竹刀の効果
数日すると、木工商会から竹刀が送られてきた。試作品だそうだ。
手に持ってみる。これは・・・。太い。俺の手が小さいからというのもあるが、竹刀自体が太い。竹は無いだろうから、柔軟性のある素材を使っているんだろう。木の板を薄く加工しているようだが、これのせいで竹刀とは違ったものになっている。角張っているし。こんなの使ったら木剣より危ないぞ。
木の板に丸みを持たせてさらに端を削るように指示を書き、使いに持たせる。他にもこの国で一般的な剣の重心や長さを参考にするように、追加の指示をだす。ついでに小さいタイプも送って寄越すように書き加えた。少しずつ実用できるものに近づけていくつもりだ。
使いを送りだしたあと、残った試作品を軽く振る。木剣よりも軽い。柄の部分には皮が巻かれており、グリップも十分だった。この部分は成功しているようだ。後は打った時の衝撃か・・・。庭に行くと珍しくドルフがいた。いつもは軍の練兵場にいるのに。こちらに気づいたようで振り向く。
「む、ユージーンか。今度は何をするつもりだ?それはなんだ?」
「何もしねーよ!父上も俺がトラブル起こすのを前提で話すのはやめてくれないか!?」
あ、なんかものすごく何か言いたげな表情になってる。なんだってんだどいつもこいつも。
「それで、何を持っている?」
「ああ、これは新しい木剣の試作品だ。平たく言うと全力で振っても相手が怪我しにくい。」
「なんだと!?詳しく話せ!」
興奮するドルフに特徴と、これの作成を木工商会に依頼したことを話す。始めはおとなしく聞いていたが段々と落ち着かなくなってきた。たぶん試し切りしたいんだろうな。案の定、試し切りにカカシを叩きに来た、と言ったら自分がやると言い出す。子供か。
試作品をドルフに渡すと嬉々としてカカシに向かう。そのまま振りかぶって―――――――。
ガカィン・・・!
振り下ろしがほぼ見えなかったんだが。というかあれは竹刀の出す『バシッ』って音じゃない。鎧をみると少しへこんでいた。おいおいマジか。この筋肉ダルマ、竹刀で金属へこませるとか、馬鹿力にもほどがあるだろ・・・。
「おお、確かにあたりが弱くなっている!面白い物を作るな!強くなる武器ではなく、弱くなる武器か。」
「これは失敗作だからこれからもっと、その、なんつーか、父上の言い方を借りれば、弱くなるぜ。」
「ほう、すごいな。しかしなんの意味があるんだ?」
「理解してなかったのかよ。
まず、日々の練習で全力出して戦闘訓練ができるな。怪我をする心配はぐっと下がったんだから。竹刀で切られても骨折はしない。せいぜい打ち身だ。・・・・父上は別だけど。
あと、木剣よりも軽い竹刀だから、その速さに目が慣れれば、鉄の剣なんて相当遅く見える。重さが全然違うから、竹刀から鉄剣に切り替えた時に慣らしが必要になるが、それを差し引いても導入するメリットは多い。」
「これをお前が作ったのか?」
「いいや、作りを知ってただけだ。」
「そうか。これが鍛錬に有効なのは理解した。しかし勝手に木工商に行ったのはいただけないな。うちでいつも頼んでる所の面子を傷つける形になったぞ。」
「木工商会には制作・流通を頼んだだけだ。ただの大工に流通は任せられないだろう。国の総合的な武芸の力を上げるにはこれをばらまく必要があった。
面子を潰した、と思うなら大量発注してやればいい。竹刀を導入するなら必要だろう。」
ちなみに今、適当に思いついた言い訳だ。御用達の店なんて知ったこっちゃない。木工商会に行けば誰でも製法を聞ける。やる気があれば作れる。そっちで何とかしろって話だ。
「屁理屈だな。」
「だが一応面目は立つ。なんなら俺の独断専行だとでも言えばいい。『牡丹の悪童』らしいからな。」
苦虫を噛み潰したような顔のドルフ。少しは悪いと思っているが、そもそもはコイツにボコボコにされて思いついたこと。いい気味だ。
これで俺は安全にレベルアップできるし、今後、竹刀が売れればまとまったお金が入ってくる。良いコト尽くめだ。懸念といえば銃型魔道具が1年ほどかかることだろうか。その間に怪物どもが起き出さないか心配だ。猶予は数年ある、みたいなことを言っていたが、あいつの言うことは当てにならないからな。いっそ『黄道十二宮』自体が嘘ならいいんだがそうもいかないだろう。
既に6年たっているんだ。もういつ出てもおかしくないだろう。それまでに強くならなければいけない。もう一度死ぬのは嫌だからな。