改造
「『我と我が名と我が標!誓いによりて敵を撃つ 破敵の弾丸 いざここにッ!』」「『魔法弾!!』」
魔力が魔方陣に記載された通りに作用、改変、増幅、安定化の効果を発揮し、世界の理を捻じ曲げ、現象として顕れる。
拳ほどの大きさの弾が出現し、手を振り下ろしたと同時に目標に向かって飛ぶ。
ガキィン!
鈍い金属音と共にカカシの頭が兜ごと吹っ飛んでいった。
「おぉ・・・。」
思わず感嘆の声が漏れる。昨日できなかった「魔法弾」と「武器精製(ウエポン・クラフト」の練習をしに庭にいるわけだが。
「結構いいんじゃないか。」
正直、護身用魔法なんて豆鉄砲レベルかと思っていたが今の威力を見るになかなか良いものだった。「魔術初級編」の内容を写した「ススメ」を見る。
説明書きによると使い勝手のいい魔法で最も広がっている攻撃手段らしい。属性の使い分け、弾の形状変化、性質変化、速射、連射、滞空可能、と、かなり応用ができる。もちろん相応の魔力が必要になるが。先程のは魔力を固めて放った基本的な魔法弾だった。
今回の必要になる感情も記憶の中から引き出した。個人用の魔法ならこれで十分らしい。
「『ファイア・バレット』」
先ほどとは微妙に違う魔方陣が浮かび上がり、炎で出来た弾丸がカカシに着弾。炎上させた。
「やべっ!『ウォーター・バレット』」
また違う魔法陣が浮かび、今度は水で出来た弾丸がカカシの火を鎮火した。幸い、少し焦げただけで済んだようだ。危ないとこだった。もしアレを燃やしたら、兄達が抗議に来るだろう。
この魔法、性質変化がかなり面白く、大きな球状の弾を打ち出し、何か触れると爆発するといった芸当もできる。これは研究のしがいがあるな。
「さて、お次は、と。『我と我が名と我が標 誓いによりて敵を断つ 破敵の剣 いざここに』」「『ソード・クラフト』」
「武器精製」を唱える。今回は剣だ。半透明で光る剣が手のひらから発生する。20センチくらいだろうか。短刀の分類だろうけど5歳児の俺には重いしデカイ。試しにカカシに切りつけてみる。
キキキンッ!
甲高い音と共に鎧の腹の部分にゆっくりと食い込む剣。これって護身用なのか本当に。たいして鎧を切る手応えがないんだが。手を離すと数秒そのままだったが、やがてスッと薄れて消えた。
魔力の量によって大きさや鋭さ、形状が変えられるようだ。他の武器にも変えられるようだし、やっぱり使い勝手がいい。その都度変える武器によって詠唱が変わるのもなんかカッコイイ気がする。
気になったことがいくつかあった。
詠唱時の「我と我が名と」って部分はまだわかる。自分の存在とそれを縛る(定義する)名前の概念。魔法では名前を重要視する、というのを聞いたことがあった。地球でもなんかの本に書いてあったな。そこはいい。だけど「標」ってなんだ。それと「誓い」。この二つについては「初級編」でもそれ以降にも記述がなかった。いったいなんの意味が・・。
それと魔方陣。
再度「魔法弾」の魔法を唱え、放つ直前で止める。魔法陣が現れたまま、目の前で回りながら中に浮かんでいる。ところどころに書いてある呪文、その間をつなぐラインの存在。やっぱりそうだ。これは電子回路に似ている。
呪文が電子部品、ラインがワイヤーの電子伝導体だと考えるとしっくりくる。それが丸く円形を成していた。ただ、ところどころショートしていたり、互いに干渉したりしている。だいぶ魔力を無駄にしているはずだ。転生前はあまり興味がなく、テストにも出ない分野だったので軽く学んだだけだったが、今思うと真面目に勉強しておくんだったな。魔法陣を留めたまま、配線をイメージすると、目の前の魔方陣が組み変わっていく。
素人目にもわかる部分を改善し、脳内の仮想空間に記憶しておく。こうしておくと次はこの改良型がでてくるはずだ。
「とりあえず試し打ち、だな。『バレット・改』」
出したままだった魔法陣で魔法弾を放つ。結果は鎧の一部をへこませる程度だったが、消費魔力がだいぶ抑えられた。こらはいいな。他の魔法も一度全部見直してみよう。
結局夕方までかかって覚えた全部の魔法の改造を行い、時間になっても帰らない主人を探しに来たナタリアに怒られた。ちなみに魔法使うときはコイツのお仕置きのことを思い浮かべている。
毎度、ナタリアの監視の目をかいくぐって練習しているため、その分も怒られた。面倒事を起こさない、という条件の上で監視しないことになった。全く失礼な。人を歩くトラブルメーカーみてーに。俺だってこれ以上怒られるヘマはしな――――――
「ユージーン!お前、カカシをボッコボッコにしたな!というか頭はどこにやった!?」
あ・・。ヤベ・・・。