鍛錬開始
あれから毎日、魔法の練習、という名の改造をして過ごした。爆発して音を出す魔法弾で爆竹ごっこしたり、触れるとくっつく魔法弾で水玉作って屋敷内にばらまいたり、いやぁ実に有意義だった。え?俺?もちろんその後、ボコボコにされましたけど?
そんで本日めでたく6歳の誕生日。というわけでお優しい父上様がプレゼントだ、と言って庭に連れ出してくれやがったわけですが。
「んで、父上?これはなんの冗談ですかな?」
今、俺の前には木剣を構えたドルフがいる。当然、俺の手にも木剣(短)がある。これはどう見ても・・。
「儂の稽古がプレゼントだ。嬉しかろう。儂も嬉しい。」
「どうしてそんな結論になったんだよ・・・。」
「忘れたわけではあるまい。魔法を解禁したときに『鍛錬もちゃんとやる』というのが条件だったしお前もそう言ったな?」
「言ったっけ?」
「お前えええええええええええ!?」
「落ち着いてください旦那様。いつものことじゃないですか。」
ため息を落とすナタリア。コイツもだんだん慣れてきたな。
ああ、そういえば適当に言いくるめた時に、そんな出まかせ言った記憶がある。
「すまんな父上。あれは嘘だ。」
「お前ええええええええええええ!!」
うわ、ちよっと煽ったら突っ込んできやがったよ。大人気無い。
「『我と我が名と我が標 誓いによりて――――――うわっ!?」
「ふはははは!魔法の詠唱などさせんわッ!」
鼻先をかすめる剣閃に思わず悲鳴をあげる。クソ!集中できない!
当たり前か。目の前で詠唱してる奴がいたら誰だって攻撃する。
頭を狙って横なぎに振るわれた剣をひねって躱す。速ぇー!こいつ殺す気か!?
体をひねって体勢が崩れた俺を、ドルフの木剣が狙う。咄嗟に剣を構えて受ける。が、所詮は6歳児(なり立て)。勢いを殺しきれずに吹っ飛ばされる。
「イタタタ・・。ガキ相手に本気出すなよ!殺す気か!?」
「ただのガキなら最初の一太刀で大怪我しとるわ。避けるわ躱すわ受けきるわ。よくもまぁ軟弱な魔法の研究してるような奴がやりおるな。」
「確かにそこは俺も不思議だ。」
「・・・あれだけやってふざける余裕があるのか。ではまだまだ行くぞッ!」
「ちょ待――――。」
「ふむ。なかなかどうしてやるもんだ。今日はここまでだ。教えた基本の型を忘れるな。明日からは毎日素振りとトレーニングだ。返事は?」
「・・・・・・くたばれクソ親父。」
「くくく。お前のそれが心地よく聞こえるのは初めてだな。」
笑いながら屋敷に向かって歩いていくドルフ。超笑顔。対する俺は地面に大の字になって倒れていた。打撲と筋肉痛で全く動けん。あの木剣硬えー。腕にヒビ入ってそう。
結局、一発も当てることなく面白いようにボコボコにされた。こちらの攻撃はカスリもしない。剣の訓練をまともにしたことがない6歳児としては当然の結果か。
木剣を指し示しながらナタリアに声をかける。
「なぁ。ナタリア。こんなんで練習してたら大怪我するくね?『我と我が名と我が標 誓いにをよりて彼を癒す 安らぎの手よ いざここに』」「『治癒』」
「そう言って平然と治したりしてると釈然としませんが・・。そうですね。結構多いですよ。訓練中の怪我で剣を握れなくなる、っていうのは。」
「やっぱりか・・。イテテ。」
「強いお方というのは手加減も上手らしいので安心なされてはいかがですか?というか坊ちゃん訓練したことありましたっけ?すごく機敏に動いていたようにお見受けしたのですが。」
「どっかの貧乳暴力メイドに追いかけられ―――」ズンッ!
と言った瞬間に顔のすぐ横に足が振り下ろされる。おいおい動きが全く見えなかったぞ・・・。ドルフの剣でもなんとか見えてたのに。
「何か、おっしゃっいましたか?坊ちゃん?」
「・・・黒か。いい趣味だ。」
「なに見てんですか!?」
「ぐふぅっ!?」
容赦なく顔かよ。自分でやっておいて。
こいつも俺が自分で回復手段手に入れたから段々手加減なくなってきたな。おかげでムダに得意になった回復魔法が活躍する。柔らかな光が降り注ぎ、傷を癒す。
ナタリアは怒って屋敷に帰ってしまった。俺はというと、傷は回復したが動く気力がないのでまだ大の字である。ああ空が青いなこんちくしょう。
先ほどの稽古を思い出す。一方的にボコボコにされた、とはいえ、体の動きが良かった。妙に良すぎた。剣を握るのなんてこの体になってからは初めてだし、『生前のボク』でも剣道の授業で習ったのみである。少なくとも部屋に引きこもっていたもやしっ子の動きではなかった。
いくら手加減されていたとはいえ、あれほどの剣を躱し、防ぎ、いなすなんてできるわけがなかった。これはもしかして・・・。
「スキル【剣豪の系譜】、か。あの短時間で異様なスピードで腕も上達していたし。身体能力の向上と補正、てトコか。」
たぶん間違っていないだろう。ならば、体を動かせば剣豪のレベルは上がっていくのではないか?
「確証が無いことばかり、だな。あのクソターブがきちんと説明しておけばこんなことには・・・。」
いや、説明受けてたら逃げてたな。メンドクセーし。
ノロノロと体を起こす。
とりあえず。
「明日から鍛錬か・・・。ダリぃーな。」
そう呟いた。