表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/198

自立に向けて

 更新が遅れてすいませんでした。

 先の展開をどうしようか決めかねていて、執筆しながら迷走しておりました。もうしばらくは勇者達の育成期間を続けます。



 解体所に行った翌日。

 さっそく瀬奈たちはそれぞれ呼ばれた王族のところへ出向いた。龍の素材がいくら家○軒分の価値があるとはいえ、向こうも無茶な要求はしてこないだろう。


 ――…………などと楽観的に見ていたが、帰って来た田中の憔悴した顔を見たら、そんなことは言えなくなった。


「何かあったか?」


「………………………………」


「言葉にもならないくらいか」


 頭を抱えた田中の様子からして、相当にまいる事をされたのか。それとも無茶な要求でもされたのか。


「会話が――――」


「ん?」


「会話が続かなくて……」


 …………んん?

 どうにも要領を得なかったので詳しく聞いてみると、炎龍の素材の受け渡しがされた後、あのラナとかいう王女と二人きりにされたらしい。

 幸い、交渉の中で要求されたのは自分達の国プラータに来た際に金額分の仕事を頼む、という程度のことだった。

 問題はその後の王女様との会話だ。


「――つまり、二人きりにされた後、王女さまと上手くコミュニケーションを取れなかった、と」


「最初の方は一応会話できてたんですよ……。でも他の王女様となんか違うんですよ。顔真っ赤でもじもじしてて、目も伏せっぱなしで」


 で、調子が狂ったと。

 少し話を聞いてみたが、他の王女は田中に対していつもしゃべりっぱなしだとか。ほどよい話し相手だと思われているようだ。


「相手があんまりにも“女の子”してるからってやりづらいわけか。……嫌なら嫌だと言え。それかとっとと帰ってこいよ」


「いえ、その……嫌ではないんですよ。ここのところ圧倒されっぱなしだったんで、落ち着くというか静かでいいというか」


「………………マゾ?」


「い、いえ……そういうわけでは……」


 ルイといいこいつといい、なんでこうまで変態が多いのか。

 まぁ、何でもかんでもSとかMとかで語るのは愚の骨頂だ、というのは分かってる。そこらを歩いているおっさんに突然殴られたからといって、Mが喜ぶのか、と言うと違うだろうな。…………いや、一部のガチにはそういう趣味のヤツがいるかもしれないけどよ。

 要は関係性だ。

 信頼のある者と結ぶ『関係』がSやらMとかを語る上での前提だ。

 …………俺は何を語っているんだ。


 しかし、そういう観点から見ると、『一緒にいるのが嫌いではない』という気持ちの前提になるのは――――


「…………」


「どうしました?」


「惚れたか」


「ッ!?」


「ふぅむ。追っ払うから最初から顔なんて特に気にしちゃいなかったが、思い返して見れば、確かに王族連中の中じゃ、頭一つ抜けて美人だったな」


「ち、ちが……ッ!!」


 必死に否定しようとする田中を見て、きっとこいつが再びラナに会うときは意識しまくりだろうな、などと考えていた。

 そんな時、廊下からパシーン、というなにか思いっきり人の頬を張ったような音が聞こえてきた。


「待て田中。今の音、女の柔肌が男にぶつかったときの音だ……!」


「どんな音ですか!?」


「面白そうだから見に行くぞ!」


「ゲスいですね!?もうちょい品行方正に行きましょうよ!英雄なんですから!」


「ならお前はここにいろ。俺はまだ英雄じゃない」


 会話をしているあいだにも、既に扉まで移動している。なんだかんだで田中も気になるのか近くまで来ている。

 開いた扉から体を傾けて顔だけを廊下に出す。

 左を見ると何もない。

 右を見ると――――褐色の壁があった。


「?」


 文字通り目と鼻の先だ。

 触れてみる。……柔らかい。温かい。


「あん……!」


 鳴いた。壁が鳴いた。

 というか声が上から……?

 離れて見るとそこにいたのはリツィオだった。頬を赤くして恥じらっている。


「も、もう……いくらオネーサンでもいきなりはちょっと……」


「なんだリツィオか」


「……。むぅ、なんだはないでしょ、『なんだ』は。もっとこう、『う、うわッ!ごめん!』みたいな初々しい反応してくれたって……」


「さんざん押し付けられて有り難味なんぞないわ。いくらでも揉めるっつーの」


 なんとなくイラッと来たので、大胆に開かれている胸を鷲掴みにする。

 さっきはこの胸元にぶつかりそうになっていたのか。青年状態とはいえ、体を乗り出していたから目線は低かった。

 今はリツィオの顔が首のあたりにある。その顔は赤くなって異性に胸を触れられる感触に歪んでいた。


「んッ!あッ……!ふ、ぅ……ん!ゆ、ユー君……チカラ、つよ……」


 なんだこれ。クソ気持ちいい。

 柔らかいのにどっか張りがあって、指を押し返してくる。しかもでかい。そしてデカい。ゆえにデカイ。

 服一枚挟んでいるというのに、これはおかしい。服が間にあってこれなのか。


「…………」


「あ、あのユー君……?あふ、ぅ……手……離して……?」


 潤んだ目でリツィオが下から見上げてくる。

 その下には俺の手でポヨポヨと形を変える軟球。

 なんか妙に……悔しい。いくらでも揉める、と言った手前、気持ちいいなどと認める訳にはいかない。

 いくらでも揉める……いくらでも揉める……。


「んンっ!?あ、はぁん!ダメだってば!ユー君、ゆーくぅんっ!」


 リツィオの甘い声が耳朶を打つ。熱い吐息が、胸を撫でた。

 艶のある表情をしているが、こいつは元は無表情だ。これすらも演技だろ。騙されてはいけない。


「ぅん……っ!ひぅぅんん……!声、出ちゃ……!」


 騙されては――――


「やァん!ユーくんの指ぃっ!ゴツゴツして……っ、あっ、あっ、あはぁぁっ!」


「………………」


「――――いっ……!いつまで揉んでるんですかぁぁぁぁぁぁっ!!」


 はっ……!?

 いつの間にか無心で揉んでいた。危ない危ない。

 リツィオの胸から手を離した。ふぅ……残念……じゃない。別に惜しくなんてない。


「はぁー……っ、はぁー……っ!あ、危なかった……!ユー君……」


「なんでお前が『危ない』んだよ……」


「というかなんでいきなりユージーンさんはいきなり女性の、む、胸を揉みしだいてるんですか!?」


 なんでと言われてもな。

 負けられなかったとしか。


「男の意地、だな」


「欲望の間違いじゃ!?」


 待て待て。こんなこと言ってる場合じゃない。リツィオの胸を揉むために出てきたんじゃないだろ。

 ビクビクと震えているリツィオをどかして、廊下の向こうに異常を探す。

 すると、頬に真っ赤な『紅葉もみじ』をつけたロベルトが、気まずそうに立っていた。


「…………どうしたロベルト、その手形」


「ん、まぁ、ちょっとね……」


 リツィオの方を見て苦笑いするロベルト。

 ふむ?リツィオがロベルトにビンタしたのか……?なんだってまた?


「えーと……それじゃね、ユー君」


「え、あ、おい?」


 行ってしまった。

 妙だな。あんなことしたんだから、何かしらつついてくると思ったんだが……。

 後に残った男3人は、微妙な顔を見合わせた。





「――――で、まぁ素材貰って帰って来る時にさ、廊下の向こうからグラマラスな美女が歩いてくるわけじゃん?当然声をかけるだろ?」


「それを『当然』とするかどうかはさておいて。――それで?」


「『あなたにお届けものです』と言ったんだ」


「頭沸いてんじゃねぇかお前」


「『あなたに笑顔を届けたい。きっとあなたは本当は太陽のような女性だ。何があったかは知らないが、俺を見て笑顔になって欲しい』」


「そんなセリフ聞いたら胸焼けしそうですよ……」


「日の光で溶けて液体化すればいいのに……」


 いつまでも廊下にいて顔を突き合わせていてもしょうがない。ひとまず部屋に入って事情を聞いたのだが……本気で呆れかえる。

 どうにも、帰り際にリツィオに会ったようだ。無表情のあいつを口説いて笑顔にしたかったようだが……。


「んで、俺の笑顔と共に花をプレゼントしたんだが……」


「…………ビンタそれか」


「――――……ああ。とびっきりの笑顔だったよ。わけが分からないよ」


「なにか失礼な事でもしたんじゃないですか?いきなり手を出すなんて」


 問題は口説き文句か。

 いきなりビンタなんかする原因はそれだ。


「お前、砂漠の国に行った経験は?」


「ん?もちろんあるけど?」


「砂漠の民に『太陽のような』なんて言ったらどうなる?」


「そりゃもちろん――――ああ、もしかしてそういうこと?」


「どういうことですか?」


 田中が不思議そうに聞いてくる。

 宇宙に砂漠なんてないから、パッと聞いただけじゃ分からんか。


「気候の落ち着いた国なんかじゃ、太陽は『生命』や『希望』の象徴によく使われる。だが、逆に日光が直接的な死の原因になりうる砂漠の国なんかじゃ、その印象は全くの逆になる」


「逆……?」


「冷徹な摂理の象徴、無慈悲な死の執行者……。まぁそんなとこだ。リツィオは砂漠に住まうダークエルフの女王。それに対して『太陽のような』などと言ったら――どう取られる?」


「…………冷たい女性ヒト?」


「はぁ……そういうこと、だろうなァ……。しくじったぜ……」


 長椅子に横になったロベルトが、大仰に顔を覆って悲しみを表す。

 別にお前のナンパが失敗しようが成功しようが対して興味はないが、いつまでもそうしていられると邪魔だ。瀬奈たちが帰って来るまでにどかしておくか。


「――と、言うか、ユージーンさん?女王様と知ってて胸を揉んだんですか……!?」


「ああ、それな。俺にビンタしておきながら、ユージーンには無抵抗でされてたからすげぇショックだったぜ」


「あー、うるせーうるせー」


「なぁなぁ、どんな感触だった?傍目から見ても手に収まりきれてなかったし、やっぱり気持ち良いのか?」


「ちょ、ロベルトさん!?何を聞いているんですか!?」


「良いだろ?タナカだって気になるだろぉ?男なんだしさ。そういえば最近はご婦人方の中じゃ評判上がってきてるぜ?そろそろお気に入りの一人や二人、デキる頃だろ」


「なっ!?べ、べべっつに僕は……!」


 なんかロベルトが妙にノリ気になってきたな。

 いつの時代も、どこの国でも若い男が話す馬鹿話はこんなものか。


「ユージーンもさ、あれだけ可愛い子が近くにいるんだし、手を出した子もいるだろ?」


「いねぇよ」


「今さっきまさに手を出して巨乳を揉みしだいてただろ?リツィオさん、って言ったか?どうなんだよそこのところ。それともコナミちゃんみたいな子供体型の方がお好みか?」


「揉む面積すらないのにどこを揉めと――――」


「――――だぁーれが、子供体型おこさまやてぇ……?」


「「「!?」」」


 男同士の猥談にそぐわぬ声が聞こえてきて、全員びくりと身をすくめる。

 いつの間にか開いていた扉からは、青筋を浮かべたこなみが姿を現すところだった。

後ろには抜き身の剣を構えた瀬奈もいる。


「ユージーンさん……?先ほど何やら不埒な行為をなされたというのが聞こえてきましたが、どういうことでしょうか……?」


 え?な、なんでだ?なんで瀬奈はこんなに怒ってんだ?

 いや、こなみは分かる。だが、瀬奈が怒る理由がどうしても分からない。


「お、俺が何したって瀬奈には関係ないだろう」


「いいえ。不健全な行為は例え誰であろうとダメです!兄の友人だけあって、ユージーンさんも要らぬ煩悩が多い方のようですね……!」


 兄と同じように……?どういうことだ?

 などと考えている間に、二人の修羅が近づいて来る。距離が縮まるほどに悪寒が強くなり、冷や汗が背を流れた。


「祐次兄さんも、もうひとりの兄も、男の方はどうしてもそういうモノを隠したがるようですね。今までは遠慮していましたが、誰かに被害が出たとあっては黙っていられません」


「え、あ、いや、瀬奈、ちょっと待――――」


「お仕置きです!」


「ちっぱいで何が悪いんやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「小さいと無いは違――――アッーーーーーーーーーーー!!」


「僕は関係無いで――――あ、ダメ?そうですかでもお願いですから痛くしないでくださ――――」


 ゴスッ!





 ――。

 ――――……。

 ――――………………。


「――――というわけで、だ。解体場での様子を見るに貴様らには自立心が足りない」


「ユージーンさん、首まだ曲がっとるで」


「ん?『ゴキグギッ!』――と、これで良いか?こないだっから妙に首が傷みやすくてな」


「『痛みやすくて』やろ。なんや、ゾンビみたいやな」


「く、そ……なんであれだけ喰らってユージーンだけピンピンしてんだよ……」


「数十発殴打されて、首が曲がっただけで済んでるんですから、完全に別の生き物ですよ……」


 冷静になってみれば、ヒヨっ子どもに俺をどうこうできる訳もなく。

 瀬奈とこなみの気が済んだ頃には死に体のロベルトと田中だけが床に這っていた。


「話を戻すが、そろそろお前らを個別に行動させようと思ってな」


「良いんですか?また狙われるかもしれませんし……」


「俺が休んでるあいだに好き勝手出歩いておいて何言ってんだ、瀬奈」


「言うたかて結構急やからな。ウチは出歩けるのは嬉しいけど、やっぱり戸惑うて」


 まぁ。今までさんざん禁止してきたしな。ソレを手のひら返しされたら混乱もするか。とはいえ、事態は急を要する。


「どうにもお前ら、人に世話されすぎたせいか自分らで厄介事を解決しようとする気がなくなってきてるようだな。下手をすれば死に至るぞ」


「めんどくさがりをどうしたら死に直結できるんですか……」


「危なくなっても最後の最後で誰かが助けてくれる、という甘えを、無意識の内に抱くようになる。事実、こないだちょっと困ったら『どうして自分が』みたいな泣き言漏らしてただろ」


「う……」


 思い当たるフシが有るのか、全員微妙な顔になった。

 俺のさしあたっての目的は、こいつらが戦えるようにすることだ。一人前の戦士としてでもいいし、王族を陰で操る参謀でもいい。

 だが、無意識に甘えを抱えて生きていけるほど、あまっちょろい世界ではない。文字通りの死活問題だ。


「別にパーティーを作ったり、ココに居るやつと連携してもいい。肝心なのは自分から動いて始末を付けることだ。誘拐されようがモンスターの巣に迷い込もうが、自分でどうにかしろ。俺は手助けしない」


「ちょっとぐらいのお助けなら……」


「ダメだ。その甘えを取り去るための措置なんだから文句言うな」


「うへーい……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ