幕間:少女視点
―――――少女視点――――――
わたくしは息を飲んでその光景に見入っていました。先程まで自分は死んでしまう、とガタガタ震えていたというのに、そんなことも忘れて馬車の外で起きている事に釘付けになっていたのです。
あの時。護衛をしていた騎士がひとり、またひとりと倒れ、このままでは全滅してしまうと怯えていたあの時。自分と同じくらいの少年の勇ましい声が聞こえて。世界に朝が来たようにあたりが明るくなり、そしてあの方が現れたのです。夜明けのお空のような青いローブを着たあの方が。
その方は一人前の騎士でもひとりでは立ち向かえない灰色狼の群れの中に、その小さな体を投げ出しました。絶対に死んでしまう!私は悲鳴を上げそうになってしまいました。そしてすぐ後にまったく別の、驚きで声を上げていたのです。
その方はたったお一人で次々と舞うようにして、魔法で、剣で、凶暴な狼達を倒していったのです。―――――今、私が見ているように。
彗星のような輝きを放つ魔法で狼を撃ち、
鋭利な爪を掠らせもせずに華麗にかわし、
必殺の剣でもって切り裂く。
それはまるで幼い頃に聞いた英雄譚のようで。
トクトクと高鳴る胸をわたくしは服の上から押さえつけながら眺めていました。
「それでは俺たちはこれで。」
「あ!待って下さいまし!お礼の品がまだ・・・。」
引き止めも虚しくあの方は去ってしまいました。薄い青のローブが森に消え、それに続いて小柄な女性の方もフラフラと森の中に入って行きます。
なにかわたくしに至らないところがあったのでしょうか?護衛の方に聞いても失礼な所はなかったと聞いて胸をなで下ろしました。
王立学校に入学する以上、ここで家名を名乗るわけにはいかなかったでしょうけど、せめてお名前だけでも聞きたかったのですが・・・。
同じく新入生であることがわかっただけでも良しとしましょうか。あれだけの実力者です。学校でもすぐに有名になるに違いありませんわ。
「そういえば・・・。」
今年はあのダリア公爵家から男の子がやって来るそうですが、先程の実力からしてあの方がそうだったのかもしれませんね。
きっと優しく、公平で、誠実で、そして力強い方なんでしょう。さっきの様子からすると、照れ屋な部分もあるかもしれません。
そんな彼と、噂の実習でご一緒になるかと思うと・・・・。
きゃーきゃー!い、いけません!はしたないですわ!
赤くなった頬を冷ますように馬車の窓に近づきました。
窓の外からは王都の白く高い外壁が見えます。ああ、わたくしはとうとう王都まで来たんですね。
明日からは試験があるというのに今日は寝付けそうにありません。故郷のお母様、こんな時はどうしたら良いのでしょうか?
ガラガラと馬車の進む音を聞きながら、ユリの刻まれたブローチを眺めて、わたくしはそんなことを考えていました。




