変化の輝石
村を出発し、またしばらく暇な時間を過ごす。しばらくゴロゴロしながら休むことにした。
途中で草むらから抜いてきた猫じゃらしでチャルナをからかいながら暇つぶしの方法を考える。そういえば出がけに村長からもらった飾りの鑑定をしていなかったな。今のうちにやっておくか。
てしってしっとリズミカルに猫じゃらしをパンチするチャルナを脇に置いて身を起こす。
「『我が名に於いて行使せん。すべてを知るは神の御手 触れ撫ずれば叡智を呼ばん。』」「『鑑定』」
御者席のシェルビーに聞こえないようにこっそり詠唱する。
先にローブからしておくか。発動した状態で畳んであるローブに触れる。
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【月光熊ローブ】
分類:ローブ 月光青熊の皮を使って製作されたローブ。ナイトライトベアの特性を引き継ぎ、高い防御性を持つ。夜には視認しにくくなる。
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期待通りの性能があるらしい。これであの耳がなければそれなりにカッコイイし使いやすいと思うんだが、そこはあのおっさんを恨むしかない。
さてお次が本命の首飾りだな。ローブに触れた手で荷物を探り、首飾りを取り出す。そっと宝石の部分に触れるとその情報が導き出される。
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【変化の輝石】
分類:アクセサリー 特殊な鉱石を加工して作られた首飾り。身につけた者を人化させる能力がある。生物限定。
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「・・・・?」
身につけた者を・・・・人化?
どういうことなんだろう。
人化・・・人間化?
人以外に身につけさせると人になる、ということだろうか。そんな馬鹿な、と思ったがリア充専用魔法なんてあるふざけた世界だ。なんでもありなんだろう。
ふと傍らのチャルナを見る。猫じゃらしに両手両足で抱きついて遊んでいる黒毛の子ネコ。
もしこの首飾りが本当に俺の想像した通りの効果があるとしたら・・・。
ゆっくりと首飾りを持った手をチャルナに近づける。ゴゴゴゴゴ、と効果音が鳴っている気がする。
チャルナは何かに気づいたようにビクッとしてこちらを見てくるがもう遅い。
すくめた首にそっと首輪をかけた。みぃみぃ鳴いているチャルナにはだいぶ大きいがそれでも効果があるようだ。石と同色の赤い光が首飾りから漏れ出してくる。
おお、いかにも魔法の道具って感じだ。そのまま怯えるチャルナの体を包み込みボンッ!という爆発音がして一瞬肌色が見え―――――
「みゃあっ!?マスター何す―――――」
ひょいっ。ボウンッ!
「―――――みぃーー!?」
なにかとてもまずいものが見えたのでチャルナ(人化)から首飾りを取り上げる。
実験は成功した。したが・・・。
「どうしました!?」
「い、いやなんでもない!」
「でも今爆発音が!」
「大丈夫だ!本当になんでもないんだ!」
「そ、そうですか・・・?」
御者席から顔を出すシェルビーを慌てて押し戻す。首輪に見えなくもない飾りをつけた全裸少女とかが近くにいたら本気でマズイ事になる。こいつは商人で顔も広いので瞬く間に噂は広がるだろう。それで以前の噂に真実味が増して戻れなくなったら今回の学校行きが意味がない。今のは本当に危なかった。
チャルナは逃げ出そうとジタバタしているが、俺が手で押さえているので動けない。頭を撫でて落ち着かせながらこれの使いどころを考える。
――――とりあえず王都に着くまでは使えないだろうな。なんとも微妙な物を押し付けられたものだ。
身につけても何も起きない、とあの村の村長は言っていたがそれはそうだろう。人間が身につけても元から人間なので効果はないだろう。たぶん、これを身につけた動物が過去にいて、それを外した所を見ていた奴がハンパに勘違いしたのだろう。逆に動物になれる、みたいな感じで。
動物を人間にしたところでなにができるというのだろうか。ましてこの幼くてお転婆な子ネコに。今は散々暴れて疲れたのか、頭を撫でられて安心したのか、だいぶおとなしくなったチャルナ。
さっき一瞬見えた顔立ちはとても整っているように感じた。活発な印象の黒髪黒目の少女。とりあえず次にこの首飾り――『変化の輝石』を使う時までに女物の服でも手に入れないといけない。
ため息をついて手の中の首飾りを見やる。血のように赤い石に、幌の間から差し込んだ光が反射して妖しくきらめいていた。