・まぁ今はそのお美しいご尊顔が怒りで染まっているが。


「人に説教を受けながら、意味不明の説教で返してくるとかケンカ売ってますの!?」


「あぁ?むしろお前がケンカ売ってんの?なんだその髪。金髪ツンデレに許されんのはドリルかツインテールだけなんだよッ!」


 一部、というか全部俺の趣味嗜好だが。例外もあるがこいつには適応されない。


「だいたい何の用だよ?俺は試験が終わったから帰るだけでまだ・・なにもしてないだろ。」


「なにかするつもりだったんですの!?これだから不良は!」


「だから俺がなにしたんだっての。」


 初っ端から飛ばしてんなこのお嬢。人を不良呼ばわりとか。

 俺は先ほどの門の前で学校のことを考えていたのだが、そこにこの金髪が現れたわけだ。いきなり言葉をかけられて少し驚いたが、こいつと会話した覚えはない。何をもって俺を不良だと判断したんだか。

 俺は試験中はおとなしくしていたし、誰にも迷惑はかけていないはずだ。俺が問題児だと判断するにはそれなりの材料がいるはずだが、この自信満々な態度。相当な証拠を持っているに違いない。


「あなたのその見た目ですわッ!」


 ・・・・。泣かせてやろうかこの金髪。




 結局こいつが落ち着くまで辛抱強く話を聞いていると、ことのあらましがわかってきた。


「・・・要するに俺のこの髪と、目つきが怖くて女子が怯えていた、と。」


「ええ!その、さんぱくがん?でしたか。昔話に出てくる邪視イービルアイみたいで怖いと皆さん口々に言ってらして。そんな輩は頭の中身が残念ですので試験で落ちるから大丈夫だと慰めていたんですわ。」


「んで、俺が試験をさっさと終わらせて出たもんだから、なにか不正をしたのではないか、と。」


「その通りですわッ!」


「よしわかったお前馬鹿だろ。」


「なんですって!?」


 なんで本気でびっくりしてんだよ。どう考えても言いがかりだろうに。

 無闇矢鱈と正義感が強いのは理解したが、その分頭の中が残念らしい。コイツこそ試験に落ちるんじゃないか?


「婦女子にそんな失礼な言葉を言って許されると思ってるんですの?さぁ!今から教室に戻ってわたくしと皆さんに謝りなさい!」


「『俺の目つきが悪くてごめんなさい』ってか。アホか。テメーらが勝手に怯えただけだろうが。

 そもそもいきなり人を不良呼ばわりして、何か悪いことしたわけでもない、証拠もないのに謝らせよう、ってのは失礼どころか無礼じゃないのか?」


「む、むううううううううッ!」


 滅茶苦茶悔しそうな様子のコイツ。名はセレナと言ったか。ほっとくと地団駄踏みそうなほどプルプル震えている。

 肩と・・その胸元。体格は小さく、華奢なのにそこだけ見て取れるほどの膨らみがある。これから成長期を迎える、となると・・・。末恐ろしいやつだ。

 俺のそんな視線にも気づかず、搾り出すようにしてセレナは叫んだ。


「あ、あなたねぇッ!わたくしを誰だと思ってますの!?普通の貴族がそんな事を言えないくらいの身分ですのよ!わたくしは――――」


「―――――王立学校のヤツがそんな事バラしていいのか?」


「あ、あぅ・・・。」


 今まで精一杯大人っぽく見せようと噛み付いてきていたが、それも急速に萎んだ。子供っぽく言い返そうとしてぐぅの音も出ないほど言い負かされて肩を落としている。見ている分にはコロコロと表情が変わって楽しいが、なるべく関わり合いたくないな。

 この学校には教育方針の他に変な決まりルールがある。



 『学校に入学したもの、入学しようとするものは己のの情報を漏らしてはいけない』





 いささか奇妙に思えるこの決まりは、元は貴族同士の諍いを無くすために作られた。

 貴族というのは権力・利権闘争で複雑な関係を結んでいる。当然、敵対派閥の子供とツガイの関係を結ぶと余計なトラブルを引き起こす。魔法ツガイは、恋愛関係を利用していることもあって将来結婚する場合が多い。この学校でもそれは同じだ。

 しかし、こと恋愛に関しては方針上、開放的になっている以上、そのようなことも何度も起こった。一時期は相手の家との関係悪化を恐れるあまり、誰もツガイの関係を結ぶ者がいなくなった時もある。

 これを避けられないものと見た学校の上層部は、これを逆手に利用して前述のルールを作った。



 要するに『学校のルールだからそんな関係になってもしょうがないよね、てへッ』ということだ。



 つまり、決まりを盾にして『自由な恋愛』を推奨したのである。

 普通なら一教育機関の決まりごとなど、とり潰されそうなものだがこれを推奨したのは意外にも王族だった。

 当時は外国との戦争が活発だった時期であり、今、国内の余計な騒動で力を削がれる訳にはいかず、国がまとまる必要があった。なので、敵対関係を解消する手段として将来的には結婚するツガイで結びつきを強くしておきたかったのだろう。誰だって身内がいるところでその家を貶すことなどできない。最初期にはいくらか混乱もあったが百年もすればそれも無くなった。

 こうして『学校に入学したもの、入学しようとするものは己の家の情報を漏らしてはいけない』という意味不明なルールは伝統と化す。





「面倒事に巻き込まれたくなかったら、迂闊に家のことを持ち出さない方が良い。」


「し、知ってますわ。」


 知ってるのに口走ったのか、と言いそうになったが涙目になってきたのでやめる。

 このルールの下では味方と敵の区別がつかない故に均衡が保たれている。もしそこで自分の家のことがバレたら、そしてそれを知ったのが敵対する家のものだったら。その行く末は簡単に想像できる。

 先ほどのセレナの言動は本当に迂闊としか言い様のないものだった。



「とにかく俺は不正なんてしていないし、謝ることなんて何もない。じゃあな。」


「あ、ちょっと待ちなさい!」


「・・・なんだよ。まだ何かあんのか?」


「あなた、名乗ってませんわよ。レディーに名乗らせておいて自分は名乗らないなんて許しませんわ!」


「許す許さない、って別にお前の許可なんざハナから求めてないっつの。」


「いいから名乗りなさい!」


「・・・・ユージーンだよ。ただの・・・ユージーン。」


 なんでそんなに泣きそうなんだよこいつは。絶対面倒事になるとわかっていても、そんな顔を見たら言わないわけにはいかなかった。なんか俺がいじめてるみたいだ。


「ユージーン・・・。その名前、覚えましたからねッ!」


 セレナは踵を返して走っていった。

 何なんだ・・。やたら疲れた。これ以上ここに居ると他の面倒なやつまで寄ってきそうだ。こんな時はさっさと帰るに限る。

 俺はため息をつきながら宿への道を歩いた。




 余談


「ただい――――うぉッ!?」


「マスターマスターマスターッ!お帰りなさいッ!寂しかったー!」


「チャーちゃんダメでしょ焼き鳥持ったまま抱きついちゃ―――「ぎにゃあああああああああああッ!」―――って何それどうなってんの!?」


「おい、俺の一張羅がタレまみれじゃねーかッ!(コブラツイスト)」


「いだいいだいいだいッ!今日のマスター激しいぃぃぃぃぃ!」


「ちょっとユージーンやめなさいってば!無理やり解くわよ!―――あれ?ここをこうかな?」


 グイッ!ギチィッ!ゴキッ!!


「うにゃああああああああああッ!?」

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